「遊んでいるだけで、本当に学んでいるのだろうか」
子どもが同じ積み木を何度も積み直したり、砂と水を混ぜ続けたり、ごっこの設定を友達と相談したりする姿は、大人の目には遠回りに見えることがあります。
けれども、その過程では、子どもが自分なりの目的をもち、物や人へ働きかけ、返ってきた反応を受け取り、次の方法を考えています。
遊びと学びは、片方を選ぶ関係ではありません。ただし、「遊びなら何でも、あらゆる力が伸びる」と言い切ることもできません。
どのような遊びで、どのような学びが生まれるかは、子どもの関心や経験、相手、環境、大人の関わり方によって変わります。
この記事では、遊びの中で学びが生まれる過程と、大人がその過程を支えるときの考え方を、研究と日本の公的資料から整理します。
この記事で分かること
- 遊びと学びを対立させなくてよい理由
- 子どもが遊びの中で試し、考えを変えていく過程
- 同じ遊びから生まれる学びが一つではない理由
- 自由遊び、ガイドされた遊び、直接的な説明の違い
- 研究で確かめられていることと、まだ十分に分かっていないこと
- 子どもの主体性を保ちながら大人が支える方法
遊びは、子どもが世界を確かめる学びの過程になる
幼児期の遊びでは、子どもは「高く積みたい」「水をここまで流したい」「お店を開きたい」など、自分なりの目的に向かって動きます。
その目的を実現しようとして物を動かし、人へ伝え、うまくいかなければ方法を変えます。
この「働きかける→反応を受け取る→もう一度試す」という往復が、遊びと学びをつなぐ重要な過程です。
子どもは、誰かが用意した正解を覚えるだけでなく、自分の行動と結果の関係を確かめながら、物の性質、人との関わり、自分の考え方を少しずつ組み直します。
日本の幼稚園教育要領は、幼児の自発的な活動としての遊びを、発達の基礎を培う重要な学習と位置づけています。
保育所保育指針も、子どもが自発的・意欲的に環境へ関わり、生活や遊びを通して総合的に経験することを重視しています。
その前提にある、安心できる生活と発達の援助を切り離さない考え方は、保育所保育指針の基本で解説しています。
幼児期の学びを遊び・生活・教育の全体から捉える考え方は、幼児期の学びとは?で詳しく解説しています。
本記事では、その中でも「遊びの何が、どのように学びへつながるのか」に焦点を絞ります。
遊びの中で学びが生まれる4つの動き
遊びの中の学びは、完成した作品や正解の数だけには表れません。Zoshらの理論的整理では、遊びを通した学びに関わる特徴として、能動的に関わること、活動に意味があること、繰り返し試すこと、人と関わることなどが示されています。
ここでは研究と日本の公的資料を踏まえ、学びの過程を読みとくための四つの動きに整理します。
これは発達を判定するチェックリストではなく、一つの場面を丁寧に見るための視点です。
1.子ども自身の目的から働きかける
遊びには、大人が決めた到達点とは別に、子ども自身の目的があります。
積み木をすべて並べたい、葉を集めて料理に見立てたい、友達を追いかけたい。
大人には目的がはっきり見えない場合もありますが、子どもは自分が気になったことへ注意を向け、手、身体、言葉、表情を使って環境へ働きかけています。
自分から始めた活動には、途中で選び直す余地があります。
「高くする」から「長くつなげる」へ変わることも、「一人で作る」から「誰かに見せる」へ変わることもあります。
この選択の余地が、子どもが自分の考えを使う場をつくります。
2.物や人から返ってくる反応を受け取る
子どもが働きかけると、環境から反応が返ってきます。
積み木の重心がずれれば倒れ、水を多く混ぜれば砂の硬さが変わります。
友達へ役を提案すれば、賛成されることも断られることもあります。
子どもは、その反応を見たり、聞いたり、触れたりしながら、自分の予想との違いを受け取ります。
学びは、大人が答えを言葉で伝えたときだけに起こるものではありません。
物の動きや相手の反応そのものが、子どもに次の手がかりを返しています。
3.繰り返しながら、少しずつ方法を変える
同じ遊びを何度も繰り返す姿は、変化がないように見えるかもしれません。
しかし、置く場所、力の入れ方、材料の量、声をかける順番などが、少しずつ変わっていることがあります。
一度でうまくいかなくても、遊びの中では元に戻り、別のやり方を試せます。
子どもは、失敗を避けるのではなく、失敗から得た情報を次の試みへ使うことがあります。
「できたか」だけでなく、「前と何を変えたか」を見ると、子どもが捉えた関係や考え直した過程が見えやすくなります。
4.人と伝え合い、考えを組み直す
一人で集中する遊びにも、ほかの子どもや大人と進める遊びにも、それぞれの意味があります。
人と遊ぶときには、自分の考えを言葉や動きで表し、相手の提案を受け取り、遊びのイメージやルールを調整します。
同じ材料を見ても、別の使い方をする相手がいれば、自分だけでは思いつかなかった方法に出会うことがあります。
一方、意見の違いや行き違いも起こります。そうした場面は遊びの失敗とは限りません。
自分と相手の考えが違うことに気づき、どう伝えるか、どこで折り合うかを試す過程にもなります。
人との関わりの発達は、子どもの社会性はどう育つ?で年齢の目安とともに解説しています。
同じ遊びでも、学びは一つに決まらない
積み木遊びを「図形の学び」、ごっこ遊びを「社会性の学び」と一対一で対応させると、子どもの経験を狭く捉えてしまいます。
同じ積み木でも、高さや安定へ関心を向ける子ども、色を規則的に並べる子ども、建物に物語を加える子ども、友達とのやり取りを楽しむ子どもがいます。同じ子どもでも、日によって遊びの目的は変わります。
遊びの中で生まれる文字・数への関心と、大人の支え方は、「幼児期の文字・数への関心をどう育てる?」で具体的に整理しています。
また、一つの場面には複数の働きが重なります。
橋を作る遊びでは、手指の調整、長さや位置の比較、倒れ方の予測、友達への説明、思いどおりにならないときの感情の調整が同時に関わることがあります。
これは「積み木をすれば、これらの力が必ず伸びる」という意味ではありません。
このように複数の経験が一つの遊びに重なることは、幼児教育の5領域から見ると整理しやすくなります。
遊びから何を経験するかは、子どもの関心、これまでの経験、使える材料、時間、相手との関係などによって異なります。
子どもの発達領域が相互に関係するという基本的な捉え方は、子どもの発達とは?でも説明しています。
自由遊び・ガイドされた遊び・直接的な説明は、役割が異なる
遊びと教育は、「自由にさせるか、大人が教えるか」という二択ではありません。
研究では、遊びを基盤とする活動を、子どもが内容も進め方も選ぶ自由遊び、大人が学びの方向を意識しながら子どもの選択を残すガイドされた遊び、手順や答えを大人が明確に示す直接的な指導などに分けて考えることがあります。
自由遊びは、子どもが目的そのものを選ぶ
自由遊びでは、何をするか、どう進めるか、いつ別の遊びへ移るかを、主に子どもが決めます。
大人が予想しなかった使い方や寄り道が生まれやすく、子どもの関心や考え方が表れやすい時間です。
学習目標が外から見えにくくても、すぐに「何も学んでいない」と判断することはできません。
子どもが何を繰り返し、どんな変化に気づき、どのように遊びを展開したかを見る必要があります。
ガイドされた遊びは、選択を残しながら大人が足場をつくる
ガイドされた遊びでは、大人が材料や環境を用意したり、気づきを言葉にしたり、問いを投げかけたりします。
ただし、答えや遊び方のすべてを大人が決めるのではなく、子どもが選び、試す余地を残します。
たとえば、転がる道を作っている子どもへ、すぐに正しい傾斜を示す代わりに、速さが変わったことを言葉にする、別の長さの板を近くへ置く、「どちらが遠くまで行くかな」と問いかける方法があります。
子どもが自分で試しているなら、あえて言葉を加えず待つことも支え方の一つです。
直接的な説明が必要な場面もある
安全な道具の扱い、集団で共有する約束、初めて聞く言葉の意味などは、大人が短く明確に説明した方がよい場合があります。
直接説明すること自体が、幼児期の学びに反するわけではありません。
大切なのは、大人の説明が子どもの考える過程をすべて置き換えていないかを確かめることです。
自由遊び、ガイドされた遊び、直接的な説明は、どれか一つだけを常に選ぶものではなく、目的、安全、子どもの関心や困り方に応じて組み合わせます。
研究は、遊びと学びの関係をどこまで示している?
遊びを基盤とする教育については、研究でも定義が統一されていません。
自由遊びから大人の関与が強い活動までが同じ「遊びを通した学び」と呼ばれることがあり、研究同士を単純に比べにくいという課題があります。
Pyleらのスコーピングレビューは、主に4~5歳を扱った168本の文献を整理しました。
発達や社会・感情面の学びを扱う研究では子ども主導の遊びが重視される一方、文字や数などの学びを扱う研究では大人の積極的な関与が重視されやすく、遊びと大人の役割について統一した見方がないことを示しています。
Skeneらのシステマティックレビューとメタ分析は、1~8歳を対象とした39研究を検討し、そのうち17研究、計3,893人のデータを統合しました。
ガイドされた遊びは、直接的な指導との比較では初期の数学、図形の理解、課題の切り替えで、自由遊びとの比較では空間語彙で良好な結果を示しました。
一方、ほかの多くの結果では明確な違いが確認されず、研究ごとに活動の定義や方法が異なること、小規模な研究が多いことも指摘されています。
Fisherらの研究では、4~5歳児70人が、図形についてガイドされた遊び、自由遊び、直接的な説明のいずれかに参加しました。
ガイドされた遊びの群は、典型的でない形を含めて図形の特徴を捉える課題で良好な結果を示し、その差は1週間後にも見られました。
ただし、特定の年齢・内容・短期間の実験であり、あらゆる学びへ一般化はできません。
また、Lillardらのレビューは、ごっこ遊びとさまざまな発達上の力に関連が報告されていても、ごっこ遊びだけがその発達を生み出すという強い因果関係は十分に確かめられていないと結論づけています。
こども家庭庁の2025年の乳幼児の遊びと体験に関する調査研究は、メタ分析、システマティックレビュー、ランダム化比較試験などを収集し、222件から92件を整理対象としました。
その結果、研究の充実度には遊びの種類、年齢、発達領域による偏りがあり、とくに乳児期や幼児期前期では十分な知見が確認できない組み合わせが多いことが示されています。
これは「遊びに意味がない」ということではありません。
研究されていないことと、効果がないことは別です。
一方で、根拠が少ない領域について「この遊びで、この力が必ず育つ」と断定することもできません。
0~6歳では、遊びの形も学びの表れ方も変わる
0~6歳を一つの方法で説明することはできません。
乳児は、見る、触れる、口へ運ぶ、音を聞く、物を落とす、大人の反応を見るといった全身の活動を通して、周囲の世界を確かめます。言葉で目的を説明できなくても、同じ動きを繰り返し、反応の違いへ注意を向ける姿があります。
移動や言葉が広がると、自分で物へ近づき、見立てたり、まねたり、人へ働きかけたりする方法が増えます。
幼児期後半には、友達とイメージやルールを共有し、共通の目的へ向かって遊びを続ける場面も増えていきます。
ただし、これは遊びが一方向に高度化するという意味ではありません。
年齢が上がっても、一人で繰り返す遊びや身体感覚を楽しむ遊びは続きます。
年齢だけで学びの深さを判断せず、その子どもが何へ関心を向け、どのように試し方を変えているかを見ることが大切です。
また、遊びを通した学びの介入研究は3~6歳頃に偏り、0~2歳を直接扱った比較研究は限られています。
年長の幼児で得られた結果を、そのまま乳児や1~2歳児へ当てはめない注意が必要です。
大人は、教える前に「何が起きているか」を見る
遊びを学びにつなげようとすると、大人は質問や説明を増やしたくなるかもしれません。
しかし、関わりが多いほど学びが深くなるとは限りません。
結果より、子どもの目的と変化を見る
まず、子どもが何をしようとしているかを見ます。同じことを繰り返しているなら、前の試みとどこが違うか、何が起きたときに表情や動きが変わったかを見ます。
完成したかどうかだけでなく、試した方法、気づいた変化、誰かへ伝えたこと、助けを求めた場面に注目すると、学びの過程が見えやすくなります。
言葉は、答えではなく気づきの足場にする
子どもが困っているときは、「下の積み木が動いたね」「水がさっきより速く流れたね」と、起きたことを短く言葉にできます。
「どうしたらよいと思う?」という問いが役立つ場面もあります。
一方、子どもが黙って集中しているときに質問を重ねると、考える流れを止める場合があります。
問いかける、材料を加える、見本を見せる、待つという選択肢から、その場に合う支え方を選びます。
寄り道や失敗を、大人の正解へ戻しすぎない
大人が用意した活動でも、子どもが別の使い方を始めることがあります。
安全上の問題がなければ、その寄り道には、子どもの関心や新しい問いが表れているかもしれません。
早く完成させることより、子どもが自分で違いを確かめ、方法を選び直せる時間を残します。
遊びを能力獲得の手段だけに変えず、子どもが今その活動を楽しみ、自分の思いを表していること自体も大切にします。
研究結果を日本の子どもへ当てはめるときの注意
遊びと学びの研究の多くは、日本以外の園や実験環境で行われています。
園の制度、集団の大きさ、大人と子どもの関係、重視される学習内容、家庭での遊び方は、国や地域によって異なります。
ガイドされた遊びの効果が報告された研究でも、大人の関わり方、活動時間、教材、評価課題は同じではありません。
研究で使われた活動をそのまま家庭や園へ移せば、同じ結果になるとは限りません。
さらに、遊びは子どもの文化や生活と結びついています。
どの遊びを選ぶか、誰と遊ぶか、大人がどこまで参加するかには、家庭や地域の価値観も関わります。
海外研究は考える手がかりになりますが、日本のすべての子どもに共通する正解として扱わないことが必要です。
まとめ
遊びと学びは、対立するものではありません。
子どもは遊びの中で、自分なりの目的から物や人へ働きかけ、返ってきた反応を受け取り、繰り返しながら方法を変えます。
一人でじっくり試すことも、相手と考えを伝え合うことも、周囲の世界を理解し直す機会になります。
ただし、遊びの名前だけから、育つ力を一つに決めることはできません。
同じ遊びでも、子どもの関心、経験、相手、環境によって生まれる学びは異なります。
研究で効果が示された活動にも、対象年齢、内容、方法、文化的背景による限界があります。
大人の役割は、すべてを教えることでも、何もせず見ていることでもありません。
まず子どもが何をしようとしているかを見て、必要なときに言葉、材料、方法を加えながら、自分で試し直せる余地を残すことです。
「何ができたか」だけでなく、「何に気づき、どう試し方を変えたか」を見ること。
それが、遊びの中にある学びを読みとく手がかりになります。
参考文献一覧
- 文部科学省(2017)幼稚園教育要領
- 厚生労働省(2017)保育所保育指針
- こども家庭庁(2025)令和6年度「乳幼児期の遊びと体験」に関する調査研究
- Zosh, J. M., Hirsh-Pasek, K., Hopkins, E. J., Jensen, H., Liu, C., Neale, D., Solis, S. L., & Whitebread, D.(2018)Accessing the Inaccessible: Redefining Play as a Spectrum. Frontiers in Psychology, 9, 1124. DOI: 10.3389/fpsyg.2018.01124
- Pyle, A., DeLuca, C., & Danniels, E.(2017)A scoping review of research on play-based pedagogies in kindergarten education. Review of Education, 5(3), 311–351. DOI: 10.1002/rev3.3097
- Skene, K., O’Farrelly, C. M., Byrne, E. M., Kirby, N., Stevens, E. C., & Ramchandani, P. G.(2022)Can guidance during play enhance children’s learning and development in educational contexts?. Child Development, 93(4), 1162–1180. DOI: 10.1111/cdev.13730
- Fisher, K. R., Hirsh-Pasek, K., Newcombe, N. S., & Golinkoff, R. M.(2013)Taking shape: Supporting preschoolers’ acquisition of geometric knowledge through guided play. Child Development, 84(6), 1872–1878. DOI: 10.1111/cdev.12091
- Lillard, A. S., Lerner, M. D., Hopkins, E. J., Dore, R. A., Smith, E. D., & Palmquist, C. M.(2013)The impact of pretend play on children’s development. Psychological Bulletin, 139(1), 1–34. DOI: 10.1037/a0029321