「待ってね」と言われても、すぐに手が伸びる。
片付けを始めようとしても、途中で別の物に気を取られる。
いつもと違うやり方になると、なかなか次へ進めない。
こうした子どもの姿には、「実行機能」と呼ばれる働きが関係することがあります。
実行機能という言葉から、「我慢する力」「自分をコントロールする力」を思い浮かべる人もいるでしょう。
けれども、実行機能は単に欲求を我慢するための力ではありません。
目標に向かうために、必要な情報を頭に置き、今しようとしている反応をいったん止め、状況に合わせて考え方や行動を変えるときに使われる複数の働きです。
そして、子どもが待てるか、切り替えられるか、順序よく行動できるかは、実行機能だけで決まりません。
気持ち、疲れ、興味、経験、周囲の刺激、次に何をすればよいかの分かりやすさなども関係します。
この記事では、2~6歳ごろの実行機能がどのように育つのかを、国内外の研究から読みときます。
この記事で分かること
- 実行機能とはどのような働きなのか
- 抑制・ワーキングメモリ・認知的柔軟性の違い
- 2~6歳ごろに実行機能がどのように育つのか
- 「待てない」「切り替えられない」を実行機能だけで説明できない理由
- 家庭や保育で、実行機能を使いやすくする環境
- 「実行機能トレーニング」の研究で分かっていることと限界
実行機能とは、目標に向かって考えや行動を調整する働き
実行機能は、心理学では「目標に向かって思考や行動を調整するための働き」として研究されています。
代表的な整理では、中心となる働きとして「抑制」「ワーキングメモリ」「認知的柔軟性」の3つが挙げられます(Diamond, 2013)。
ただし、子どもの頭の中に3つの独立した箱があるわけではありません。
就学前児を対象とした研究では、幼児期の実行機能には共通する部分が大きく、発達の中で各要素が少しずつ分化し、組み合わされていくと考えられています(Garon et al., 2008)。
抑制――今すぐ出そうな反応をいったん止める
抑制とは、目の前の刺激にそのまま反応するのではなく、必要に応じて反応をいったん止める働きです。
たとえば、自分も使いたいおもちゃがあっても、友達が使っている間はすぐに取らない。
ゲームで思いついた答えをすぐ口にせず、相手の話を最後まで聞く。
走り出したい場面でも、「ここでは止まる」というルールに合わせて動きを変える。
こうした場面には抑制が関係します。
しかし、抑制は「大人の言うことを我慢して聞く力」ではありません。
自分の目的を達成するためにも使われます。積み木を高く積みたいから急いで置かずに位置を確かめる、自分の話を伝えたいから相手が話し終わるまで待つ、といった場面でも働きます。
ワーキングメモリ――必要な情報を頭に置きながら使う
ワーキングメモリは、今していることに必要な情報を一時的に保ち、その情報を使いながら行動する働きです。
「手を洗ったらタオルで拭いて、席に座る」と言われたときには、次に何をするのかを覚えながら動く必要があります。
友達との遊びでも、「今は自分が店員で、この子が客」「この道を作ったら、次に橋をつなげる」といった情報を頭に置きながら遊びを続けています。
そのため、一度に多くの指示を受けると、内容を理解していても途中で抜けてしまうことがあります。
それを「聞いていなかった」とだけ捉えると、子どもがどこで負担を感じていたのかが見えにくくなります。
認知的柔軟性――状況に合わせて方法や見方を変える
認知的柔軟性は、状況が変わったときに、それまでのルールや考え方から別の方法へ切り替える働きです。
赤いカードは赤い箱に入れるというルールで遊んでいたところ、「今度は形で分けよう」とルールが変われば、それまで使っていた考え方を止め、新しいルールを使う必要があります。
日常では、予定が変わる、使いたかった道具が使えない、作ったものがうまく動かない、といった場面で別の方法を考えるときにも関係します。
ただし、認知的柔軟性があるから、好きな遊びをすぐやめられるとは限りません。
活動を終えるときには、残念さや不安などの感情、次の予定の理解、周囲の刺激なども関係します。
2~6歳ごろ、実行機能はどのように育つ?
実行機能の基礎となる働きは幼い時期から見られますが、幼児期にはその使い方が大きく変化していきます。
さらに、実行機能は6歳で完成するものでもありません。
子ども期から青年期にかけても発達が続くことが、発達研究から示されています(Best & Miller, 2010)。
幼児期には、複数の働きを一緒に使う力が育っていく
2歳ごろには、大人の助けを受けながら簡単な行動を止めたり、短い手順を覚えたりする姿が見られます。
一方で、したいことが強い場面や複数のことを同時に求められる場面では、大きな支えが必要です。
3~4歳ごろになると、簡単なルールを覚え、それに合わせて行動したり、言葉や目に見える手がかりを使って次の行動へ移ったりできる場面が増えます。
ただし、ルールが途中で変わる、二つ以上の情報を同時に扱う、強い気持ちを抱えながら行動を止めるといった課題は、まだ大きな負荷になります。
5~6歳ごろには、先の予定をある程度見通し、自分で方法を変えたり、複数の手順を使ったりできる場面が増えていきます。
それでも、疲れているとき、強く興奮しているとき、急に予定が変わったときなどには大人の支えが必要です。
5~6歳ごろの発達全体については、「5~6歳児の発達の特徴とは?就学前に育つ力を考える」でも詳しく解説しています。
日本の縦断データでも、3~5歳で課題成績は変化している
国立教育政策研究所が2026年に公表した研究では、2017年度の3歳児149名を2021年度まで5年間追跡したデータを用い、3・4・5歳時点の各種検査が分析されています。
実行機能の測定には、色や形による分類ルールを途中で変更するDCCSと呼ばれる課題や、言われた単語を逆順に答えるワーキングメモリ課題などが使われました。
DCCSでは、3~5歳にかけて年齢による有意な得点の上昇が確認されています。
一方で、同じ年齢でも個人差は大きく、一つの課題結果だけで子どもの実行機能全体を判断することはできません(国立教育政策研究所, 2026)。
この研究は、日本の幼児について長期的な変化を見た貴重な資料ですが、全国の子どもから無作為に作られた発達基準ではありません。
「3歳なら何点」「5歳ならここまでできる」といった合否判定には使えません。
「待てない」「切り替えられない」は実行機能だけで決まらない
実行機能を知ると、子どものさまざまな行動を「実行機能がまだ弱いから」と説明したくなるかもしれません。
しかし、現在の研究では、それほど単純には考えられていません。
一つの課題成績を子どもの考える力全体とみなせない理由は、「ピアジェの認知発達理論を現在の研究から読み直す」でも、古典的な発達課題と現代研究を比べながら解説しています。
Doebel(2020)は、実行機能を、どの場面でも同じように働く一般的な部品だけとして捉えることに疑問を示しています。
子どもが何を目標としているのか、何を知っているのか、どのようなルールや価値を理解しているのか、何を好んでいるのかによっても、コントロールの使われ方は変わるという考え方です。
順番を待つ場面では、抑制だけでなく、誰の次かを覚えることや、待つ終わりを見通すこと、気持ちを整えることが重なります。
順番を待つ場面を詳しく見るときは、「子どもが順番を待てないのはなぜ?ルールを理解する力の育ち」も参考になります。
遊びから片付けへ移るときも、認知的柔軟性だけでなく、遊びを終える感情、次の予定の分かりやすさ、周囲の刺激が関わります。
活動の切り替えを詳しく考えるときは、「子どもが気持ちを切り替えられないのはなぜ?発達と環境から考える」で、時間感覚や環境も含めて整理しています。
同じ子どもが、園では順番を待てるのに家庭では難しいこともあります。昨日はできたことが、今日は難しいこともあります。こうした揺れは、「力があるか、ないか」だけでは説明できません。
日常の中で実行機能はどのように使われている?
実行機能は、検査のためだけに使われるものではありません。日常のさまざまな活動の中で、複数の働きが重なっています。
たとえば、朝の支度で「着替えて、バッグを持って、玄関へ行く」という流れを進めるときには、手順を頭に置くワーキングメモリが関わります。
途中でおもちゃが目に入っても、今している支度へ戻るには抑制や注意の調整が必要です。いつもの靴が見つからなければ、別の方法を考える認知的柔軟性も使います。
友達との遊びでも同じです。
自分が考えたルールを覚え、相手の番では少し待ち、相手から別の案が出ればルールを変える。
一つの遊びの中で、実行機能の複数の働きが行き来しています。
そのため、「この行動ができたから抑制が高い」「これができないからワーキングメモリが弱い」と、一つの行動を一つの能力へ直結させないことが大切です。
実行機能を支えるときは「鍛える」より、使いやすい条件を考える
日常でできることは、子どもに難しい課題を繰り返させることだけではありません。
むしろ、まだ発達途中にある実行機能を使いやすくするよう、環境側の負担を調整することが重要です。
覚えておかなければならない量を減らす
「部屋へ行って、バッグからタオルを出して、洗濯かごへ服を入れて、それから手を洗って」のように一度に多く伝えると、途中で情報が抜けることがあります。
最初は「バッグからタオルを出そう」と一つずつ伝えたり、置き場所を分かりやすくしたりすることで、頭の中だけで覚えておく量を減らせます。
これは子どもの代わりに全部してしまうこととは違います。子どもが自分で行動を進めるために、必要な情報を環境にも置くという考え方です。
ルーティンは、毎回すべてを考え直す負担を軽くする
毎朝同じ場所へバッグを置く、帰宅後の流れをある程度そろえるなど、繰り返される行動は少しずつルーティンになります。
柳岡(2019)は、実行機能とルーティンの関係を整理し、行動がルーティン化されると、毎回強いコントロールを使わなくても行動しやすくなる一方、いつもと違う変更が入ると再び実行機能が必要になると論じています。
「いつもできるのに、今日はできなかった」というときには、いつもの流れのどこが変わったのかを見ることも手がかりになります。
感情が大きいときは、まず気持ちを整える
強い感情があるときには、覚えているルールや言葉を使いにくくなることがあります。
このようなときに「分かっているでしょう」「自分で考えて」とさらに認知的な負荷を増やしても、うまくいかない場合があります。
まず安全を確保し、刺激を減らし、短い言葉で状況を整理する。必要なら大人と一緒に落ち着く。その後で次の方法を考えます。
感情を自分だけで抑え込むのではなく、大人と一緒に整える過程については、「子どもの感情調整はどのように育つ?自分で落ち着けるようになるまで」で詳しく解説しています。
勝負に負けた直後の具体的な関わり方は、「子どもが負けると泣くのはなぜ?」で整理しています。
遊びや生活の中にも、実行機能を使う機会がある
特別な「脳トレ」を用意しなくても、遊びや生活には、覚える・止まる・やり方を変える経験が含まれています。
積み木が崩れたら別の積み方を試す。友達の番を見ながら自分の番を待つ。鬼ごっこの途中でルールを変える。料理の手伝いで順番を覚える。
ただし、「この遊びをさせれば実行機能が伸びる」と成果を目的にしすぎる必要はありません。
子ども自身の目的や楽しさの中で、必要に応じて考え、試し、やり直せることが大切です。
遊びや生活がどのように学びにつながるかは、「幼児期の学びとは?遊び・生活・教育のつながり」でも整理しています。
「実行機能トレーニング」はどこまで分かっている?
実行機能は発達する働きであり、経験によって変化する可能性があります。そのため、さまざまなトレーニング方法が研究されてきました。
TakacsとKassai(2019)は、12歳までの子ども8,925人を含む90研究を統合しました。
その結果、実行機能を高めることを目的とした介入後に、実行機能課題の成績が改善する場合があることが確認されました。
しかし、追跡調査まで効果が維持されるという説得力ある証拠は得られませんでした。
また、実行機能課題を直接繰り返す訓練が、日常活動に組み込まれた方法より明確に優れているとも言えませんでした。
さらにKassaiら(2019)のメタ分析では、訓練した課題に近い能力への「近い転移」は確認されたものの、別の実行機能へ広く効果が移る「遠い転移」については、説得力ある効果が確認されませんでした。
したがって、特定のアプリ、教材、遊びを繰り返せば「実行機能全体が高まり、学習や生活も広く改善する」とまでは言えません。
実行機能を支えるために、特別な教材を購入しなければならないという根拠もありません。
研究から分かっていること、まだ分かっていないこと
現在の研究から、幼児期には実行機能が大きく変化し、抑制、ワーキングメモリ、認知的柔軟性などの働きが目標に向かう行動を支えていることは、比較的一貫して示されています(Diamond, 2013; Garon et al., 2008; Best & Miller, 2010)。
一方で、「実行機能」という一つの数値だけですべての行動を説明できるわけではありません。
幼児期に3つの要素がどの程度独立しているのかについても研究上の議論があります。
実験室の課題で示された力と、家庭や園で長い時間をかけて行う複雑な行動が完全に同じとは限りません。
また、実行機能研究の多くは海外で行われています。
日本の研究も蓄積されていますが、対象人数や地域、使用する課題には限界があります。
森口(2019)が整理するように、実行機能には情動的に比較的中立な場面だけでなく、報酬や感情が関わる場面もあります。
脳についても「前頭前野という一つの場所が実行機能を司る」と単純化せず、複数の脳領域やネットワークが関係するものとして考える必要があります。
子どもの実行機能を見るときの手がかり
「待てたか」「片付けられたか」「言われたとおりに動けたか」という結果だけでは、子どもがどのような力を使っていたのかは分かりません。
同じ行動でも、少し予告があればできたのか、一つずつ伝えるとできたのか、大人と一緒ならできたのか、疲れていない時間帯ならできたのかを見ると、子どもが力を使いやすい条件が見えてきます。
また、以前はすべて大人が手伝っていた場面で、次の手順を一つ覚えられるようになった。
すぐに手を伸ばしていた場面で、一瞬止まって大人を見るようになった。うまくいかなかったとき、別の方法を試すようになった。
こうした小さな変化も、育ちの一部です。
年齢別の目安や一回の課題成績を、子どもの能力の合否判定にする必要はありません。
実行機能は、子どもが目標に向かうときに使う働きの一つです。
その子が何をしようとしていたのか、どんな条件なら力を使えたのかを、行動の前後と環境を含めて見ていくことが大切です。
まとめ
実行機能とは、子どもを「我慢できる子」にするための力ではありません。
必要な情報を頭に置くワーキングメモリ、すぐに出そうな反応をいったん止める抑制、状況に合わせて方法や見方を変える認知的柔軟性などが関わり、目標に向かう行動を支えています。
これらの働きは幼児期に大きく発達しますが、年齢だけで一律に決まるものではありません。
同じ子どもでも、気持ち、疲れ、経験、課題の難しさ、周囲の刺激、見通しの持ちやすさによって、使いやすさは変わります。
大人にできることは、「もっと我慢させれば鍛えられる」と考えることではなく、覚えておく量を減らす、流れを分かりやすくする、ルーティンをつくる、強い感情があるときには一緒に整えるなど、子どもが自分の力を使いやすい条件をつくることです。
「できた・できない」だけを見るのではなく、どんな支えがあれば考えられたか、待てたか、方法を変えられたか。
その過程を見ることが、実行機能という視点を子どもの理解に生かすことにつながります。
参考文献一覧
- Diamond, A. (2013). Executive Functions. Annual Review of Psychology, 64, 135–168. DOI: 10.1146/annurev-psych-113011-143750.
Executive Functions - Garon, N., Bryson, S. E., & Smith, I. M. (2008). Executive function in preschoolers: A review using an integrative framework. Psychological Bulletin, 134(1), 31–60. DOI: 10.1037/0033-2909.134.1.31.
PubMed - Best, J. R., & Miller, P. H. (2010). A developmental perspective on executive function. Child Development, 81(6), 1641–1660. DOI: 10.1111/j.1467-8624.2010.01499.x.
PubMed - Doebel, S. (2020). Rethinking Executive Function and Its Development. Perspectives on Psychological Science, 15(4), 942–956. DOI: 10.1177/1745691620904771.
PubMed - Takacs, Z. K., & Kassai, R. (2019). The efficacy of different interventions to foster children's executive function skills: A series of meta-analyses. Psychological Bulletin, 145(7), 653–697. DOI: 10.1037/bul0000195.
PubMed - Kassai, R., Futó, J., Demetrovics, Z., & Takacs, Z. K. (2019). A meta-analysis of the experimental evidence on the near- and far-transfer effects among children's executive function skills. Psychological Bulletin, 145(2), 165–188. DOI: 10.1037/bul0000180.
PubMed - 森口佑介(2019)「実行機能の発達の脳内機構」『発達心理学研究』30(4), 202–207. DOI: 10.11201/jjdp.30.202.
J-STAGE - 柳岡開地(2019)「乳幼児期における実行機能とルーティンの獲得の相補性―抑制と切り替えに着目して―」『発達心理学研究』30(4), 208–218. DOI: 10.11201/jjdp.30.208.
J-STAGE - 国立教育政策研究所(2026)『幼小接続期における教育の質の基盤形成に関する研究<報告書第3巻> 幼児期・幼小接続期の育ち・学びに関する研究』
令和7年度研究成果ページ
報告書第3巻