「まだ遊びたい」
「自分でやりたい」
「それは嫌だ」
子どもの要求が通らなかったとき、激しく泣いたり、叫んだり、床に寝転んだりすることがあります。
物を投げる、周りの人を叩くといった行動が加わることもあります。
何を言っても届かないように見えると、大人は「どうしたら泣き止むのだろう」「対応を間違えたのではないか」と戸惑います。
人の目がある場所では、早く収めなければならないという焦りも生まれます。
しかし、癇癪は一つの原因だけで起こるものではありません。
自分の意思が育つ一方で、強い感情を言葉にしたり、気持ちを切り替えたりする力は、まだ発達の途中です。
そこへ疲れや空腹、刺激の多さ、予定の変更などが重なることもあります。
大切なのは、癇癪をすぐに「わがまま」「しつけ不足」と判断せず、子どもの中で何が起きているのかを考えることです。
この記事で分かること
- 子どもの癇癪が起こる発達上の背景
- 癇癪の最中に優先したい安全と関わり方
- 子どもが落ち着いた後にできること
- 癇癪を繰り返すときに観察したいポイント
- 相談を検討する目安
子どもの癇癪とはどのような状態か
「癇癪」は、医学的な診断名ではありません。
一般には、子どもの感情が急激に大きくなり、泣く、叫ぶ、体を反らす、床に伏す、物を投げる、叩くといった形で表れる状態を指します。
現れ方や強さは子どもによって異なります。
同じ子どもでも、場所、時間帯、体調、相手、その日の出来事によって変わります。
就学前の子ども1,490人を調べたWakschlagらの研究では、多くの子どもに、ときどき癇癪が見られました。一方で、起こる場面が予測しにくい、長引く、物や人への激しい行動を伴うといった特徴は、一般的な感情表出とは分けて考える必要があると報告されています。
つまり、癇癪があるか、ないかだけでは、子どもの状態を十分に理解できません。どのような場面で起こり、どのように表れ、どのように落ち着いていくかを見る必要があります。
癇癪には「怒り」と「つらさ」が重なっている
癇癪は、怒りだけでできているとは限りません。
18~60か月の子どもの癇癪を調べたPotegalらの研究では、叫ぶ、蹴る、押すなどの怒りに関係する行動は、癇癪の比較的早い段階で強くなり、その後しだいに弱まる傾向が示されました。
一方、泣く、ぐずる、慰めを求めるといった苦痛の表出は、異なる経過をたどっていました。
すべての癇癪が同じ順序で進むわけではありませんが、怒っているように見える子どもの中に、悔しさ、悲しさ、不安、助けてほしい気持ちが重なっている可能性があります。
子どもは、大人を困らせるためだけに癇癪を起こしているとは限らないのです。
癇癪が起こる背景は一つではない
同じように泣き叫ぶ姿が見られても、その背景は一人ひとり異なります。いくつかの要素が重なっていることも少なくありません。
「やりたい」という気持ちと現実がぶつかる
1~2歳ごろになると、子どもは自分の意思をはっきり表すようになります。
「自分でやりたい」「これがほしい」「まだ終わりたくない」という気持ちは、自我や自己主張が育っている表れでもあります。
しかし、子どもの希望がいつも実現するわけではありません。
危険なことは止める必要があり、食事や外出などの予定によって遊びを終えなければならないこともあります。
強い「やりたい」という気持ちと、「できない」「終わらなければならない」という現実がぶつかったとき、そのずれが大きな感情として表れることがあります。
これは、子どもがルールをまったく理解していないという意味ではありません。
頭では言われたことが少し分かっていても、その場で気持ちと行動を調整することは別の力です。
気持ちを十分に言葉で伝えにくい
「これが嫌だった」「自分でやりたかった」「急に変わって不安だった」と説明できれば、大人に助けを求めやすくなります。
ところが幼い子どもは、感じていることに合う言葉をまだ十分にもっていません。言葉を知っていても、感情が大きくなった瞬間に使えるとは限りません。
12~38か月の子どもを対象としたManningらの研究では、話せる言葉が少ないことと、頻度や激しさを含む癇癪の強さとの間に関連が見られました。
また、18~48か月を追跡したRobenらの研究では、言葉の発達と、その後の怒りの表し方や気をそらす方略、援助を求める行動との関連が報告されています。
ただし、これらの研究から「言葉が少ないから癇癪が起こる」と単純に結論付けることはできません。気質、感情調整、環境など、言葉と癇癪の両方に関係する要素がある可能性もあります。
言葉は、癇癪を考えるうえでの一つの手がかりです。
感情を調整する力は発達の途中にある
大人でも、疲れているときや予想外の出来事が続いたときには、感情を落ち着かせることが難しくなります。
幼い子どもの場合は、感情の高まりを弱める、注意を別のものへ移す、先の見通しをもつ、助けを求めるといった力そのものが、まだ育っている途中です。
そのため、感情が大きくなったときに、子どもだけの力で落ち着くことを求めても難しい場合があります。
子どもの感情調整は、最初から一人でできるようになるものではありません。
大人が安全を守り、気持ちを言葉にし、落ち着くための方法を外側から支える経験を重ねながら、少しずつ自分で使える力になっていきます。
このような支えは「共同調整」と呼ばれます。
共同調整は、大人が子どもの感情をすぐに消すことではありません。
感情がある状態でも安全に過ごし、やがて落ち着きを取り戻せるように支える関わりです。
体調や環境が重なることもある
癇癪が起きたときは、直前の出来事だけでなく、その日の状態や環境も振り返ってみます。
たとえば、次のような条件です。
- 睡眠が十分でなかった
- 空腹や喉の渇きがあった
- 体調がいつもと違った
- 音、人、光などの刺激が多かった
- 楽しい活動を突然終えることになった
- 予定が変わり、次に何をするか分かりにくかった
- 大人からの指示が続いた
- 慣れない場所や人の中で緊張していた
睡眠を制限した幼児の感情反応を調べた小規模な実験では、睡眠が不足した条件で、難しい課題に対する否定的な感情が増えました。
ただし、この研究は癇癪そのものを調べたものではなく、「睡眠不足なら必ず癇癪が起こる」と言えるわけではありません。
体調や環境は、すべての子どもに共通する原因一覧ではなく、その子どもが感情を調整しにくくなる条件を探すための観察項目です。
癇癪は何歳ごろに多いのか
癇癪は、一般に1歳代から目立ち始め、2~3歳ごろに多く見られます。
この時期は、自分の意思や行動範囲が大きく広がる一方で、言葉、見通し、抑制、切り替えの力がまだ追いつきにくい時期です。
3~4歳ごろになると、使える言葉や経験が増え、気持ちを別の方法で表せる場面も増えていきます。
ただし、友達関係や集団のルールなど、新しい葛藤も生まれます。
家庭では落ち着いていても、集団場面で感情が大きくなることもあれば、その逆もあります。
5~6歳でも、疲労、予想外の変更、強い悔しさなどが重なれば、癇癪のような状態になることはあります。
複数の研究では、年齢とともに癇癪の頻度が減る傾向が報告されています。
しかし、変化の時期や経過には個人差があります。
「何歳までなら問題がない」「〇歳を過ぎたら異常」と年齢だけで線を引くことはできません。
年齢に加えて、癇癪の前後、回復の様子、安全、日常生活への影響を見ることが大切です。
癇癪の最中に優先したいこと
癇癪が始まると、大人は理由を聞いたり、正しい行動を説明したりしたくなります。
しかし、感情が非常に大きくなっている最中は、子どもが長い説明を聞き、新しいことを学ぶのが難しい状態です。
まずは、その場を安全に通り抜けることを優先します。
最初に安全を確保する
道路、階段、駐車場など危険な場所では、安全な場所へ移動します。
投げると危険な物や、ぶつかるとけがをする物があれば遠ざけます。
子どもが人を叩こうとしたときは、必要な範囲で動きを止め、距離を取ります。
このとき、感情と行動を分けて伝えます。
「嫌だったね。叩くのは止めるよ」
「怒っているね。物は投げないよ」
怒ること自体を禁止するのではなく、危険な行動には境界を示します。
言葉や刺激を増やしすぎない
感情が高まっている子どもに、何度も質問したり、同じ指示を繰り返したりすると、刺激がさらに増えることがあります。
「どうしてそんなことをするの」
「泣いても分からないよ」
「いい加減にしなさい」
と説明や叱責を重ねるより、短く、落ち着いた言葉を使います。
「ここで待っているよ」
「落ち着いたら話そう」
「安全なところへ行こう」
大人の声の大きさや速さを落とすことも、子どもの周囲の刺激を減らす一つの方法です。
ただし、必ず抱きしめなければならないわけではありません。
触れられることで落ち着く子どももいれば、感情が高まっているときには距離を求める子どももいます。
子どもの安全を確保したうえで、近くにいる、少し離れて見守るなど、その子どもが受け入れやすい距離を探します。
受け止めることと要求を通すことは違う
子どもの気持ちを受け止めると、癇癪を認めることになるのではないかと心配になることがあります。
しかし、感情を受け止めることと、要求をすべて通すことは同じではありません。
「まだ遊びたかったね」と気持ちを言葉にしながら、「今日は帰るよ」という予定は変えないことができます。
「ほしかったね」と伝えながら、危険な物は渡さないこともできます。
子どもの感情は存在してよいものとして扱い、必要な境界は静かに保つ。
この二つを分けて考えることが大切です。
「無視すればよい」とは一律に言えない
癇癪への対応として、「反応すると癇癪が増えるので、無視すればよい」と説明されることがあります。
しかし、すべての癇癪が大人の注目を得るために起きているわけではありません。
悔しさ、疲労、不安、言葉にできない要求など、背景はさまざまです。
20~43か月の子ども94人を1年間追跡したMoらの研究では、つかむ、怒鳴る、罰するなどの強制的な対応が多いことや、対応の一貫性が低いことが、その後に観察された癇癪の強さの増加と関連していました。
一方、「無視する」という対応が、その後の改善を予測するものでも、ありませんでした。
ただし、これは限られた人数の親子を特定の課題場面で調べた研究です。
この結果だけで、「ある対応」がすべての癇癪の原因になるとはいえません。
危険な行動には対応し、感情の存在は否定せず、説明や交渉を増やしすぎないという整理が必要です。
子どもが落ち着いた後にできること
子どもが落ち着きを取り戻した後は、次の場面に備えるための大切な時間です。
ただし、落ち着いた直後に長い説教や詳しい反省を求める必要はありません。
まずは水分を取る、静かな場所で休む、大人と普段のやり取りに戻るなど、心身を整えます。
そのうえで、起きたことを短い言葉で振り返ります。
「まだ遊びたかったんだね」
「急に終わると言われて、嫌だったね」
「言いたかったけれど、うまく言葉にならなかったね」
大人が言葉を添えることで、子どもは自分の体験と感情を少しずつ結び付けていきます。
次に、同じような場面で使える方法を一つか二つ示します。
- 「まだ遊びたい」と言う
- 大人に「手伝って」と頼む
- 次の予定を絵や時計で確認する
- 静かな場所へ移動する
- 水を飲む
- いったん大人のそばで休む
たくさんの方法を一度に教えるより、子どもの発達や場面に合うものを絞ります。
人を叩いたり物を投げたりした場合も、まず感情が落ち着いてから、安全や相手への影響を短く確認します。
謝罪の言葉だけを急いで言わせるのではなく、相手の様子を見る、倒れた物を戻すなど、できる範囲で関係を整える経験につなげます。
癇癪を繰り返すときに観察したいポイント
癇癪が続くと、「何が悪いのだろう」と原因を一つに絞りたくなります。
しかし、子どもの行動は、複数の条件が重なって起きていることがあります。
次のような点を、責任を探すためではなく、子どもが負担を感じやすい条件を知るために振り返ります。
癇癪の前
- 何をしていたか
- 何を終えることになったか
- 予定の変更があったか
- どのような言葉をかけられたか
- 睡眠、食事、体調はどうだったか
- 人や音などの刺激が多くなかったか
癇癪の最中
- 泣く、叫ぶ、床に伏すなど、どのような表れ方だったか
- 人や物、自分を傷つける行動があったか
- 大人の声かけや接近で強くなったか
- 距離を取る、静かな場所へ移ることで変化したか
癇癪の後
- どのように落ち着いたか
- 大人の助けを受け入れられたか
- 普段の遊びや生活へ戻れたか
- 疲れ切って長時間動けなくなることがないか
また、家庭と園では姿が異なることがあります。
家庭だけで起きるからといって、家庭の関わり方が悪いとは限りません。
安心できる場所で感情が表れやすい、集団生活で力を使った後に疲れが出るなど、いくつかの可能性があります。
反対に、園だけで起きる場合も、集団の音や予定、友達との関係、切り替えの回数など、その環境で負担になっている条件を考えます。
家庭と園で情報を共有するときは、「癇癪を起こした」という結果だけでなく、前後の状況や落ち着いた方法も伝えると、共通する手がかりを見つけやすくなります。
研究から分かっていることと、まだ分かっていないこと
これまでの研究から、癇癪は幼児期に広く見られる一方、頻度だけでなく、起こる場面、持続、回復、攻撃や自傷、安全、生活への影響を組み合わせて見る必要があることが分かっています。
言葉や感情調整の発達、大人の関わりとの関連も報告されています。
一方で、癇癪研究には限界があります。
多くの研究は、保護者が子どもの癇癪を振り返って回答する方法を用いています。
何を癇癪と捉えるか、どの程度を「激しい」と感じるかには違いがあります。
また、主要な研究の多くは米国や欧州で行われています。
感情の表し方への考え方、家庭生活、保育環境は、日本と同じではありません。
特定の声かけや一つの対応法を使えば、すべての子どもの癇癪が減ると確認されているわけでもありません。
子どもの発達、癇癪の背景、場面、安全性に応じて関わり方を考える必要があります。
研究で示された平均的な傾向を、個々の子どもの合否判定に使わないことが重要です。
相談を検討したいのはどのようなときか
癇癪があるという理由だけで、すぐに特別な問題があるとは言えません。
一方で、次のような状態が続く場合は、家庭や園だけで抱えず、相談を検討してよいでしょう。
- 子ども自身や周囲の人がけがをする危険がある
- 自分を強く叩く、頭を打ち付けるなどの行動が繰り返される
- 感情が高まると、長い時間をかけても日常の状態へ戻りにくい
- 家庭、園、外出先など複数の場面で、生活への大きな影響が続いている
- 癇癪以外にも、言葉、生活、遊び、人との関係などで心配が重なっている
- 子ども自身が強くつらそうにしている
- 保護者や保育者だけで安全を守り、対応を続けることが難しくなっている
相談では、病名を見つけることだけが目的ではありません。
子どもが負担を感じやすい条件を整理し、生活や環境を整える方法を一緒に考えることもできます。
市区町村の子育て相談窓口、保健センター、地域子育て相談機関、かかりつけの小児科など、まずは心配事を話してみてください。
まとめ
子どもの癇癪は、自分の意思や感情が大きく育つ一方で、言葉、見通し、切り替え、感情調整などの力がまだ発達の途中にある時期に現れやすい姿です。
原因は一つではありません。発達、言葉、体調、環境、予定、人との関係などが重なっていることがあります。
癇癪の最中は、子どもに正しい行動を教え込むことより、安全を守り、刺激や言葉を増やしすぎず、感情の高まりが下がるのを支えることを優先します。
気持ちを受け止めることと、危険な行動やすべての要求を認めることは同じではありません。
感情には言葉を添え、必要な境界は静かに保つことができます。
そして、子どもが落ち着いた後に、気持ちを言葉にし、次に使える表現や方法を少しずつ伝えていきます。
目に見える激しい行動だけで判断せず、その前後に何があり、子どもが何に困っていたのかを考えることが、癇癪の奥にある育ちを読みとく第一歩になります。
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参考文献・出典
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