生まれたばかりの赤ちゃんと、1歳を迎える頃の子ども。同じ「0歳」でも、その姿は大きく違います。
視線で人を追い、声に応じ、手を伸ばし、姿勢を変え、ときには自分から移動して興味のあるものへ近づくようになります。
その変化を見ていると、「首がすわるのはいつ?」「まだはいはいをしないけれど大丈夫?」「あまり声を出さないのは遅い?」と、月齢ごとの目安が気になることもあるでしょう。
けれども、0歳の発達は、できることを順番に並べた表だけでは捉えきれません。
見ること、聞くこと、身体を動かすこと、人と気持ちを通わせること、物に触れて確かめることは、互いに影響し合いながら育ちます。
この記事では、誕生から1歳までに見られる育ちを、研究と公的資料をもとに読み解きます。
この記事で分かること
- 0歳児の感覚・運動・対人関係・探索が、どのように結びついて育つか
- 寝返り、座位、はいはい、歩行などの月齢目安をどう読めばよいか
- 泣く、声を出す、笑う、見つめるといった行動がもつ意味
- 睡眠や授乳、生活リズムに大きな個人差がある理由
- 発達が気になるとき、何を観察し、どこへ相談できるか
0歳の一年は「別々の力」が結びつく時期
厚生労働省の保育所保育指針は、乳児期の育ちを、身体だけでなく「身近な人と気持ちが通じ合うこと」「身近なものと関わり、感性が育つこと」も含めて捉えています。
これは、0歳児の発達が運動能力の獲得だけではないことを示しています。
たとえば、赤ちゃんが目の前の布へ手を伸ばす場面を考えてみましょう。
そこでは、布を見る、注意を向け続ける、姿勢を保つ、腕を動かす、触れた感触を受け取る、といった働きが同時に起きています。
うまく届かなければ身体を少し動かし、届けば握ったり口へ運んだりして、さらに情報を集めます。
大人とのやりとりも同じです。
声が聞こえる方向へ顔を向ける、表情を見る、声や手足の動きで応じる、不快なときに泣く、抱かれることで落ち着く。
こうした一つ一つは、感覚、運動、感情、社会性のいずれか一領域だけに分けられるものではありません。
0歳の一年を見るときに大切なのは、「何か一つができたか」だけでなく、いくつもの力がどう結びつき、以前と比べてどのように変わっているかを見ることです。
見る・聞く・感じる力が、人と物への関心につながる
乳児は、生まれたときから周囲を受け身で眺めているだけではありません。
明るさ、動き、音、声、触れられた感覚などを受け取り、注意を向ける対象を少しずつ変えていきます。
Farroniらの研究では、2~5日齢の新生児と4か月児を対象に、正面から視線を向ける顔と視線をそらした顔への反応が調べられました。
新生児が正面視の顔をより長く見る傾向や、4か月児の脳反応の違いが示されています。
この研究は、社会的な視線への感受性が非常に早い時期から見られる可能性を示しました。
ただし、実験で「より長く見る」ことと、日常でいつも目を合わせることは同じではありません。
眠い、空腹、刺激が多い、姿勢が不安定など、そのときの状態によって反応は変わります。
視線をそらすことも、刺激から少し休むための自然な行動になり得ます。
月齢が進むにつれて、赤ちゃんは動くものを目で追い、音の方向へ注意を向け、身近な人とそれ以外の人、見慣れた環境と新しい環境の違いに反応するようになります。
しかし、その現れ方や強さは一様ではありません。
「見つめる時間が長いほど発達がよい」という単純な比較はできません。
姿勢と移動の育ちには、順番にも月齢にも幅がある
0歳児の発達で、最も目につきやすいのが姿勢と移動の変化です。頭を持ち上げる、寝返る、支えながら座る、ひとりで座る、床を移動する、つかまり立ちをする、といった姿が見られるようになります。
しかし、運動発達は、あらかじめ決められた設計図どおりに一つずつ進むわけではありません。
発達研究では、身体の大きさや筋力、バランス、意欲、床や衣服、周囲の物、経験などが組み合わさり、その時点で可能な動きが現れると考えられています。
WHOの多国間研究では、ガーナ、インド、ノルウェー、オマーン、米国の健康な子ども816人を4~24か月にわたって追跡しました。
ひとり座りが確認された年齢の1~99パーセンタイルは3.8~9.2か月、ひとり歩きは8.2~17.6か月でした。範囲が大きく重なり、手と膝を使うはいはいを示さなかった子どもも4.3%いました。
この数値は、単に家庭で発達を判定するということではありません。
研究対象は一定の条件を満たす健康な子どもで、日本の子どもだけを調べたものでもありません。
重要なのは、同じ技能でも現れる時期に幅があり、すべての子どもが同じ中間段階を通るわけではないという点です。
早く座る、早く歩くことを目標にして練習を急ぐより、今の姿勢で安全に身体を動かし、興味のあるものへ手や視線を向けられる環境を整えることが、日々の育ちを支えます。
泣く・声・表情は、言葉より前のやりとり
乳児は、言葉を話す前からさまざまな方法で周囲へ働きかけます。
泣く、身体を動かす、視線を向ける・そらす、口元を動かす、笑うような表情を見せる、喃語のような声を出す。
大人はそれを受け取り、抱く、声をかける、姿勢を変える、少し待つなどして応じます。
泣き方や泣く時間は、最初の一年の中でも変わり、個人差も大きいことが分かっています。
17か国57研究をまとめた2022年の系統的レビューとメタ分析は、よく知られた「生後6週頃に必ず泣きのピークが来る」という一つの曲線だけでは、すべての乳児の変化を説明できないと指摘しました。
泣くことは重要な信号ですが、声だけから原因を一つに決めることもできません。
泣いていないときの発声にも、やりとりの芽があります。
Bornsteinらの研究では、日本を含む11か国で、684組の母親と生後約5か月半の乳児が観察されました。
発声の多さは地域によって大きく異なりました。
一方で、母親と乳児の双方に、相手の発声が終わったあとで声を返す傾向が見られました。
言葉になる前から、声の「行ったり来たり」が始まっていると考えられます。
スティルフェイスと呼ばれる実験では、普段どおりのやりとりの途中で、大人が短時間だけ無表情・無反応になります。
80を超える研究を検討したレビューとメタ分析では、その間に乳児の肯定的な表情や大人を見る行動が減り、否定的な感情が増えるという一貫した反応が確認されました。
乳児がやりとりの変化に敏感であることを示す結果です。
ただし、この実験を「一瞬でも反応しなければ悪影響がある」と読むのは誤りです。
日常の大人は、家事をし、ほかの人に対応し、疲れ、すぐに応じられないこともあります。
大切なのは絶え間なく反応することではなく、長い時間の中で、乳児の信号を受け止めたり、行き違ったあとに再びつながったりする関係です。
身近な大人と一緒に、気持ちと生活を整えていく
0歳児は、不快や興奮をいつも一人で落ち着かせられるわけではありません。
抱かれる、声を聞く、身体を支えられる、刺激の少ない場所へ移るなど、身近な大人の助けを受けながら状態を整えていきます。
このように、ほかの人と一緒に感情や覚醒の程度を調整することを「共同調整」と呼びます。
応答的な関わりとは、何でもすぐに与えることでも、泣かせないことでもありません。
表情、声、身体の動き、視線などから「今、何を伝えているのだろう」と考え、できる範囲で応じることです。
応じても泣き止まないことや、理由が分からないこともあります。
それだけで関係が損なわれたとはいえません。
0~3歳の子どもを対象とする養育者支援について、33か国の102件のランダム化比較試験をまとめたメタ分析では、平均すると、認知、言語、運動、社会情緒など複数の発達領域に小~中程度の効果が示されました。
応答的な養育を含むプログラムで、一部の効果が大きい傾向もありました。
一方で、プログラムの内容、対象、実施方法、評価尺度には大きな違いがあり、結果のばらつきも大きい研究です。
この結果から、特定の声かけや遊びをすべての家庭へ処方することはできません。
乳児の育ちを支える責任を一人の保護者だけに負わせず、家庭、保育、医療、地域がつながって、子どもと養育者の両方を支える視点が必要です。
物に手を伸ばし、口や手で確かめる
乳児にとって、物を触ることは「遊んでいるだけ」ではありません。
見たものへ手を伸ばし、触れ、握り、振り、落とし、口へ運ぶことで、硬さ、重さ、形、音、自分の動きとの関係を確かめています。
22人の健康な乳児を出生から2歳まで追ったLoboらの研究では、物への行動が年齢、姿勢、物の性質に応じて変わり、最初の半年にも探索の仕方が豊かになることが示されました。
ただし、これは小規模な研究であり、「何か月ならこの持ち方ができる」という標準表ではありません。
姿勢が変わると、見える範囲や手の使い方も変わります。
安定して座れるようになることで両手を使いやすくなる子もいれば、仰向けの方が落ち着いて物を確かめられる子もいます。
今の姿勢で安全に手を動かせることが大切です。
日常では、高価な知育玩具をそろえることより、誤飲やけがの危険を取り除き、乳児が自分から見たり触れたりできる時間と空間を確保することが基本になります。
口へ運ぶ行動も乳児期の探索の一部であるため、物の大きさや破損、衛生など安全面は大人が確認します。
睡眠・授乳・生活リズムは、同じ月齢でもそろわない
生まれたばかりの頃は、眠る時間が昼夜に分散しています。
成長とともに夜間へ睡眠がまとまり、昼寝の回数も変わっていきますが、その進み方には大きな個人差があります。
0~12歳の健康な子どもの睡眠を扱った34研究の系統的レビューでは、とくに乳児期の睡眠時間に広い幅があり、最初の半年に変化が大きいことが示されました。
国・地域による違いも見られましたが、研究の多くは保護者の記録や質問紙を用いた観察研究で、測定方法も一様ではありませんでした。
そのため、「この月齢なら夜は何時間続けて眠るはず」「夜に起きるから発達が遅い」とは判断できません。授乳の間隔や量も、栄養方法、体格、健康状態などによって異なります。
本記事の一般的な発達情報だけで、睡眠や授乳を一律に変えることは勧められません。
子どもの飲み方や体重増加、睡眠、泣き方などで心配があるときは、月齢表との比較だけでなく、健診や医療機関で個別に確認することが大切です。
月齢の目安は「点」ではなく「変化の流れ」で読む
月齢の目安は、乳児期に起こりやすい変化を知り、観察や相談のきっかけにするための情報です。
一つの項目ができるかどうかだけで、その子全体の発達を評価するものではありません。
目安を見るときは、次の三つを区別すると分かりやすくなります。
1.平均と範囲は違う
平均的な月齢より遅いことが、直ちに問題を意味するわけではありません。
WHOの運動発達研究でも、達成年齢には数か月単位の幅がありました。
2.家庭で見る姿と、健診で確認することは目的が違う
健診では、身体測定、健康状態、運動や反応などを総合して確認します。
母子健康手帳情報支援サイトでは、3~4か月児健診の確認項目の例として、あやすと笑うか、声を出すか、目で動くものを追うか、首のすわりなどが示されています。
これらは一項目の合否を決めるためではなく、必要な支援や詳しい確認につなげるためのものです。
3.一日の姿より、時間の中での変化を見る
眠いときと機嫌のよいとき、家庭と健診会場、仰向けと座った姿勢では、同じ乳児でも反応が変わります。
数週間から数か月の中で、どのような新しい姿が増えたか、以前できていたことがどう変わったかを見ることが役立ちます。
発達について気になる状態が続く、以前見られた反応や動きが失われたように感じる、授乳や睡眠を含め日常生活への影響が大きいなど、心配な様子が見られる場合は、次の健診まで待つ必要はありません。
かかりつけの小児科、市区町村の母子保健担当、保健師などへ、気づいた具体的な姿を伝えて相談できますので活用してください。
0歳児を見るときの五つの手がかり
月齢表だけに頼らず、その子の育ちを捉えるためには、次の点が手がかりになります。
- 何に注意を向けているか
顔、声、光、動き、物など、興味の向かう先を見ます。 - 身体をどう使っているか
姿勢の完成度だけでなく、左右の手足、頭、体幹をどのように使って近づこうとしているかを見ます。 - どのように信号を送っているか
泣く、声を出す、笑う、視線を向ける・そらす、身体を動かすなど、その子なりの伝え方を見ます。 - 環境でどう変わるか
人、場所、音、姿勢、疲れや空腹によって変わる姿を比べます。 - 時間の中で何が変わったか
一回の成功より、以前より増えた行動、新しい試み、組み合わせの変化を見ます。
観察は、子どもを採点するためではありません。
子どもが今、何を感じ、何に関心をもち、どのように周囲へ働きかけているのかを理解するために行います。
まとめ
0歳の一年には、見る・聞く・感じる、姿勢を保ち移動する、泣く・声・表情で伝える、大人と一緒に気持ちを整える、物を手や口で確かめるといった大きな変化があります。
それらは別々に進むのではなく、身体、経験、環境、人との関係の中で結びつきながら育ちます。
寝返り、座位、はいはい、歩行などの時期や順番には幅があります。
睡眠、授乳、泣き方、発声にも個人差と文化差があります。
月齢目安は、早さを競ったり一つの項目で判断したりするためではなく、その子の変化を見つけ、必要なときに相談へつなぐための参考です。
目に見える「できた・まだできない」だけでなく、その奥で育っている注意、試行錯誤、やりとり、安心の積み重ねを見ていくことが、0歳児の育ちを読みとく手がかりになります。
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参考文献・出典
- こども家庭庁「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン(はじめの100か月の育ちビジョン)」
- 厚生労働省「保育所保育指針(平成29年厚生労働省告示第117号)」
- こども家庭庁「乳幼児健診に関する取組み」
- 母子健康手帳情報支援サイト「乳幼児健診について」
- World Health Organization, UNICEF, World Bank Group. “Nurturing care for early childhood development.”(2018)
- WHO Multicentre Growth Reference Study Group. “WHO Motor Development Study: Windows of achievement for six gross motor development milestones.”(2006)
- Adolph, K. E., & Franchak, J. M. “The development of motor behavior.”(2017)
- Farroni, T., Csibra, G., Simion, F., & Johnson, M. H. “Eye contact detection in humans from birth.”(2002)
- Mesman, J., van IJzendoorn, M. H., & Bakermans-Kranenburg, M. J. “The many faces of the Still-Face Paradigm: A review and meta-analysis.”(2009)
- Bornstein, M. H., et al. “Mother–infant contingent vocalizations in eleven countries.”(2015)
- Lobo, M. A., et al. “Not just playing around: Infants’ behaviors with objects reflect ability, constraints, and object properties.”(2014)
- Galland, B. C., et al. “Normal sleep patterns in infants and children: A systematic review of observational studies.”(2012)
- Vermillet, A.-Q., et al. “Crying in the first 12 months of life: A systematic review and meta-analysis of cross-country parent-reported data and modeling of the ‘cry curve.’”(2022)
- Jeong, J., et al. “Parenting interventions to promote early child development in the first three years of life: A global systematic review and meta-analysis.”(2021)