「周りの子は、もうひらがなを書いている」「数字にあまり興味を示さないけれど、このままでよいのだろうか」と気になることがあります。
けれども、幼児期の文字や数への関心は、ひらがなを何文字読めるか、いくつまで数えられるかだけでは分かりません。
自分の名前を見つけて喜ぶ。店の看板のようなものを描く。
おやつを友達と同じ数ずつ分けようとする。
積み木の高さや、どちらが多いかを比べる。
こうした姿も、文字や数の役割に気づき始めている表れです。
3~6歳頃は、関心の向き方にも、できるようになる時期にも大きな個人差があります。
この記事では、年齢ごとの合否を示すのではなく、子どもが文字や数を「使ってみたい」と思う過程と、家庭や園でできる支え方を考えます。
この記事で分かること
- 幼児期の文字・数への関心をどう捉えればよいか
- 文字や数への関心が表れている身近な姿
- 早く教え始めることと、後の学びとの関係
- 家庭や園で無理なくできる支え方
- 文字や数に関心を示さないときの考え方
文字・数への関心は「覚えること」から始まるとは限らない
文字や数に親しむというと、ひらがなを読ませたり、数字を覚えさせたりすることを思い浮かべるかもしれません。
しかし、幼児期の文字や数との出会いは、もっと身近なところから始まります。
「これは自分の名前だ」「ここに書けば誰の物か分かる」「何個あればみんなに配れるだろう」「どちらの方が長いかな」と気づくことも、大切な始まりです。
厚生労働省の保育所保育指針や文部科学省の幼稚園教育要領解説でも、文字や数は、遊びや生活の中で子ども自身が必要性を感じながら親しんでいくものとして位置づけられています。
たとえば、ごっこ遊びの店に名前をつけたいとき、文字は「みんなに伝えるためのもの」になります。
人数分のお皿を用意するとき、数は「足りるか確かめるためのもの」になります。
文字や数は、正しく答えるためだけではなく、子どもが自分のしたいことを実現するための道具でもあるのです。
文字や数を含む幼児期の学び全体は、幼児期の学びと遊び・生活・教育のつながりで解説しています。
文字への関心は、読む・書く以外の姿にも表れる
文字への関心というと、ひらがなを読んだり書いたりする姿に目が向きがちです。
けれども、その前から子どもは、さまざまな形で文字や記号の存在に気づいています。
自分の名前の最初の文字を見つける、よく行く店の看板を覚える、絵本の題名を指さす、文字のような線を書いて手紙を作る、絵と文字の違いに気づくといった姿です。
まだ読めない文字を、絵やマークと同じように捉えていることもあります。
それでも、文字が「何かを表している」と感じているなら、文字への関心はすでに始まっています。
また、「読むこと」と「書くこと」は同時にできるようになるとは限りません。
読める文字が増えても、自分で形を書くことはまだ難しい場合があります。
反対に、文字のような形をたくさん書いていても、一文字ずつ読んでいるとは限りません。
話を聞くこと、言葉の響きを楽しむこと、文字の形を見分けること、書くために手を動かすことは、それぞれ少しずつ違う力です。
どれか一つだけを見て、文字への関心がある・ないと決める必要はありません。
数への関心は、数字を読むことだけでは分からない
数についても、数字の形を覚えることと、物の数や量を理解することは同じではありません。
「いち、に、さん」と順番に言えること、物を一つずつ指しながら数えること、数え終わった数が全体の個数だと分かることは、それぞれ別の経験です。
子どもは日常生活や遊びの中で、さまざまな数や量に出会っています。
おやつの多い方を選ぶ、友達と同じ数ずつ分ける、あと何人座れるか確かめる、昨日より高く積み上げる、長いひもを探すといった姿です。
さらに、形を組み合わせる、並び方の規則を見つける、物が入る場所を考える、前後や上下の位置を伝えることも、幼児期の数学的な経験に含まれます。
幼児期の数学に関する合意報告書でも、幼児期の数の学びは、数字や数え方だけでなく、量、形、長さ、位置、規則性などを含むものとして捉えられています。
数字を読もうとしない子どもでも、量の違いや形、並び方に強い関心を示していることがあります。
そうした姿も、数や形に関わる育ちとして受け止めることができます。
研究から見えてきたこと
文字や数を早く覚えた子どもは、その後の学習でもよい結果を示しやすいと聞くことがあります。
実際に、幼児期の文字への気づきや言葉の力、数や量を扱う力と、その後の読み書きや算数との間に関係が見られた研究はあります。
ただし、ここで注意したいのは、「幼児期にできていた子どもは、その後もできる傾向があった」という結果と、「早く練習させたから、その後の力が伸びた」という結論は同じではないことです。
早く教えれば必ず伸びるとは分かっていない
幼児期の文字に関する多くの研究をまとめたNational Early Literacy Panelの報告書では、文字の知識や言葉の音への気づきなどが、その後の読み書きと関係することが示されています。
一方で、この報告書は主に英語圏の研究を基にしています。
英語のアルファベットと日本語のひらがなでは、文字と音の結びつき方が違います。
そのため、海外で使われた課題や教え方を、そのまま日本の子どもへ当てはめることはできません。
日本の幼児を継続して調べたひらがな習得の研究では、家庭で文字に触れやすい環境や、保護者との文字に関するやり取りが、ひらがなの知識と結びつく時期がありました。
ただし、その関係は就学前の期間を通じて同じではありませんでした。
家庭での働きかけが多ければ、必ずひらがなの習得が早くなるという結果でもありません。
子どもの関心、園での経験、言葉の育ち、普段の遊びなど、さまざまなことが重なって文字への理解は広がっていきます。
家庭で数に触れることだけで結果が決まるわけではない
家庭で数を使う機会と、子どもの数の理解との関係を多くの研究から調べた報告では、両者には一定のつながりが見られました。
ただし、そのつながりは強いものではなく、家庭で数に触れる機会の多さだけで、子どもの力が決まるわけではありませんでした。家庭の数学的環境に関する研究
また、日本の家庭や園を調べた研究では、数や形に関わる経験が、特別な学習時間だけではなく、遊びや生活の中に多く含まれていました。日本の幼児の数学的活動に関する研究
物を分ける、順番を決める、形を組み合わせる、距離や大きさを比べるといった日常の経験も、数や形に親しむ機会になります。
すべての子どもに合う一つの方法は見つかっていない
家庭で行う文字・数の働きかけについて、多くの研究をまとめて調べた報告もあります。
その結果、家庭向けの活動によって大きな変化が確認された研究ばかりではなく、効果がはっきりしないものも含まれていました。家庭での働きかけに関する研究
この結果は、「家庭で何をしても意味がない」ということではありません。
子どもの年齢や関心、活動の内容、大人とのやり取りの仕方によって、経験の意味は変わります。「この教材を使えばよい」「毎日この練習をすればよい」という一つの正解は、まだ分かっていないということです。
研究から読み取れるのは、早く多く教えることを急ぐより、子どもが文字や数を使いたくなる場面を大切にした方がよいということです。
家庭や園で文字・数への関心を支えるには
文字や数に関心を持たせるために、特別な教材をそろえたり、毎日決まった練習をしたりする必要はありません。
まずは、子どもが今している遊びや生活の中に、文字や数を使いたくなる場面がないかを見てみます。
子どもの「したいこと」に結びつける
子どもが手紙を作りたいときには、宛名や自分の名前を書く方法を一緒に考えられます。
ごっこ遊びで店を開きたいときには、看板やメニューを作れます。
品物を並べながら、「いくつ用意しようか」「同じ数ずつ置けるかな」と考えることもできます。
散歩中に見つけた物を記録したいなら、絵や印、数字を使って残すことができます。
大切なのは、大人が用意した問題を解かせることではなく、子どもがしたいことを実現するために、文字や数を使えるようにすることです。
大人が使う姿を自然に見せる
大人が買い物の内容をメモする、カレンダーで予定を確認する、時計を見て出発時刻を決める、料理で量を測るといった姿も、子どもが文字や数の役割に気づくきっかけになります。
「忘れないように書いておくね」「みんなの分があるか数えてみるね」と、使う理由を短く言葉にすると、何のために文字や数を使っているのかが伝わりやすくなります。
見せた後に、同じことをするよう求める必要はありません。
子どもは、大人の姿を見てすぐにまねることもあれば、しばらくしてから自分の遊びに取り入れることもあります。
必要なときに使える物を用意する
紙、筆記具、絵本、カレンダー、時計、容器、定規などを、子どもが必要なときに使えるようにしておきます。
文字表や数字カードがあっても、必ず使わせる必要はありません。
生活の中にあるレシート、空き箱、チラシ、時計、計量カップなども、文字や数の役割を伝える身近な材料になります。
たくさんの教材をそろえることより、「使ってみたい」と思ったときに試せる環境をつくることが大切です。
答えを聞くだけでなく、一緒に考える
「これは何の字?」「全部でいくつ?」という質問が続くと、子どもにとって文字や数が、大人に答えを確かめられるものになることがあります。
「どこに書くとみんなに分かるかな」「同じ数ずつにするにはどうしよう」「どちらが長いか、どうしたら確かめられるかな」と尋ねると、子どもは自分の方法を試せます。
すぐに答えが出なくても、大人が次々に質問する必要はありません。
子どもが考えたり、やり直したり、別の方法を試したりする時間を残します。
間違いをすぐに直しすぎない
文字が左右反対になっていたり、数を飛ばして数えたりすることがあります。
そのとき、すべての間違いをすぐに直すより、まずは子どもが何を表そうとしたのか、何を確かめようとしたのかを見ます。
正確さが必要な場面では、大人が自然に書き方や数え方を見せることができます。
「違う」と評価するより、「ここから一緒に数えてみようか」「この文字はこう書くよ」と方法を示す方が、次に試しやすくなります。
直接教えてもよい?遊びに任せた方がよい?
遊びを大切にすることは、大人が何も教えてはいけないという意味ではありません。
子どもが「自分の名前はどう書くの?」と尋ねたときには、目の前で書いて見せられます。
「同じ数にしたいけれど、どうすればよい?」と困っているときには、一つずつ対応させる方法を一緒に試せます。
子ども自身が文字を書く活動やプリントを楽しんで選ぶなら、その関心を尊重してもよいでしょう。
一方で、子どもが求めていないときに繰り返し答えさせたり、遊びを中断して練習へ変えたりする必要はありません。
大人の支えは、子どもの選択や試行錯誤が残るように調整します。
子どもの選択を残しながら大人が環境や問いで支える考え方は、遊びと学びのつながりでも詳しく扱っています。
「教えるか、教えないか」の二つに分けるのではなく、子どもが何を知りたがっているのか、今どの程度の助けを必要としているのかを見ながら関わることが大切です。
文字や数への関心が見えないときは?
ひらがなを書こうとしないからといって、文字にまったく関心がないとは限りません。
絵本の話を覚えて楽しむ、好きな店のマークを見分ける、絵で手紙を作る、同じ印の付いた物を探すといった姿も、言葉や記号が何かを表していることへの気づきです。
数字を読もうとしなくても、おやつの量の違いに気づく、同じ形を集める、順番に並べる、狭い場所へ物をうまく入れるといった遊びには、数、形、比較、空間に関わる経験が含まれています。
大人が期待する形と、子どもの関心の表れ方が違っていないかを見直してみます。
また、文字や数より、体を動かすこと、ごっこ遊び、生き物、音、絵などに強く心を向けている時期もあります。
幼児期の関心は一つに固定されるものではなく、さまざまな経験を行き来しながら広がっていきます。
ほかの子どもと比べて、急いで関心を持たせようとする必要はありません。
年齢の目安を「できる・できない」の判定にしない
3~6歳という対象年齢は、全員が同じ時期に同じ文字や数を理解することを意味しません。
関心の表れ方や時期には大きな個人差があります。
就学前の育ち全体と文字・数への関心の位置づけは、5~6歳児の発達と就学前に育つ力で解説しています。
文部科学省が示す「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」も、一人ひとりを採点するための到達目標ではありません。
文部科学省の参考資料では、個別に取り出して教え込んだり、到達すべき目標として扱ったりするものではないと説明されています。
「何歳でひらがなが全部読めるか」「いくつまで数えられるか」だけを見ていると、子どもが文字や数を使って考えようとしている過程を見落とすことがあります。
できる項目を増やすことよりも、子どもが何に気づき、何を伝えようとし、どのように確かめようとしているかを見ることが大切です。
まとめ
幼児期の文字や数への関心は、早く覚えさせることだけで育つものではありません。
伝えたい、覚えておきたい、同じ数にしたい、比べたい、確かめたいという子どもの思いと結びつくことで、文字や数は意味のある道具になっていきます。
研究からは、家庭で文字や数に触れる経験と、その後の育ちに一定のつながりがあることが分かっています。
ただし、早く練習を始めれば必ずよい結果につながるわけではなく、すべての子どもに共通する一つの方法も見つかっていません。
大人にできるのは、必要な物を使えるようにし、文字や数を使う姿を見せ、子どもの問いに応え、試行錯誤を急がずに見守ることです。
文字や数を「できるかどうか」の判定だけにせず、子どもが生活や遊びの中で、その便利さや面白さに出会う過程を支えていきましょう。
参考文献一覧
- 厚生労働省(2017)「保育所保育指針」
- 文部科学省(2018)「幼稚園教育要領解説」
- 文部科学省(2024)「幼児教育の充実に関する参考資料」
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- National Research Council(2009)“Mathematics Learning in Early Childhood: Paths Toward Excellence and Equity”
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