公園の滑り台で前の子を追い越す。使いたいおもちゃに手を伸ばし、「順番だよ」と伝えると泣いたり怒ったりする。
そんな姿を見ると、「何度も教えているのに、どうして待てないのだろう」と感じることがあるかもしれません。
周囲の目がある場所では、保護者や保育者が焦ってしまうこともあります。
けれども、順番を待つことは、ルールを一つ覚えればできる単純な行動ではありません。
使いたい気持ちをいったん止めること、自分が誰の次なのかを覚えておくこと、待ち時間の終わりを予測すること、気持ちを調整することなど、いくつもの力が関わっています。
子どもが順番を待てない姿から読み取りたいのは、「言うことを聞かない」という性格ではなく、その場でどのような難しさが重なっていたかです。
この記事で分かること
- 順番を待つために必要な力
- ルールを分かっていても待てない理由
- 2~6歳頃のルール理解と自己調整の育ち
- 待ちやすい環境の整え方と伝え方
- 待てなかった場面を振り返るときの考え方
順番を待つのは「ルールを知る」だけでは難しい
「順番」という言葉の意味を知っている子どもでも、実際の場面では待てないことがあります。
たとえば、落ち着いているときには「並んだ順に使う」と説明できる子が、公園で大好きな遊具を見つけた途端、列の前へ出てしまうことがあります。
これは、ルールをまったく理解していないとは限りません。
順番を待つ場面では、次のようなことを同時に行う必要があるからです。
- すぐに使いたいという行動を止める
- 誰が先で、自分が誰の次かを覚えておく
- 自分の番が来るまで注意を保つ
- 待つ間の不満や興奮を調整する
- 他の子にも使う権利があることを受け入れる
こうした行動には、実行機能と呼ばれる認知的な働きが関係します。
実行機能には、反応を抑える力だけでなく、必要な情報を覚えておくワーキングメモリや、状況に応じて考え方を切り替える力などが含まれます。
就学前の実行機能を整理した研究でも、これらの働きは別々ではなく、少しずつ組み合わさりながら育つと考えられています。
そのため、「順番は分かる?」と聞かれて「分かる」と答えられることと、欲しいものを前にして実際に待てることは、分けて考える必要があります。
この「待つ」を支える実行機能を、抑制・ワーキングメモリ・認知的柔軟性に分けて理解したい方は、「実行機能とは?考える・待つ・切り替える力の育ち」もご覧ください。
順番を待つために必要な力
使いたい気持ちをいったん止める
目の前に魅力的な遊具やおもちゃがあると、子どもの注意は強く引きつけられます。
「今すぐ使いたい」という気持ちが大きいときに、手や体の動きをいったん止めるには、抑制する力が必要です。
しかし、抑制する力は、子どもの中にいつも同じ強さで存在するわけではありません。
疲れているとき、空腹のとき、興奮しているとき、慣れない場所にいるときなどには、普段より行動を止めにくくなることがあります。
一度待てたから次も必ず待てる、待てなかったからまだ理解していない、と単純には判断できません。
自分が誰の次なのかを覚える
順番を待つには、「今はAさん、その次はBさん、自分はその次」という情報を一時的に覚えておく必要があります。
人数が増えたり、並んでいる途中で別の子が動いたりすると、順番は見えにくくなります。
「ちゃんと並んで」と言われても、自分がどこにいればよいのか分からなくなることもあります。
このような場面では、ルールを繰り返し説明するより、「黄色い帽子の子の次だよ」「この線のところで待とう」と具体的に示す方が、子どもは行動を整理しやすくなります。
待ち時間の終わりを予測する
大人にとっての「少し待って」は、これまでの経験から長さを予測できる言葉です。
しかし、幼い子どもにとっては、いつ終わるか分からない曖昧な時間になりやすいものです。
子どもの時間知覚に関する研究では、時間について明示的に判断する力は、注意や記憶の発達と関わりながら変化していくと整理されています。
そのため、「あと少し」だけでなく、「この子が滑ったら次」「この歌が終わったら交代」と、待つ終点を出来事で示すことが役立ちます。
ただし、タイマーや目印を使えば必ず待てるわけではありません。
分かりやすい見通しを作ることは、待つための負担を軽くする一つの支えとして考えます。
気持ちを調整する
順番を待つことには、「使いたいのに使えない」という小さな葛藤が伴います。
待っている間に、悔しさや不満、焦りが大きくなることもあります。
気持ちが高ぶった状態では、すでに知っている言葉やルールを使いにくくなることがあります。
このとき必要なのは、感情をなくすことではありません。
使いたい気持ちを抱えながら、手を出さずに待つ方法を身につけていくことです。
大人が「使いたかったね」「次が来るまでここで見ていよう」と、気持ちと見通しを一緒に言葉にすることは、子どもが自分で調整するまでの足場になります。
他の子の番を認める
順番には、「自分が使いたい」という思いだけでなく、「相手にも使う番がある」という理解が含まれます。
ルールや公平さについて考える力は、友達との遊びや葛藤を経験する中で育っていきます。
ただし、公平さの捉え方やルール違反への反応には、文化や集団による違いも報告されています。
したがって、「この年齢なら公平にできるはず」と一律に判断するのではなく、どのような経験や説明があればルールの意味を理解しやすいかを見ることが大切です。
2~6歳のあいだにルール理解はどう育つのか
ここで紹介するのは、年齢ごとの到達基準ではなく、集団生活や遊びの中で見られやすくなる大まかな変化です。
同じ年齢でも、経験や場面によって表れ方は異なります。
2歳頃からは、大人の仲立ちによって、簡単な決まりや他の子との関わり方に少しずつ気づいていきます。
ただし、この時期は「次」という言葉を聞いても、長い順番の中で自分の位置を保つことが難しい場合があります。
「この子の次」「ここで一緒に待とう」と、具体的に支えることが必要です。
3歳以降になると、遊びの中で簡単なルールを共有したり、「先だった」「次は自分」と主張したりする姿が増えてきます。
ルールへの関心が高まる一方で、自分に不利な場面では受け入れにくいこともあります。
4~6歳頃には、友達と相談してルールを決めたり、「ずっと使っていたから交代した方がいい」と理由を考えたりする姿も見られるようになります。
しかし、理解が育っていても、強く興奮した場面や待ち時間が長い場面では実行できないことがあります。
この時期の感情や社会性の変化については、「4歳児の発達の特徴」でも詳しく解説しています。
自己調整の発達を追跡した研究でも、伸びる時期や速さには複数のパターンがありました。
年齢だけで一律に線を引くのではなく、その子がどのような条件なら待ちやすいかを観察する必要があります。
日本の幼稚園教育要領や保育所保育指針でも、規範意識は一方的にルールを教え込むことで完成するものではなく、友達との生活、葛藤、折り合い、振り返りを通して育つものとして位置づけられています。
「分かっているのに待てない」が起こる理由
子どもが順番を待てないときは、ルールの理解以外にも目を向けてみます。
順番の終わりが見えない
「あとで」「ちょっと待って」だけでは、いつ自分の番になるのか分かりません。待ち時間が不確かであるほど、待ち続ける負担は大きくなります。
欲しい気持ちがとても強い
初めて見る遊具や好きなおもちゃなど、対象への関心が強いほど、行動を止めることは難しくなります。
人数や情報が多い
誰がどの順番なのか分かりにくい、人の出入りが多い、大きな音がするなど、周囲の情報が多い場面では、順番を保ちにくくなります。
疲れや空腹が重なっている
普段は待てる子でも、疲労や空腹、眠気があると、感情や行動を調整しにくくなることがあります。
大人によってルールが変わる
あるときは並んだ順、別のときは大人が指名するなど、順番の決め方が頻繁に変わると、子どもは先を予測しにくくなります。
「待てなかった」という行動だけを見るのではなく、その前後にどのような条件があったかを見ると、必要な支えを考えやすくなります。
研究から分かること――待つ力は意志の強さだけでは決まらない
子どもの待つ力を扱う研究として、マシュマロ課題が広く知られています。
しかし、こうした課題の成績を、その子の生まれつきの自制心だけで説明することはできません。
事前に大人が約束を守ったかどうかを変えた実験では、信頼できる経験をした子どもの方が長く待つ結果が報告されました。
その後、よりなじみのある学校場面で行われた研究でも、環境の信頼性による違いが示されています。
子どもにとって、待つことが合理的かどうかは、「本当に約束が守られるか」「待てば自分の番が来るか」という経験にも左右されると考えられます。
また、日本と米国の子どもを比較した研究では、食べ物を待つ課題と贈り物を待つ課題で、両国の子どもの待ち方が異なりました。
日常的に何を待つ経験があるかによって、同じ子どもでも行動が変わる可能性があります。
これらの研究は、遊具やおもちゃの順番待ちを直接調べたものではありません。
ただし、子どもの「待つ」という行動が、意志の強さだけでなく、状況の分かりやすさ、経験、信頼、習慣によって変わることを考える手がかりになります。
子どもが待ちやすくなる環境と伝え方
「少し待って」を具体的にする
「あと一人」「青い服の子が終わったら次」のように、待ち時間の終わりを具体的に伝えます。
時間そのものより、人の動きや出来事で示した方が理解しやすい子どももいます。
順番を見えるようにする
並ぶ位置に目印を置く、順番カードを渡す、名前や写真を並べるなど、誰の次なのかを確認できる方法があります。
ただし、視覚的な方法が必要かどうかは場面や子どもによって異なります。
支援を増やすこと自体が目的ではなく、何が分からなくなっているのかに合わせて選びます。
待つ間にできることを用意する
長い時間、何もせずに立ち続けることは幼児にとって負担になります。
遊具を見ながら数を数える、次にやりたい遊びを話す、近くでできる短い行動を用意するなど、順番を失わずに注意を移せる方法を考えます。
ルールを一貫させる
「並んだ順」「一回ずつ交代」など、場面のルールをできるだけ分かりやすくします。
変更が必要なときは、変わった理由も短く伝えます。
大人の説明と実際の出来事が一致する経験は、「待てば自分の番が来る」という見通しにつながります。
大人が一緒に待つ
「待っていなさい」と離れるのではなく、必要な間はそばで順番を確認します。
自分だけでは難しいことを大人と一緒に経験し、少しずつ支えを減らしていくことで、子ども自身の方法へつながっていきます。
待てなかったときは、どう振り返るか
子どもが割り込んだり、おもちゃを取ったりしたときは、まず安全を確保し、順番を元に戻します。
「使いたかったね。でも、今は○○ちゃんの番だよ」と、気持ちを認めることとルールを伝えることは両立します。
気持ちを認めることは、割り込みを認めることではありません。
子どもが強く泣いたり怒ったりしている最中に、長く説明しても言葉が届きにくいことがあります。
その場では短い言葉で伝え、落ち着いてから振り返ります。
「何がしたかった?」
「誰の番だった?」
「次はどこで待とうか」
振り返りの目的は、反省させることだけではありません。
起きたことを整理し、次に使える行動を一緒に見つけることです。
また、割り込まれた側の子どもにも目を向けます。
元の順番に戻す、必要に応じて気持ちを代弁するなど、関係を修復するところまで支えることが大切です。
順番を待てない姿が続くときに観察したいこと
順番を待てないことが続く場合も、一場面だけで判断せず、次のような点を次見ていきます。
- 短く分かりやすい順番なら待てるか
- 「この子の次」と示せば理解できるか
- 大人がそばにいると行動が変わるか
- 疲労や空腹、興奮が強いときに増えるか
- 特定の遊びだけで起こるか、多くの生活場面で起こるか
- 順番以外の集団活動や日常生活にも大きな困りごとがあるか
観察した内容は、子どもを評価するためではなく、どのような支えがあれば参加しやすいかを考えるために使います。
順番待ちだけでなく、複数の生活場面で安全や集団参加に大きな影響が続く場合は、保護者と園で具体的な様子を共有します。
必要に応じて、自治体の子育て相談や発達相談などを利用することもできます。
一つの行動だけから、診断の有無を判断することはできません。
まとめ
子どもが順番を待つには、ルールを知るだけでなく、使いたい行動を止めること、自分が誰の次かを覚えること、待ち時間の終わりを予測すること、気持ちを調整すること、他の子の番を認めることが必要です。
これらの力は同じ速さで育るわけではなく、その日の状態や周囲の環境によっても表れ方が変わります。
待てなかった一場面から、「わがまま」「しつけが足りない」と性格や育て方を評価することはできません。
大人ができるのは、順番と待つ終点を分かりやすくし、必要な間は一緒に待ち、落ち着いた後に次の方法を考えることです。
そうした経験の積み重ねの中で、子どもはルールを守らされるだけでなく、なぜ順番が必要なのかを少しずつ理解していきます。
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参考文献・資料
- Garon, Bryson, Smith(2008)「就学前の実行機能」
- Diamond(2013)「実行機能」
- Montroyら(2016)「幼児期の自己調整」
- Droit-Volet(2013)「子どもの時間知覚」
- Quら(2021)「3~5歳児の時間知覚」
- Kiddら(2013)「環境の信頼性と報酬遅延」
- Moffettら(2020)「環境の信頼性に関する拡張研究」
- Yanaokaら(2022)「文化・習慣と報酬遅延」
- Kanngiesserら(2022)「社会によるルール執行の違い」
- Blakeら(2015)「7社会における公平感の発達」
- 文部科学省(2017)「幼稚園教育要領」
- 厚生労働省(2017)「保育所保育指針」