友達に「貸して」と言われても、おもちゃを抱え込む。
大人が「どうぞしようね」と促すと、ますます手放せなくなる。
そんな姿を見ると、「わがままなのでは」「人に優しくできないのでは」と心配になるかもしれません。
けれども、おもちゃを貸すことは、単に優しい気持ちがあるかどうかだけで決まる行動ではありません。
自分のものと相手のものを理解すること、遊びをいったん止めること、順番を待つこと、相手の希望に気づくこと、言葉でやり取りすることなど、いくつもの力が関わります。
一度貸せなかった場面だけを切り取って、その子の性格を「わがまま」と決める必要はありません。
この記事では、1~6歳ごろの共有する力の育ちを、研究と保育の公的資料をもとに読みときます。
この記事で分かること
- 「貸す」「分ける」「順番で使う」の違い
- 所有の理解と共有する力の関係
- 年齢とともに見られやすくなる変化
- 無理に取り上げず、やり取りを支える具体的な方法
おもちゃを貸せないことは、すぐに「わがまま」とは言えない
「貸して」と言われたら、すぐに渡す。
大人にとっては単純なルールに見えても、子どもにとっては複数の課題が重なっています。
今している遊びを止め、相手の望みを理解し、自分が使えなくなる時間を受け入れ、戻ってくる見通しを持たなければなりません。
とくに幼い子どもは、目の前の遊びへの集中や「今使いたい」という気持ちが強く、待つ時間を見通すこともまだ難しい時期です。
貸せない姿は、相手を困らせようとしているというより、自分の遊びや安心を守ろうとする反応として現れていることがあります。
反対に、すぐ貸せたからといって、いつでも共有の意味を十分理解しているとは限りません。
大人に促された、興味が別の物に移った、同じ物が複数あったなど、その場の条件も行動に影響します。
共有する力は、一回の行動ではなく、場面を重ねながら育っていくものとして見ることが大切です。
「貸す」「分ける」「みんなで使う」は同じではない
日常ではまとめて「シェア」と呼ばれますが、子どもが取り組んでいる課題は場面によって異なります。
大人が違いを整理すると、必要な支えも見えやすくなります。
貸す
自分が使っている物を、一定の時間だけ相手に渡し、あとで戻ってくることを受け入れる行為です。
「返ってくる」という見通しや、遊びを中断する力が関わります。
分ける
食べ物、シール、積み木など、複数ある物の一部を相手に渡す行為です。
渡した分が自分の手元から減るため、自分と相手の取り分を比べる経験にもつながります。
研究で扱われる「sharing」は、このような分配課題を指すことが多く、日常のおもちゃの貸し借りと完全に同じではありません。
順番で使う・一緒に使う
園や公園の遊具、共同のおもちゃでは、個人の所有物を渡すのではなく、共通の物を順番で使ったり、同じ遊びを組み立てたりします。
ここでは、ルールの理解、待つ力、相手との調整がより大きく関わります。
「自分のもの」が分かることも、共有の発達の一部
「これは自分の」と主張する姿は、共有と反対に見えるかもしれません。
しかし、自分の物と他者の物を区別する理解は、誰が何を使い、誰の許可が必要かを考える土台でもあります。
2~4歳の子どもを対象にした研究では、最初に物を持っていた人を所有者だと推測する傾向が示されています。
また、2~3歳ごろには、自分の所有物を無断で取られたときに抗議する姿が見られ、3歳児では第三者の所有権への理解もより明確になっていました。
18か月児と24か月児を対象にした研究では、24か月児のほうが自発的に共有することが多く、所有の理解が共有行動と関連していました。
18か月児も、相手から分かりやすく求められると共有することがあります。
つまり、「自分のもの」という理解が育つことは、共有を妨げるだけではなく、誰の物をどのように扱うかを学ぶ過程でもあります。
共有するためには、いくつもの力が必要になる
相手の希望に気づく
共有するには、相手がその物を欲しがっていることに気づく必要があります。
幼い子どもは、相手が手を伸ばす、言葉で頼む、大人が気持ちを説明するといった手がかりが明確なほど、相手の希望を捉えやすくなります。
自分の気持ちと行動を調整する
相手の希望が分かっても、「まだ使いたい」という自分の気持ちは残ります。
その気持ちを抱えながら待つ、区切りで交代する、別の遊びを選ぶといった調整が必要です。
公平な分け方を「よい」と理解することと、実際に自分の取り分を減らすことの間には差があります。
3~8歳を対象にした研究でも、幼い時期には平等を支持しながら、実際の分配では自分に多く残す傾向が示されました。
言葉や身ぶりでやり取りする
「あとで」「これが終わったら」「一緒に使おう」「代わりにこっちはどう?」と伝えられるようになると、取るか取られるかだけではない解決方法が増えます。
まだ十分に話せない時期には、大人が短い言葉や身ぶりで双方の気持ちを代弁することが支えになります。
共有する姿は年齢とともにどう変わるのか
年齢はあくまで大まかな見通しです。
同じ年齢でも、言葉、気質、きょうだい経験、相手との関係、疲れや空腹、物への思い入れによって姿は変わります。
以下を「この年齢なら必ずできる」という基準にはしないでください。
1~2歳ごろ
目の前にある物を使いたい気持ちが強く、「あとで返ってくる」という見通しはまだ持ちにくい時期です。
自分の物と相手の物への関心が育ち、所有を示す言葉も増えていきます。
共有は、相手の求めがはっきりしているときや、大人が具体的に支えたときに起こりやすくなります。
3~5歳ごろ
相手の気持ちや簡単なルールを理解し、言葉で交渉する力が広がります。
一方で、理解できることと、その瞬間に自分の気持ちを調整できることは同じではありません。
友達と遊びたい気持ちが強まるほど、おもちゃをめぐる衝突も起こります。
大人の仲立ちを受けながら、順番、交換、共同使用、別の選択肢を試していく時期です。
5~6歳ごろ
集団の目的や相手との関係を考えながら、分け方や順番を相談する姿が増えていきます。
共同で得た物をより平等に分ける傾向は、3歳前後から見られるという実験研究もあります。
ただし、大切な物、遊びの途中、疲れているときなどには、年長の子どもでも貸したくないことがあります。
貸せるときと貸せないときがあるのはなぜ?
共有行動は、子どもの中に固定された「優しさの量」だけで決まりません。
何を共有するのか、どれだけ大切な物か、相手は誰か、遊びの途中か、代わりがあるか、大人がどう求めたかといった条件に左右されます。
Dunfield(2014)の研究レビューでは、3歳未満の子どもの共有は、相手の希望が明確に示されているとき、共有する負担が小さいとき、相手が身近な人であるときに起こりやすいと整理されています。
ただし、これらは主に実験課題から得られた傾向であり、日常のおもちゃの貸し借りにそのまま当てはまるとは限りません。
また、3~4歳児を対象とした実験では、負担のある選択を自分で決めた子どもが、その後の別の場面でより多く共有しました。
これは、子ども自身が選ぶ経験が向社会的な行動を支える可能性を示します。
ただし、シールや人形を使った実験であり、「必ず自分で決めさせれば貸せるようになる」という因果法則として日常へ単純に当てはめることはできません。
無理に取り上げる前に、大人が考えたいこと
共有を教えたいときほど、すぐに取り上げて相手へ渡すより、子どもが状況を理解し、次の行動を選べるように整えることが大切です。
まず、物と遊びの状況を確かめる
その物は子どもの私物か、家庭や園の共有物か。
今まさに遊びが続いているのか、使い終わっているのか。長く独占しているのか、手に取った直後なのか。
状況によって必要な声かけは変わります。
双方の気持ちを短く言葉にする
「まだ使いたいんだね」「○○ちゃんも使いたいって」と、どちらかを悪者にせずに整理します。
相手の気持ちを説明することは、今すぐ譲るよう強制することとは違います。
親子の会話を調べた研究では、感情を尋ねたり説明したりする大人の語りと、幼児の共有・援助行動に関連が見られました。
ただし相関研究であり、声かけだけが行動を変えたと断定はできません。
順番と「戻ってくる」を見えるようにする
砂時計、短いタイマー、順番カード、「線路を一周したら」など、終わりの目印を具体的にします。
「あとで」は幼い子どもには長さが分かりにくいため、見て分かる区切りが役立ちます。
約束したら、大人が交代と返却まで見届けます。
私物と共有物のルールを分ける
大切な私物まで常に貸すよう求める必要はありません。
貸したくない物は遊ぶ前にしまう、持ち出すなら扱い方を相談するなど、安心を守る選択肢も用意します。
一方、共有のおもちゃは「みんなの物だから順番で使う」と、場のルールを簡潔に伝えます。
代わりの遊び方を用意する
同じ種類のおもちゃ、役割を分けられる道具、待っている間にできる遊びを示します。
たとえば電車なら、一人が車両を動かし、もう一人が駅や線路を作る方法もあります。
必ず一緒に遊ばせるのではなく、選べる案として示すことがポイントです。
小さな選択を子どもに戻す
「赤と青、どちらなら貸せる?」「一周したら交代と、砂時計が終わったら交代、どちらにする?」など、守れる範囲の選択肢を出します。
すぐに貸さない選択を認める場合も、「ずっと使えない」状態にならないよう、大人が次の見通しを支えます。
避けたいのは、貸せたかどうかだけで優しさを評価すること
「貸せない子は意地悪」「お兄さん・お姉さんだから我慢して」「優しい子なら貸せるよ」と人格や立場に結びつけると、子どもは自分の気持ちを隠したり、相手に譲ったふりをしたりすることがあります。
共有を教える目的は、いつでも自分を後回しにすることではありません。
大切なのは、自分の気持ちと相手の気持ちの両方を扱い、状況に合う方法を探すことです。
「今日は貸せなかったけれど、次は順番を相談できた」「嫌だと手ではなく言葉で伝えられた」といった変化も、人と関わる力の育ちに含まれます。
もし取り合いが、叩く、押す、かむなどの行動に発展したら、まず安全を確保します。
そのうえで、落ち着いてから状況と言葉をつなぎます。
危険な行動を止めることと、「貸せない気持ち」を否定しないことは両立できます。
研究結果を日本の暮らしへ当てはめるときの注意
共有に関する研究の多くは、少人数の実験室で、シール、食べ物、玩具などを分ける課題を用いています。
相手が大人か子どもか、知っている相手か、共同で得た物かによって結果は変わります。
家庭や園で、思い入れのあるおもちゃを遊びの途中で貸す場面とは条件が異なります。
公平さの発達を7つの社会で比較した研究では、文化によって、自分が多くもらう不公平を避ける時期や程度に違いが見られました。
この研究に日本は含まれていません。
海外の研究で示された年齢を、日本のすべての子どもにそのまま当てはめることはできません。
日本の保育所保育指針と幼稚園教育要領は、友達との関わり、共通の目的、葛藤、折り合い、自己調整を、生活と遊びの中で育つものとして捉えています。
特定の年齢で「貸せること」を合格基準にする資料ではありません。
子どもの姿は、家庭や園でのルール、物の位置づけ、関係性と合わせて読みとく必要があります。
貸せなかった場面も、人と関わる力が育つ過程
おもちゃを貸せない姿は、それだけでわがままの証拠ではありません。
自分の物を理解し、遊びを大切にし、相手の希望に気づき、気持ちを調整し、言葉で交渉する。
共有する力は、こうした複数の力が少しずつ結びついて育ちます。
大人にできるのは、子どもの手から物を奪って「正解」を実行させることではありません。
私物と共有物を整理し、双方の気持ちを言葉にし、順番や返却を見えるようにし、代わりの選択肢を用意することです。
貸せたかどうかだけでなく、相手を見た、待とうとした、言葉で伝えた、別の方法を選んだという小さな変化を見ていきましょう。
まとめ
子どもがおもちゃを貸せない姿は、それだけで「わがまま」や「意地悪」を意味するものではありません。
共有するためには、自分のものと相手のものを理解すること、相手の希望に気づくこと、遊びを中断して気持ちを切り替えること、順番を待つこと、言葉や身ぶりでやり取りすることなど、さまざまな力が必要です。
こうした力は、年齢とともに一斉に身につくのではなく、日々の遊びや人との関わりを通して少しずつ結びついていきます。
大人にできるのは、子どもの手からおもちゃを取り上げて「貸す」という行動だけをさせることではありません。
私物と共有物の違いを分かりやすく伝え、双方の気持ちを言葉にし、順番や返却の見通しを示しながら、子どもが選べる方法を用意することが大切です。
すぐに貸せたかどうかだけで判断せず、相手の気持ちに気づいた、待とうとした、言葉で伝えた、別の方法を選べたという小さな変化も、共有する力が育っている姿として見守っていきましょう。
関連記事
参考文献・公的資料
- Dunfield, K. A.(2014)A construct divided: Prosocial behavior as helping, sharing, and comforting subtypes. Frontiers in Psychology, 5, 958.
- Brownell, C. A., Iesue, S. S., Nichols, S. R., & Svetlova, M.(2013)Mine or yours? Development of sharing in toddlers in relation to ownership understanding. Child Development, 84(3), 906–920.
- Friedman, O., & Neary, K. R.(2008)Determining who owns what: Do children infer ownership from first possession? Cognition, 107(3), 829–849.
- Rossano, F., Rakoczy, H., & Tomasello, M.(2011)Young children’s understanding of violations of property rights. Cognition, 121(2), 219–227.
- Smith, C. E., Blake, P. R., & Harris, P. L.(2013)I should but I won’t: Why young children endorse norms of fair sharing but do not follow them. PLOS ONE, 8(3), e59510.
- Hamann, K., Warneken, F., Greenberg, J. R., & Tomasello, M.(2011)Collaboration encourages equal sharing in children but not in chimpanzees. Nature, 476, 328–331.
- Blake, P. R., et al.(2015)The ontogeny of fairness in seven societies. Nature, 528, 258–261.
- Chernyak, N., & Kushnir, T.(2013)Giving preschoolers choice increases sharing behavior. Psychological Science, 24(10), 1971–1979.
- Brownell, C. A., Svetlova, M., Anderson, R., Nichols, S. R., & Drummond, J.(2013)Socialization of early prosocial behavior: Parents’ talk about emotions is associated with sharing and helping in toddlers. Infancy, 18(1), 91–119.
- 厚生労働省「保育所保育指針」
- 文部科学省「幼稚園教育要領」