「もうおしまいだよ」と伝えても、遊びをやめない。
出かける時間になっても動かず、声をかけるほど泣いたり怒ったりする。
保育の場でも、自由遊びから片付け、園庭から室内、昼食から午睡など、活動が変わるたびに時間がかかる子どもがいます。
こうした姿を見ると、「分かっているのに言うことを聞かない」「わがままで切り替えられない」と感じることがあるかもしれません。
しかし、活動を切り替えるには、今していることから注意を外し、次にすることを思い出し、行動を止め、気持ちを整え、新しい行動を始める必要があります。
幼い子どもにとって、これは一つの簡単な動作ではありません。
発達途中にあるいくつもの力を同時に使う、負荷の大きい場面です。
この記事では、子どもが気持ちや行動を切り替えにくい理由を、実行機能、時間感覚、感情、環境という複数の角度から考えます。
この記事で分かること
- 子どもが活動を切り替えるときに使っている力
- 年齢によって切り替え方がどのように変わるのか
- 認知的柔軟性や時間知覚の研究から分かっていること
- 予告、絵カード、タイマーなどを使うときの注意点
- 家庭や保育の場で見直せる環境と関わり方
切り替えられないのは「言うことを聞かないから」とは限らない
大人は、時計や予定表を見ながら、「あと少しで出発だから、今の作業を終えよう」と先の行動を考えられます。
好きなことを中断するときも、終わる理由や再開できる可能性を理解し、自分の気持ちと行動をある程度分けて扱えます。
子どもは、こうした力を発達の途中で身につけています。
そのため、大人の言葉が聞こえていても、内容をすぐに行動へ移せるとは限りません。
とくに、遊びに深く集中しているとき、完成まであと少しのとき、疲れや空腹があるとき、次の活動に不安があるときには、切り替えの負荷が高くなります。
同じ子どもでも、朝は動けるのに夕方は難しい、家庭では切り替えられるのに集団では時間がかかる、といった違いもあります。
したがって、一度の行動だけから「聞き分けがない」「切り替えが苦手な性格」と決めることはできません。
どの活動から、どの活動へ移るときに難しいのか。その日の体調や周囲の刺激はどうだったのか。まずは場面を具体的に見ることが大切です。
切り替えるとき、子どもの中で起きていること
今していることから注意を外す
楽しい遊びに集中している子どもにとって、注意を別の対象へ向けることは簡単ではありません。
大人の声が耳に入っていても、注意の中心が遊びに残っている場合があります。
「聞こえたこと」と「今の行動を止められること」は同じではありません。
何度も呼ばなければ反応しないように見えるときも、無視しているとは限らず、注意を外すまでに時間が必要なことがあります。
次の予定を頭に保つ
活動を切り替えるには、「遊びを片付けたら手を洗う」「靴を履いたら外へ出る」といった次の予定を一時的に覚えておく必要があります。
この働きは、実行機能の一つであるワーキングメモリと関係します。
説明が長かったり、一度に複数のことを求められたりすると、何をすればよいのかが分かりにくくなることがあります。
今の行動をいったん止める
手を動かし続けたい、もう一回試したいという反応を止めるには、抑制の力が必要です。
抑制は、したいことを我慢させるためだけの力ではありません。
状況に合わせて、今の反応を一度止め、別の行動を選ぶための働きです。
新しい行動へ注意を向け直す
認知的柔軟性は、考え方や注意の向け先、行動のルールを状況に合わせて変える力です。
幼児期には大きく発達しますが、課題の複雑さや提示の仕方によって成績が変わります。
つまり、「切り替える力」は子どもの内側に固定された一つの能力ではありません。
何から何へ切り替えるのか、次の行動がどれほど分かりやすいか、周囲にどのような手がかりがあるかによっても表れ方が変わります。
その土台となる実行機能全体の発達については、「実行機能とは?考える・待つ・切り替える力の育ち」で、抑制・ワーキングメモリ・認知的柔軟性の関係から解説しています。
終わることへの感情を受け止める
好きな活動を止めるときには、残念さ、悔しさ、不安、怒りなどが生じます。
作ったものを壊したくない、続きができるか分からない、次の活動が苦手といった事情が隠れている場合もあります。
このとき必要なのは、認知的な切り替えだけではありません。
強くなった感情を、大人の支えを受けながら扱う過程も含まれます。
幼い子どもの自己調整は、最初から一人で完結するものではなく、養育者や保育者との共同調整の中で育っていきます。
年齢によって切り替え方はどう変わるか
1~2歳ごろ
目の前の物や活動に注意が向きやすく、自分のしたいことを止めて次の予定へ移るには、大人の具体的な支えが多く必要な時期です。
言葉で伝えられた予定や抽象的な時間表現だけを手がかりに、次の行動へ移ることは、まだ難しい場合があります。
「あと5分」と言葉だけで伝えるより、片付ける物を一緒に示す、次に使うタオルを見せるなど、目に見える手がかりのほうが伝わりやすいことがあります。
3~4歳ごろ
簡単な予定や生活の順序を少しずつ理解し、言葉や絵を手がかりに行動できる場面が増えます。
一方で、楽しい遊びの途中や感情が高まった場面では、分かっている予定を行動に移せないこともあります。
できる日とできない日があるのは不自然ではありません。
理解が育つことと、あらゆる場面で安定して実行できることの間には距離があります。
5~6歳ごろ
次の予定を見通し、自分で区切りをつけられる場面が増えてきます。
遊びの続き方を相談したり、片付ける順序を考えたりすることもできます。
ただし、就学前だから常に素早く切り替えられるとは限りません。
集団の刺激が多い、疲れている、遊びへの思いが強い、急な予定変更があったなど、状況によっては大人の支えが必要です。
年齢別の説明は、合否を決める基準ではありません。
同じ年齢でも、言葉の理解、感情の強さ、生活経験、環境への感じ方には幅があります。
研究から分かっていること
認知的柔軟性は幼児期に発達する
幼児の認知的柔軟性を調べる代表的な課題に、色と形など、分類のルールを途中で変える「次元変化カード分類課題」があります。
DoebelとZelazoが69報告・426条件をまとめたメタ分析では、3~5歳にかけて課題成績が向上するという頑健な年齢差が確認されました。
一方、課題の示し方やルールの種類など、実験条件も成績に影響していました。
この結果は、幼児期に柔軟性が育つことを示すと同時に、子どもの力が環境や課題設定から独立して表れるわけではないことも示しています。
「変わる」という合図が助けになることがある
Chevalierらは、5歳児を対象に、どの課題をするか示す合図に加えて、「前と同じか、切り替わるか」を知らせる手がかりを提示しました。
その結果、切り替えを直接知らせる手がかりがある条件では、とくにルールを変える試行の成績がよくなりました。
ただし、これはカード分類に近い実験課題での結果です。
家庭や保育の活動移行で、同じ合図を使えば必ずうまくいくと証明した研究ではありません。
それでも、子どもに「何をするか」だけでなく、「今は変わる場面だ」と分かる手がかりを示す考え方にはつながります。
子どもの遅さを、そのまま柔軟性の不足とは言えない
Pengらは、4歳児、6歳児、成人を対象に、視覚と聴覚を使う課題切り替えを調べました。
幼児は成人より全体として反応が遅く、正確さも低い傾向がありましたが、切り替えによって増える処理負担が、年齢の低い子どもほど一貫して大きいとは限りませんでした。
反応が遅いという観察だけで、「切り替える仕組みそのものが弱い」と結論づけることはできません。
言葉の理解、反応速度、課題への慣れなども結果に影響します。
時間の感じ方も発達と状況の影響を受ける
Quらは、中国・北京市の3~5歳児120人を対象に、短い刺激時間を比較する課題を行いました。
年齢とともに正答率が上がり反応時間が短くなった一方、刺激時間の差や感情を表す顔の提示順も結果に影響しました。
この研究で測定されたのは、400~1600ミリ秒程度の刺激を見分ける実験課題です。
日常生活の「あと5分」を理解する力と同じではありません。
時間知覚が幼児期にも発達し、課題や感情の影響を受ける可能性を示す資料として読む必要があります。
研究を日常へ当てはめるときの注意
ここで紹介した研究の多くは、海外の子どもを対象とした実験室課題です。
カードを分類する課題と、好きな遊びをやめて食事や入浴へ移る場面では、感情の強さも周囲の状況も異なります。
研究は、「何歳なら何分で切り替えられる」と決めるための基準ではありません。
子どもの行動を意志や性格だけで説明せず、発達と環境の両方を見るための手がかりです。
切り替えやすい環境のつくり方
難しくなりやすい場面を具体的に見る
まず、「いつも切り替えられない」とまとめず、場面を分けて観察します。
- どの活動を終えるときか
- 次に何をする予定だったか
- 予定は急に変わったか
- 子どもは疲れていたか、空腹だったか
- 周囲の音、人、物は多くなかったか
- 途中の作品や遊びをどう扱ったか
- どのような伝え方をしたか
条件が見えると、子どもだけを変えようとせず、環境側で調整できる点を探せます。
生活の順序をできる範囲で安定させる
「遊んだら片付け、手を洗って食べる」のように、日常の流れがある程度安定していると、子どもは経験から次を予測しやすくなります。
毎日を完全に同じにする必要はありません。
予定が変わるときには、可能な範囲で早めに知らせ、普段との違いを簡潔に示します。
予告は時間よりも行動と結びつける
「あと5分」だけでは、時間の長さや、その後に何をするのかが分かりにくい場合があります。
「この電車を一周させたら終わり」「あと一つ積んだら片付けよう」「砂が下まで落ちたら手を洗う」など、終わりを目に見える出来事と結びつける方法があります。
ただし、何分前に言えば必ず切り替えられるという共通の正解はありません。
予告を受けることで、かえって終わりを意識して不安になる子どももいます。
反応を見ながら調整します。
次にすることを見える形にする
実物、写真、絵カード、簡単な予定表などは、言葉だけで覚えておく負担を減らす助けになります。
大切なのは、道具を出すこと自体ではなく、子どもが意味を理解できるよう一緒に確認することです。
表示が多すぎると、かえって何を見ればよいか分からなくなる場合もあります。
遊びを「消さずに終える」方法を考える
作品を写真に残す、途中の積み木を専用の場所へ置く、続きができる時間を伝えるなど、「終わり=すべて失う」にならない工夫があります。
必ず再開を約束できないときは、できない約束をするのではなく、「今日はここまで」「また積み木を出せる日に作ろう」と分かる範囲で伝えます。
小さな選択を残す
活動を終えるかどうかを選べない場面でも、「赤い箱と青い箱、どちらから片付ける?」「タオルを持って行く? 大人と一緒に持つ?」など、方法を選べる場合があります。
選択肢を増やしすぎると決めにくくなるため、少数の具体的な選択肢に絞ると、分かりやすい場合があります。
感情が残っていても次へ進めるよう支える
「まだ遊びたかったね」「壊したくなかったね」と、子どもの気持ちを短く言葉にします。
受け止めることは、要求をすべて通すことではありません。
感情が落ち着くまで、次の行動を始められないとは限りません。
泣いたり怒ったりしていても、大人の支えを受けながら次へ移れることがあります。
大人がそばで一つずつ行動を示し、必要なら一緒に動くことも共同調整の一部です。
声かけが増えすぎるときに見直すこと
子どもが動かないと、大人の言葉は増えやすくなります。
「片付けて」「もう時間だよ」「何回言ったら分かるの」「早くして」と続けているうちに、どの言葉が重要なのか分かりにくくなることがあります。大人の焦りが伝わり、子どもの感情がさらに高まる場合もあります。
そのようなときは、声の回数を増やす前に、次の点を見直します。
- 子どもの近くへ行き、注意がこちらへ向いてから伝えたか
- 一度に一つの行動を短く伝えたか
- 言葉以外の手がかりを使えるか
- 終わりまで少し待てる場面か
- 大人の都合で急に予定を変えていないか
- 次の活動に苦手さや不安がないか
同じ言葉を繰り返すより、伝えたあとに処理する時間を取るほうがよい場合もあります。
タイマーや絵カードは万能ではない
視覚的スケジュールに関する研究では、自閉スペクトラム症のある人を対象とした研究が多く、体系的な教え方や他の支援と組み合わせて使われています。一般のすべての幼児に、絵カードだけで同じ効果が得られると示した研究ではありません。
また、移行前の予告には有効だった研究と、有効でなかった研究があります。
問題となる行動の理由や、次の活動の性質などによって結果が変わると考えられています。
タイマー、砂時計、絵カード、歌などは、子どもに合えば役立つ手がかりです。
しかし、道具に子どもを従わせるのではなく、その子が何を分かりにくく感じているのかを見ながら使うことが重要です。
相談を考えてもよいとき
切り替えに時間がかかることだけで、発達上の問題や障害があるとは判断できません。
幼児期にはよく見られる姿であり、場面や体調による揺れもあります。
一方で、次のような状態が続き、本人や周囲の生活上の負担が大きい場合には、園、自治体の子育て・発達相談、かかりつけの医療機関などへ相談することを考えてもよいでしょう。
- 家庭と園など複数の場面で、ほぼ毎回強い混乱が起きる
- 活動の移行に非常に長い時間がかかり、生活が進みにくい
- 自分や他者を傷つける危険がある
- 音、光、触感、予定変更などへの強い苦痛が見られる
- 言葉の理解やコミュニケーションなど、ほかにも心配がある
- 子ども本人や家族、保育者の負担が大きくなっている
相談は、診断を決めるためだけに行うものではありません。どの場面で何が難しいのかを整理し、環境や伝え方を一緒に考える機会にもなります。
まとめ
子どもが気持ちを切り替えられないように見えるとき、その背景には、注意を外す、次の予定を覚える、今の行動を止める、感情を扱う、新しい行動を始めるという複数の課題があります。
切り替えは、意志の強さや聞き分けだけでは説明できません。
年齢、体調、遊びへの思い、次の活動、周囲の刺激、大人の伝え方によっても変わります。
大人にできるのは、素早く切り替えさせることだけを目標にするのではなく、子どもが何を分かりにくく感じているのかを読みとくことです。
生活の流れを見えやすくする、言葉を短くする、終わりの形を具体的にする、遊びの続きを残す、感情があるままでも一緒に次へ進む。
こうした支えを重ねる中で、子どもは少しずつ自分なりの切り替え方を育てていきます。
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参考文献・資料
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- Doebel, S., & Zelazo, P. D.(2015)A meta-analysis of the Dimensional Change Card Sort. Developmental Review, 38, 241–268.
- Chevalier, N., et al.(2011)Switch detection in preschoolers’ cognitive flexibility. Journal of Experimental Child Psychology, 109(3), 353–370.
- Peng, A., et al.(2018)Task switching costs in preschool children and adults. Journal of Experimental Child Psychology, 172, 59–72.
- Qu, F., et al.(2021)Development of Young Children’s Time Perception. Frontiers in Psychology, 12, 688165.
- Paley, B., & Hajal, N. J.(2022)Conceptualizing Emotion Regulation and Coregulation as Family-Level Phenomena.
- Knight, V., et al.(2015)Evaluating visual activity schedules as evidence-based practice.
- Brewer, A. T., et al.(2014)Advance Notice for Transition-Related Problem Behavior.
- 森口佑介(2019)実行機能の発達の脳内機構.
- 厚生労働省(2018)保育所保育指針解説.
- こども家庭庁(2023)幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン.