「同じ年齢の子は、もうできているのに」
「発達の目安から外れているように見える」
「この行動は、まだ幼いということなのだろうか」
子どもの育ちについて調べると、年齢別の発達段階や、「何歳までに何ができるか」を示した情報が数多く見つかります。
こうした目安は、子どもの変化を理解する手がかりになります。
一方で、数字や項目だけを見ていると、発達が年齢とともに同じ順序、同じ速さで進むもののように感じられるかもしれません。
実際の子どもの発達は、もっと複雑です。
身体や運動、言葉、考える力、感情、人との関係などが互いに関わりながら、子ども自身の特徴や経験、周囲の環境との間で変化していきます。
同じ年齢でも得意なことや関心は異なり、同じ子どもでも、場面や相手によって表す力が変わります。
この記事では、年齢別の特徴を詳しく見る前に知っておきたい「子どもの発達」の基本的な考え方を、研究と日本の公的資料から整理します。
この記事で分かること
- 子どもの発達とは、どのような変化を指すのか
- 身体・言葉・感情・社会性などの領域は、どのように関係しているのか
- 年齢別の発達の目安をどう読めばよいのか
- 遺伝、経験、環境が発達にどう関わるのか
- 子どもの姿を見るときに、何を手がかりにすればよいのか
子どもの発達とは何か
子どもの発達とは、単に身長が伸びたり、できることの数が増えたりすることだけではありません。
身体の動かし方が変わる、言葉で気持ちを伝えられるようになる、物事の関係に気づく、感情との付き合い方が変わる、相手の存在を意識して行動するなど、子どもの身体・行動・理解・感情・人間関係が、時間や経験の中で変化していく過程を指します。
一般に「成長」は、身長や体重、語彙数など、量の増加を表すときに使われることがあります。
それに対して「発達」は、物事の捉え方や行動の仕方が変わるなど、質的な変化も含む言葉です。
ただし、日常では「心の成長」「言葉の成長」のように両者が重なって使われます。
成長と発達を厳密に切り分けることより、目に見える変化だけでなく、その奥にある理解や感情、経験の積み重なりまで見ることが大切です。
発達科学では、発達を子どもの内側だけで起こる変化とは考えません。
発達心理学者アーノルド・サメロフは、子どもと環境が互いに影響し合いながら変化するという、相互作用的な発達観を示しています。
子どもは周囲から一方的に影響を受けるだけでなく、自分の表情、行動、関心、気質などを通して、周囲の大人の関わりや環境にも働きかけています。
つまり発達とは、あらかじめ決められた能力が順番に現れるだけの過程ではなく、子どもと周囲の世界とのやりとりの中で形づくられていくものです。
発達を考える主な領域
子どもの発達は、いくつかの領域に分けて説明されることがあります。
ただし、分類方法は研究分野や制度によって異なり、唯一の正しい分け方があるわけではありません。
ここでは、0~6歳の育ちを理解しやすくするために、主に4つの領域に整理します。
身体・運動の発達
身体の成長、感覚の働き、姿勢や移動、手指の操作、食事や着替えなど、身体を使って生活する力に関わる領域です。
乳児が手を伸ばして物に触れるようになると、それまで届かなかった物を調べられるようになります。
歩けるようになると、自分で移動して人や物へ近づく機会が増えます。
このように、運動能力の変化は、単に「動けることが増える」だけでなく、新しい経験を得るための条件にもなります。
認知・言葉の発達
注意を向ける、覚える、比べる、予測する、物事の関係を理解する、言葉を聞いて意味を捉える、自分の考えや気持ちを表現するといった力に関わります。
言葉の発達も、単語の数だけでは捉えられません。
相手の表情や声の調子を受け取る、指差しや身振りで伝える、言葉を場面に合わせて使うなど、人とのやりとり全体の中で育っていきます。
0~6歳の言葉の育ちを、理解・表現・会話のつながりから詳しく知りたい方は、「子どもの言葉はどう育つ?」をご覧ください。
感情・自己調整の発達
自分の感情を表す、感情の違いに気づく、安心できる人の助けを借りて落ち着く、注意や行動を少しずつ調整するといった力に関わります。
乳幼児は、初めから一人で感情を整えられるわけではありません。
泣いたときに抱いてもらう、気持ちを言葉にしてもらう、次に起こることを知らせてもらうなど、大人と一緒に気持ちを整える経験を重ねながら、自分で使える方法を少しずつ増やしていきます。
人間関係・社会性の発達
人に関心を向ける、やりとりを楽しむ、相手の存在を意識する、まねる、協力する、思いの違いを調整するといった力に関わります。
社会性は、「集団の指示に従える」「友達と仲良く遊べる」といった姿だけを指すものではありません。
一人で安心して遊べること、困ったときに大人を頼ること、自分の意思を表すことも、人との関係を築く土台になります。
米国の全米科学・工学・医学アカデミーによる誕生から8歳までの発達研究の報告書は、発達領域を明確に切り離すことは難しく、互いに支え合いながら機能すると説明しています。
例えば、友達と一緒に遊ぶためには、相手への関心だけでなく、言葉、記憶、感情調整、身体の動きなど、複数の力が関わります。
日本の幼稚園教育要領や保育所保育指針では、幼児教育の内容を「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」の5領域で整理しています。
これは保育や教育の内容を総合的に考えるための枠組みであり、発達科学における領域分類とまったく同じものではありません。
どちらの枠組みにおいても、領域を別々に教え込むのではなく、生活や遊びの中で一体的に育つものとして捉える点は共通しています。
発達は一直線に進むわけではない
発達は、階段を一段ずつ上るように、いつも同じ方向へ進むとは限りません。
昨日は自分でできたことを、今日は大人にしてほしいと求めることがあります。
家庭ではよく話す子どもが、園ではほとんど話さないこともあります。
新しい環境に入ったときや、疲れているとき、関心が別のことへ向いているときには、持っている力が表れにくくなる場合があります。
これは、身につけた力がなくなったという意味ではありません。
子どもが持っている力を実際の場面で使うには、安心感、意欲、体調、相手との関係、環境の分かりやすさなど、さまざまな条件が関わるからです。
新しい力が育つ途中には、試し方が何度も変わることもあります。
初めは偶然できたことを繰り返し、うまくいく方法といかない方法を経験しながら、少しずつ安定して使えるようになります。
その過程では、できたりできなかったりする揺れが見られます。
運動発達についても、すべての子どもが同じ道筋を通るわけではありません。
世界保健機関(WHO)が、ガーナ、インド、ノルウェー、オマーン、米国の4~24か月の子ども816人を縦断的に調べた研究では、寝返りやお座り、立つ、歩くといった運動能力の獲得時期に広い幅が確認されました。
また、調査対象の4.3%は、手と膝を使った四つ這いを示しませんでした。
この研究は運動発達に限られ、一定の条件を満たした子どもを対象としたものです。
そのため、すべての発達領域やすべての子どもへ一般化することはできません。
それでも、代表的な発達の順序や時期が、そのまま一人ひとりの必須の道筋になるわけではないことを示す例です。
発達心理学には、一つの領域の変化が、時間をかけて別の領域や環境との関係へ広がる「発達カスケード」という考え方もあります。
例えば、移動できる範囲が広がることで探索や人とのやりとりが変化し、それが学びの機会へつながることがあります。
ただし、発達カスケードは、すべての子どもに同じ連鎖が起こるという意味ではありません。
ある力が別の力を必ず伸ばすという単純な因果関係ではなく、発達が時間とともに複数の領域へ波及する可能性を捉える枠組みです。
年齢の目安をどう読めばよいか
年齢別の発達の目安は、多くの子どもを観察し、ある行動や能力がどの時期に見られやすいかをまとめたものです。
子どもの今の姿を理解したり、これから起こり得る変化を予測したりするうえで役立ちます。
一方で、目安は「その年齢になれば全員ができなければならないこと」を示す合否表ではありません。
子どもの発達を見るときは、「できたか、できないか」だけでなく、次のような点も手がかりになります。
- 以前と比べて、どのような変化が見られるか
- どのような場面や相手なら、その力を表しやすいか
- 子どもは何に興味をもち、何をしようとしているか
- うまくいかないときに、どのような方法を試しているか
- 大人の助けがあればできるのか、一人でもできるのか
- その日の体調、疲れ、環境の変化が影響していないか
こども家庭庁の「はじめの100か月の育ちビジョン」は、子どもの発達は一人ひとり異なるペースで、絶えることのない連続性の中で進むとしています。
また、保育所保育指針も、一人ひとりの発達過程に応じ、個人差に十分配慮することを求めています。
年齢の目安と照らすこと自体が悪いわけではありません。
大切なのは、年齢だけで子ども全体を評価せず、その子のこれまでの変化や、力が表れる条件を合わせて見ることです。
遺伝と環境は発達にどう関わるのか
子どもの発達については、「生まれつきなのか」「育て方や環境で決まるのか」と考えたくなることがあります。
しかし、現在の発達科学では、遺伝と環境を、どちらか一方を選ぶ問題としては捉えません。
身体の特徴、感覚の働き、気質などには、生物学的・遺伝的な要因が関わります。
一方、食事や睡眠、遊び、周囲の人とのやりとり、言葉や文化、利用できる場所や物なども、子どもの経験を形づくります。
さらに、遺伝的な特徴と環境は独立して働くとは限りません。
同じ環境でも影響の受け方が異なることがあり、子どもの特徴によって、周囲から得られる経験そのものが変わることもあります。
例えば、よく動く子どもと、静かに観察することを好む子どもでは、大人の関わり方や、子ども自身が選ぶ遊びが異なるかもしれません。
大人が同じように働きかけても、子どもの関心や受け止め方によって、その後のやりとりは変わります。
遺伝と環境の相互関係を扱ったマイケル・ラターのレビューや、子どもと環境の相互作用を重視するサメロフの理論は、発達を一方向の原因と結果で説明することの難しさを示しています。
このことは、発達の違いを「本人の生まれつき」だけで説明できないという意味でもあり、「親の育て方」や「保育者の関わり方」だけに原因を求められないという意味でもあります。
子どもの発達は、多くの条件が長い時間をかけて影響し合った結果です。
特定の一つの行動から、その原因を一つに決めることはできません。
乳幼児期が大切でも、この時期にすべてが決まるわけではない
乳幼児期は、身体、脳、人との関係、感情、言葉などが大きく変化する時期です。
子どもは、日々の生活と遊び、人とのやりとりを通して、多くの経験を積み重ねます。
遊びや生活の経験がどのように学びになるのかは、幼児期の学びと教育のつながりで詳しく解説しています。
発達には、ある種類の経験から特に影響を受けやすい「感受性期」があると考えられています。
しかし、感受性期の時期や仕組みは、神経回路や能力の種類によって異なります。
エリック・クヌーセンによる感受性期のレビューでも、感受性期が終わった後の可塑性、つまり経験に応じて変化する可能性が、多くの神経回路に残るとされています。
そのため、「3歳までに脳が完成する」「幼児期を過ぎたら取り戻せない」「早く刺激を与えなければ手遅れになる」といった説明は、発達科学を過度に単純化しています。
乳幼児期が重要であることと、この時期だけで将来が決まることは同じではありません。
子どもの発達は乳幼児期の後も続き、環境や経験との関係も変わり続けます。
研究から分かっていることと、まだ分かっていないこと
現在の研究や公的資料から、子どもの発達について、次のような点は比較的共通して示されています。
- 発達には複数の領域があり、互いに関係している
- 発達の時期や道筋には個人差がある
- 子ども自身の特徴と環境が相互に影響する
- 人との関係、遊び、身体を使った経験は、子どもの学びと発達の重要な環境になる
- 年齢だけで子どもの能力や行動を判断することはできない
一方、領域同士の具体的な関係には、まだ十分に分かっていない部分があります。
4~16歳の子どもの運動能力と認知能力の関係を調べた21研究のシステマティックレビューでは、一部の運動能力と高次の認知能力に関連が確認された一方、多くの組み合わせでは、関連がない、または判断するための証拠が不足していました。
対象年齢の多くが乳幼児期より高いため、そのまま0~6歳へ当てはめることもできません。
「発達領域は関係している」ということから、「特定の運動をさせれば認知能力が高まる」「この遊びをすれば言葉が伸びる」といった効果を直接導くことはできません。
遊びが学びにつながる過程と、研究で確かめられている範囲は、遊びと学びのつながりで詳しく整理しています。
関連が確認された研究であっても、どちらが原因でどちらが結果なのか、別の要因が両方に影響しているのかを区別できない場合があります。
研究参加者の偏りも重要な問題です。
マーク・ニールセンらが、2006~2010年に発達心理学の主要3誌へ掲載された研究を分析したところ、約90%が西洋・高学歴・工業化・富裕・民主主義社会、いわゆるWEIRD社会の参加者に依存していました。
子どもの生活習慣、大人との関わり方、移動経験、集団への期待、言葉の使い方は、文化や社会制度によって異なります。
海外研究から得られた結果を、日本のすべての子どもに共通する基準として扱わないことが必要です。
研究には、対象年齢、国や地域、参加人数、測定方法、研究時期など、それぞれの範囲があります。
ある研究で確認された結果が、別の年齢や環境でも同じように確認されるとは限りません。
子どもの姿を見るときの手がかり
子どもの発達を理解するために必要なのは、同年齢の子どもとの差を数えることだけではありません。
まず、その子自身の以前の姿と比べてみます。
言葉の数が急に増えていなくても、相手の話を聞こうとする時間が長くなっているかもしれません。
友達と一緒に遊んでいなくても、近くで同じ遊びを観察したり、道具をまねて使ったりしているかもしれません。
うまくできなかった場面だけでなく、できた場面にも注目します。
家庭ではできるのか、園ではどうか、慣れた相手とならどうか、大人が順序を示すと分かるのか。
同じ子どもの中にある場面差は、必要な環境や支え方を考える手がかりになります。
結果だけでなく、過程を見ることも大切です。
子どもは何をしようとしていたのか。
どのような方法を試していたのか。
困ったときに誰を頼ったのか。
大人の助けを受けた後、もう一度やってみようとしたのか。
そこには、「できた・できなかった」だけでは見えない育ちがあります。
一つの行動だけを見て、「わがまま」「落ち着きがない」「社会性がない」と子ども全体を決めつけることはできません。
行動が現れた場面、子どもの気持ち、発達の過程、体調、環境、人との関係を合わせて考えることで、その姿の意味が少しずつ見えてきます。
まとめ
子どもの発達は、年齢とともに能力が同じ順序で増えていく単純な階段ではありません。
身体・運動、認知・言葉、感情・自己調整、人間関係・社会性などが互いに関わり、子ども自身の特徴と経験、周囲の人、文化、生活環境とのやりとりの中で変化していきます。
年齢別の目安は、育ちを理解するための参考になります。
しかし、子どもを評価する合否表ではありません。
「何歳でできたか」だけでなく、その子が何に関心をもち、どのような方法を試し、どのような場面で力を表しているかを見ること。
それが、目に見える行動だけで判断せず、その奥にある「育ち」を読みとく出発点です。
関連記事
- 0歳児の発達の特徴とは?誕生から1歳までに見られる育ち
- 1歳児の発達の特徴とは?言葉・運動・自我の育ち
- 2歳児の発達の特徴とは?「自分で」と自己主張が増える理由
- 3歳児の発達の特徴とは?言葉・想像力・友達関係の変化
- 4歳児の発達の特徴とは?感情と社会性が大きく育つ時期
- 5~6歳児の発達の特徴とは?就学前に育つ力を考える
- 子どもの感情調整はどのように育つ?自分で落ち着けるようになるまで
- 子どもの社会性はどう育つ?0歳から6歳までの発達の流れ
参考文献・出典
- こども家庭庁(2023)幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン(はじめの100か月の育ちビジョン)
- 厚生労働省(2017)保育所保育指針
- 文部科学省(2017)幼稚園教育要領
- こども家庭庁(2017)幼保連携型認定こども園教育・保育要領
- Institute of Medicine & National Research Council.(2015)Transforming the Workforce for Children Birth Through Age 8: A Unifying Foundation. National Academies Press. https://doi.org/10.17226/19401
- Sameroff, A.(2010)A Unified Theory of Development: A Dialectic Integration of Nature and Nurture. Child Development, 81(1), 6–22. https://doi.org/10.1111/j.1467-8624.2009.01378.x
- Masten, A. S., & Cicchetti, D.(2010)Developmental Cascades. Development and Psychopathology, 22(3), 491–495. https://doi.org/10.1017/S0954579410000222
- WHO Multicentre Growth Reference Study Group.(2006)WHO Motor Development Study: Windows of Achievement for Six Gross Motor Development Milestones. Acta Paediatrica Supplement, 450, 86–95. https://doi.org/10.1111/j.1651-2227.2006.tb02379.x
- Adolph, K. E., & Hoch, J. E.(2019)Motor Development: Embodied, Embedded, Enculturated, and Enabling. Annual Review of Psychology, 70, 141–164. https://doi.org/10.1146/annurev-psych-010418-102836
- van der Fels, I. M. J., et al.(2015)The Relationship Between Motor Skills and Cognitive Skills in 4–16 Year Old Typically Developing Children: A Systematic Review. Journal of Science and Medicine in Sport, 18(6), 697–703. https://doi.org/10.1016/j.jsams.2014.09.007
- Nielsen, M., Haun, D., Kärtner, J., & Legare, C. H.(2017)The Persistent Sampling Bias in Developmental Psychology: A Call to Action. Journal of Experimental Child Psychology, 162, 31–38. https://doi.org/10.1016/j.jecp.2017.04.017
- Rutter, M.(2007)Gene–Environment Interdependence. Developmental Science, 10(1), 12–18. https://doi.org/10.1111/j.1467-7687.2007.00557.x
- Knudsen, E. I.(2004)Sensitive Periods in the Development of the Brain and Behavior. Journal of Cognitive Neuroscience, 16(8), 1412–1425. https://doi.org/10.1162/0898929042304796