感情・行動

『わがまま』と自己主張は何が違う?子どもの育ちから考える

「まだ遊びたい」

「自分でやる」

「それは嫌」

子どもが強く要求したり、大人の言うことを拒んだりすると、「これは自己主張として受け止めたほうがいいのか、それともわがままなのか」と迷うことがあります。

子どもの思いを大切にしたい一方で、何でも要求どおりにしてよいわけではありません。
周囲への影響や生活上のルールも気になります。

ただし、「わがまま」と自己主張の間には、誰にでも当てはまる明確な境界線があるわけではありません。
同じ「嫌」という言葉でも、その背景や表し方、子どもの発達段階、置かれている状況によって意味が変わるからです。

大切なのは、子どもを「わがままな子」と決めつけることではなく、その行動をいくつかの要素に分けて見ることです。


この記事で分かること

  • 「わがまま」と自己主張を考えるときの基本的な違い
  • 幼児期の要求や拒否が強く見えやすい理由
  • 子どもの行動を見るときの5つの手がかり
  • 気持ちを受け止めながら境界を伝える方法
  • 自己主張に関する研究で分かっていることと限界

「わがまま」かどうかは、従ったかどうかでは決まらない

「わがまま」と自己主張は、同じ基準で分けられる言葉ではありません。

自己主張とは、自分の願い、拒否、好み、考え、境界などを、言葉や行動で周囲に表すことです。

一方の「わがまま」は、子どもの発達段階や心理状態を示す診断名ではありません。
多くの場合、その行動が周囲の都合や期待と合わなかったときに、大人がどのように受け取ったかを含む言葉です。

たとえば、出発の時間に子どもが「まだ遊びたい」と言ったとします。

大人にとっては困る要求でも、子どもの側では、楽しい遊びを続けたいという意思を表したものです。
この時点で「わがまま」と決めることはできません。

もちろん、自己主張であれば、どのような行動も認められるわけではありません。
遊びたい気持ちを言葉で伝えることと、帰ることを止めようとして人をたたくことは分けて考える必要があります。

つまり、

  • 思いや要求を持つこと
  • それを表すこと
  • どのような方法で表すか
  • 最終的に要求が通るか

は、それぞれ別の問題です。

子どもの気持ちは受け止めながら、危険な行動や他者を傷つける行動には境界を示すことができます。

自己主張はなぜ子どもの育ちに必要なのか

自己主張は、単に自分の要求を通す力ではありません。

「自分はこれが好き」「これは嫌だ」「自分で試したい」という感覚を持ち、それを周囲に伝える力です。
自分の身体や気持ちを守り、助けを求め、他者と相談するための土台にもなります。

幼児期には、生活のさまざまな場面で自己主張が見られるようになります。

  • 着る服を選びたがる
  • 食べたいものや食べたくないものを伝える
  • 大人の手伝いを断り、自分でやろうとする
  • 遊びを終えることに抵抗する
  • 友達に「貸したくない」「今使っている」と伝える

こうした姿は、大人の指示に従わなくなったという変化だけではありません。
自分の意思を持ち、それを外へ表すようになった変化でもあります。

2歳児を対象にした研究では、「自己主張」「大人の指示に従う行動」「直接的に反抗する行動」は、異なる行動として分析されています。

また、幼児期から5歳頃までを追った研究では、年齢が上がるにつれて、直接的な反抗や受け身の抵抗が減り、拒否の言葉や交渉を使う姿が増えていました。

自己主張をなくすことではなく、より安全で相手に伝わりやすい表し方へ育てていくことが大切だと考えられます。

2~5歳の要求や拒否が強く見えやすい理由

2~5歳頃は、「こうしたい」という意思がはっきりする一方で、その思いを状況に合わせて調整する力は発達の途中にあります。

「遊びたい」という気持ちは強く持てても、「もう出発する時間だから終わりにする」「続きは明日にする」と自分で切り替えることは、まだ難しい場合があります。

思いに言葉が追いつかないことがある

言葉が増えてくる時期でも、複雑な気持ちや理由をすべて説明できるとは限りません。

「せっかく作ったものを壊したくない」「次に何をするのか分からなくて不安」「自分で終わりを決めたかった」といった思いが、「嫌」「まだ」「帰らない」という短い言葉や、泣く、物をつかむ、動かなくなるといった行動で表れることがあります。

幼児期の言語と自己調整の発達には関連があるとする研究もあります。
ただし、言葉が増えれば、すぐに感情や行動を調整できるわけではありません。

言葉の理解、気持ちの強さ、これまでの経験、周囲の状況などが重なって、そのときの行動として表れます。

切り替えや我慢に必要な力は発達の途中にある

行動を止める、別のことへ注意を移す、先の予定を思い出すといった力も、幼児期に発達していきます。

そのため、大人には小さな変更に見えることでも、子どもにとっては大きな中断になることがあります。

特に、疲れている、空腹である、眠い、周囲の刺激が多い、次の予定が分からないといった状況では、普段より強く拒否することがあります。

これは、すべてを「発達だから仕方がない」と済ませるという意味ではありません。子どもが現在使える力を見極め、必要な助けを考えるための視点です。

年齢だけで「わがまま」と決めることはできない

自己主張の表し方には、おおまかな発達上の変化があります。

1~2歳頃は、表情、声、身体の動き、物をつかむ行動などによって意思が表れやすい時期です。

2~3歳頃になると、「嫌」「自分で」といった言葉が増えます。

4~6歳頃には、自分なりの理由を説明したり、代わりの案を出したり、相手との折り合いを探したりする姿が少しずつ見られるようになります。

ただし、これは全員が同じ順序と速さで進むという年齢表ではありません。

言語発達、気質、感覚の特徴、これまでの経験、その日の体調、相手との関係によって表し方は変わります。
家庭では強く主張するけれど園では控える子もいれば、その反対もあります。

「もう4歳だから我慢できるはず」「2歳だから何をしても仕方がない」と、年齢だけで判断することは避けたほうがよいでしょう。

「わがまま」と決める前に見る5つの手がかり

子どもの要求や拒否に困ったときは、次の5つの視点に分けて考えると、その行動の意味を捉えやすくなります。

1.何を求め、何を守ろうとしているか

表面上の言葉だけでなく、その奥にある目的を考えます。

「帰らない」の背景には、遊びを続けたい、途中のものを完成させたい、次の予定が分からない、自分で終わりを決めたい、といった複数の可能性があります。

大人が背景を一度で正しく当てる必要はありません。
「何か理由があるかもしれない」と考えるだけでも、性格への決めつけを避けやすくなります。

2.どのような方法で表しているか

同じ要求でも、言葉で伝える、代わりの案を出す、泣く、物を投げる、人をたたくなど、表し方は異なります。

思いを持つこと自体を否定せず、危険な行動には境界を示します。

「遊びたいって言っていいよ。でも、たたくことは止めるよ」のように、気持ちと行動を分けて伝えることができます。

3.その子が今使える力はどの程度か

言葉で理由を説明できるか、予告を理解できるか、気持ちが高ぶったときに大人の言葉を聞けるかを見ます。

まだ使えない力を前提に「きちんと説明しなさい」「自分で落ち着きなさい」と求めても、うまくいかないことがあります。

言葉を補う、選択肢を少なくする、落ち着くまでそばにいるなど、発達に合った支えが必要です。

4.どのような場面で起きているか

空腹、眠気、疲れ、急な予定変更、見通しのなさ、刺激の多さなどが関係していないかを確認します。

また、大人の要求が子どもに理解できる内容だったか、急すぎなかったか、守る必要のあるルールだったかも振り返ります。

子どもの行動だけを見るのではなく、その行動が起きた環境も含めて考えます。

5.頻度・強さ・回復の様子はどうか

一度の強い拒否だけで、その子の性格を判断することはできません。

どのくらいの頻度で起きるか、危険な行動があるか、どのくらい続くか、落ち着いた後にやり取りができるか、家庭や園での生活にどの程度影響しているかを見ます。

危険な行動が繰り返される、長時間落ち着けない状態が続く、家庭や園での生活への影響が大きいなど、対応に困る状態が続く場合は、「わがままかどうか」を判断し続けるより、園や地域の子育て相談、保健師などと状況を共有する方法があります。

相談は診断を求めるためだけではありません。子どもが過ごしやすい環境や関わり方を一緒に整理するためにも利用できます。

気持ちを受け止めることは、要求をすべて通すことではない

子どもの主体性を尊重するというと、「子どもの好きなようにさせること」と受け取られることがあります。
しかし、この二つは同じではありません。

子どもの意思を受け止めながら、大人が必要な境界を示すことはできます。

たとえば、「もっと遊びたかったんだね。でも、今日はもう帰る時間だよ」という伝え方では、「遊びたい」という気持ちは受け止めていますが、「帰る」という決定まで変えているわけではありません。

こども家庭庁の保育実践事例集でも、子どもの主体性を尊重することは、大人が何も働きかけず、単に好きなように遊ばせておくことではないと説明されています。

安全、健康、他者の身体や持ち物、生活上必要な予定などには、大人が責任を持って境界を示す必要があります。

その際、子どもを恥じさせたり、存在そのものを否定したりせず、何ができて何ができないかを具体的に伝えることが大切です。

境界やルールを伝えながら自己主張を育てる関わり

子どもが強く要求している場面では、次のような順序が考えられます。

まず、意思や気持ちを短く言葉にする

「まだ遊びたいんだね」

「自分でやりたかったんだね」

「それは使ってほしくなかったんだね」

長い説明を始める前に、子どもが伝えようとしていることを短く表します。
これは要求を認める約束ではなく、「あなたの思いに気づいている」と伝える関わりです。

変えられない境界を簡潔に伝える

「遊びたいね。でも、今日はもう帰るよ」

「嫌だったね。でも、人を押すことは止めるよ」

感情が高ぶっているときは、長い説得や何度もの質問が負担になることがあります。
必要な境界と短い理由を、できるだけ落ち着いて伝えます。

選べる部分があれば、小さな選択肢を示す

「自分で靴を履く?手伝ってもらう?」

「歩いて帰る?手をつないで帰る?」

すべてを子どもに決めさせるのではなく、大人が決めた枠の中に、子どもが参加できる部分を残します。

ただし、選択肢を出せば必ず納得するわけではありません。選べないほど気持ちが高ぶっているときは、安全を確保し、落ち着くことを優先します。

落ち着いた後で、別の表し方を支える

その場で泣き止ませることだけを目標にせず、落ち着いた後に、「まだ遊びたいって言えたね」「次は『あと1回したい』って相談してみようか」と、伝えられた部分を確認し、より安全な表し方を知らせます。

自己主張は、抑え込むか自由にさせるかの二択ではありません。
大人とのやり取りを通して、伝え方や折り合いのつけ方を学んでいくものです。

場面で考える:「まだ遊ぶ」と出発を拒むとき

出発の時間になっても、子どもが「まだ遊ぶ」と遊具から離れない場面を考えてみます。

大人から見ると、何度伝えても従わない困った行動です。しかし、子どもの側には、

  • 遊びが途中になっている
  • 楽しい時間を自分で終えたくない
  • 出発後の予定が分からない
  • 疲れて切り替える力が残っていない
  • 以前は延長できたため、今回もできると思っている

といった背景が考えられます。

余裕があれば、事前に「あと1回で終わり」「時計の針がここに来たら出発」と予告できます。

それでも拒否するときは、「まだ遊びたかったね」と気持ちを受け止めたうえで、「今日は出発する」と境界を伝えます。

その後、「自分で遊具を片付ける」「大人と一緒に片付ける」など、子どもが参加できる部分を示すこともできます。

それでも泣いたり動けなかったりすることはあります。関わりが適切なら、子どもが必ずすぐ納得するわけではありません。

大人が境界を維持しながら、子どもが悔しさや悲しさを通り抜けるのを支える場面もあります。

この例は、すべての子どもに同じ対応が有効だと示すものではありません。
その子が何を理解でき、どのような支えがあると動きやすいかによって、方法を調整する必要があります。

研究から分かっていること、まだ分からないこと

幼児期の研究では、自己主張や一定の拒否は、自律性が育つ過程の一部として捉えられています。

また、子どもの視点を認め、理由を伝え、参加や選択の余地を残す関わりは、ルールを自分のものとして受け入れていくことと関連しています。

一方で、「この対応をすれば将来必ず自己調整が高くなる」とまで断定することはできません。

これまでの研究には、小規模な観察研究、母子だけを対象とした研究、欧米で行われた研究が多く含まれます。
子どもの特性が親の対応に影響するという逆方向の関係も考えられます。

また、日本では、周囲との調和や集団での協力が重視される場面があります。
海外研究における「自律性」を、何でも一人で決めることや、自分の希望を優先することとして、そのまま当てはめることはできません。

日本の母親95人を対象とした1997年の研究でも、自己主張や拒否、自律性の意味を、欧米の理論からそのまま移すことの難しさが指摘されました。

ただし、この研究は対象となった家庭と調査時期が限られています。
現在の日本の保護者全体を説明する結果として使うことはできません。

自律性とは、他者から独立することだけではなく、自分なりに納得し、意思を持って行動することです。
自己主張と協調は反対の力ではなく、どちらも人との関係の中で育っていきます。

まとめ

子どもの「嫌」「まだ遊びたい」「自分でやる」は、大人を困らせるための言葉とは限りません。
自分の願いや意思を持ち、それを表そうとしている姿でもあります。

ただし、自己主張であれば、どのような行動も認めるという意味ではありません。

大切なのは、

  • 子どもの思いや目的を見る
  • 気持ちと行動を分ける
  • 発達段階とその場の状況を考える
  • 危険や他者への侵害には境界を示す
  • 言葉や交渉による表し方を支える

という視点です。

「わがままな子」と性格を決めつけるのではなく、「今、この子は何を伝えようとしているのだろう」と行動を読み直す。

そのうえで、受け止められる思いと、変えられない境界をそれぞれ伝えていくことが、自己主張と協調の両方を育てる関わりにつながります。

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