泣き止めない、怒って物を投げる、嫌なことがあるとその場から動けない――。
そんな姿が続くと、「いつになったら自分で気持ちを落ち着けられるのだろう」と心配になることがあります。
けれども、乳幼児期の感情調整は、最初から一人で行うものではありません。
身近な大人に抱かれる、気持ちを受け止めてもらう、少し待ってもらうといった経験を重ねながら、子どもは自分に合う整え方を少しずつ増やしていきます。
この記事では、0~6歳ごろの感情調整がどのように育つのかを、共同調整、言葉、注意、実行機能に関する研究から読みときます。
年齢はあくまで見通しであり、「この年齢ならできるはず」という合否の線引きではありません。
この記事で分かること
- 感情調整が、感情を我慢して見せない力とは異なること
- 大人との共同調整から、自分で整える方法が増えていく過程
- 言葉・注意・実行機能と感情調整の関係
- 子どもの育ちを見る手がかりと、大人ができる支え方
感情調整は「感情をなくす力」ではない
感情調整とは、悲しみや怒り、不安を感じなくすることではありません。
感情が生じたときに、その強さや続く時間、表し方を、状況や目的に合わせて調整していく働きです。
発達心理学では、自分で行う調整だけでなく、周囲の人から働きかけてもらう調整も含めて考えます。
たとえば、悔しくて泣くこと自体は「調整できていない」証拠ではありません。
泣きながら大人のそばへ来る、抱っこを求める、少し離れて気持ちを鎮める、言葉で伝え直す、遊びに戻る。
こうした回復までの過程にも、感情を整える力が表れています。
大切なのは感情を見せなかったかではなく、感情に圧倒されすぎず、安全を保ちながら次の行動へ戻れたかです。
子どもは大人と一緒に気持ちを整えることから始める
乳児期の感情調整は、人との関係の中にある
赤ちゃんは、空腹や眠気、刺激の強さをまだ自分だけでは調整しきれません。
泣く、視線をそらす、体を丸める、指を吸うといった反応に加え、大人に抱かれる、声をかけられる、刺激の少ない場所へ移されることで落ち着きを取り戻します。
ここで大人がしているのが「共同調整(co-regulation)」です。
共同調整は、子どもの代わりに感情を消すことでも、何でも要求どおりにすることでもありません。
安全を守り、刺激や要求の量を調節し、子どもが使える方法を一緒に探すことです。
養育者の反応、感情についての会話、行動の手本などは子どもの感情の育ちと関連しますが、その関連は平均すると小さく、研究の多くは相関研究です。
したがって、子どもの落ち着きにくさを養育者の関わりだけの結果とみなすことはできません。
共同調整は、自立の反対ではない
大人に助けを求めることは、自己調整の失敗ではありません。
自分の状態に気づき、使える支えを選ぶことも調整の一部です。
幼児期は、すべてを一人で行う状態へ急に切り替わるのではなく、「大人に大きく支えてもらう」「一緒にやる」「見守られながら試す」が場面ごとに行き来します。
疲れ、空腹、体調不良、初めての場所などでは、普段より多くの支えが必要になるのが自然です。
0~6歳で、感情を整える方法はどう変わる?
発達は階段のように一方向へ進むわけではありません。
同じ子でも、家庭では言葉で伝えられるのに園では固まることもあれば、昨日できた切り替えが今日は難しいこともあります。
以下は、使いやすい方法が増えていくおおまかな見通しです。
乳児期:身体と人の助けを借りて整える
乳児期には、視線をそらす、眠る、指を吸う、身体を動かすなどの方法と、大人からの抱っこや声かけが中心です。
大人は「静かな場所へ移る」「声や動きをゆっくりにする」「眠気や空腹を確かめる」など、刺激と身体状態を整える役割を担います。
1~2歳ごろ:強い気持ちと、限られた手段の間で揺れる
やりたいことが増える一方、言葉や待つ力はまだ発達の途中です。思いが通らないと、泣く、床に寝転ぶ、押すなど、身体全体で表すことがあります。
大人のもとへ来る、別の物へ注意を移す、短い言葉や身ぶりで求めるといった方法も少しずつ使われます。
感情が大きい最中に長く説明するより、安全を確保し、短い言葉で気持ちと限界を伝えるほうが届きやすい時期です。
3~4歳ごろ:言葉や遊びを使える場面が増える
「悔しかった」「まだやりたかった」など、経験を言葉で表せる場面が増えます。
気をそらす、助けを求める、ごっこ遊びの中で出来事をやり直すといった方法も広がります。
ただし、言葉を知っていても、感情が強い最中には使えないことがあります。
落ち着いた後に一緒に振り返ることで、次に使える言葉や方法が増えていきます。
5~6歳ごろ:状況を見通し、方法を選べる場面が増える
順番を待つために別のことをする、気持ちを言葉で説明する、困ったときに大人へ相談するなど、状況に応じた方法を選べる場面が増えます。
それでも、強い悔しさや不安の場面では支えが必要です。
「もう大きいから一人で落ち着けるはず」ではなく、できるときの条件と難しいときの条件を比べる視点が役立ちます。
言葉・注意・実行機能は、感情調整とどう関係する?
言葉は、気持ちを扱うための道具になる
言葉が増えると、助けを求める、嫌だったことを説明する、次の見通しを自分に言い聞かせるといった方法を使いやすくなります。
乳幼児120人を追った研究では、言語能力の高さや伸びが、怒りの表出の減少や、注意をそらす・大人に助けを求める方略と関連していました。
別の縦断研究でも、2歳時点の語彙がその後の自己調整の軌跡を予測しました。
ただし、「言葉が多ければ感情調整もよい」と単純には言えません。
これらは米国の特定地域や支援事業に参加した家庭を対象とした研究で、測定されたのは感情調整だけでなく広い意味の自己調整を含む場合があります。
言葉の発達がゆっくりな子どもには、身ぶり、写真、選択肢、落ち着く場所など、言葉以外の手段を用意することも大切です。
注意を動かすことも、立派な調整の方法
待つ間に別の遊びを見る、嫌な刺激から視線を外すなど、「注意を動かす」ことは感情の強さを変える方法です。
24か月から5歳まで同じ子どもを追った研究では、待機課題の中で、自分を落ち着かせる行動(self-soothing)が減り、注意をそらす方略が増える傾向が示されました。
ただし、対象は米国の農村・準農村部に住む経済的負担の大きい家庭の120人で、参加者の大半が白人でした。
待つ課題で見られた傾向を、すべての生活場面や日本の子どもにそのまま当てはめることはできません。
行動を止め、次を考える力も発達の途中
感情が高まったときに行動をいったん止める、覚えている約束を使う、別の方法へ切り替えるには、実行機能と呼ばれる働きも関わります。
乳児期の感情反応と調整の組み合わせが4歳時点の実行機能と関連した縦断研究がありますが、対象は主に米国の低所得・農村地域の子どもたちでした。
感情調整と実行機能は互いに関連しながら育つと考えられますが、一つの能力だけで子どもの行動を説明することはできません。
抑制・ワーキングメモリ・認知的柔軟性という実行機能そのものの発達は、「実行機能とは?考える・待つ・切り替える力の育ち」で詳しく整理しています。
感情を抑え込むことと、調整することは違う
大人から見て静かであれば、内側も落ち着いているとは限りません。表情や声を抑えていても、心の中では強い悲しみや怒りが続いていることがあります。
中国、日本、米国の就学前児を比べた研究では、外に表す感情と本人が報告した感情の関係に文化差が示されました。
これは「日本の子どもは感情を隠す」と決めつける根拠ではありませんが、見た目だけで調整の良し悪しを判断しないための注意になります。
泣かない、怒らない、我慢できることを唯一の目標にすると、子どもは助けを求めにくくなるかもしれません。
感情そのものは認めつつ、叩く、投げるなど安全を損なう行動には境界を示す――
「怒ってもいい。叩くのは止める。ここで一緒に落ち着こう」のように、感情と行動を分けて扱うことが大切です。
研究から分かっていること、まだ分からないこと
ここまでの研究から、感情調整は大人との相互作用、言葉、注意、実行機能など複数の働きと関連し、幼児期を通して使える方略が変化していくことが示されています。
親の感情調整と養育行動、子どもの感情調整の間にも関連がありますが、53研究をまとめたメタ分析では結果に大きなばらつきがあり、子どもの外在化問題との関連は一貫していませんでした。
ただし、このメタ分析は0~6歳だけを対象とした研究の統合ではなく、子どもの年齢や測定方法によって結果が異なる場合も報告されています。
一方で、未解明な点も多くあります。
第一に、研究の多くは欧米で行われ、都市・農村、所得、民族構成が限定された標本も少なくありません。
第二に、実験室での待機課題や短時間の観察は、家庭や園での複雑な日常を完全には再現しません。
第三に、親子の特徴は相互に影響し、気質、言語発達、睡眠、ストレス、保育環境なども関わります。
相関が見られても、「大人の対応が原因で子どもが落ち着けない」とは断定できません。
日本の読者が研究を読むときには、感情の表し方や大人へ助けを求めることの意味が、文化や場面によって違い得る点にも注意が必要です。
日本とドイツの2歳児を比べた古い小規模研究では違いが報告されていますが、各国20人の女児のみを対象としており、現代の日本の子ども全体へ一般化することはできません。
日本の保育所保育指針や「はじめの100か月の育ちビジョン」は、子どもを関係や環境の中で理解し、一人ひとりの育ちを支える視点を示しています。
ただし、これらは実践上の指針であり、個別の方法の効果を証明する研究ではありません。
子どもの感情調整を見るときの手がかり
「泣いたか」「怒ったか」だけでは、育っている力を十分に捉えられません。
次のような変化にも目を向けると、子どもが使える方法が見えやすくなります。
助けにつながる:大人を見る、近づく、抱っこや言葉を求める。
方法を試す:視線を外す、場所を変える、別の遊びをする、言葉や身ぶりで伝える。
安全を取り戻す:手が止まる、物から離れる、大人と一緒なら待てる。
回復する:泣く時間が短くなる、活動へ戻る、あとから出来事を話せる。
条件で変わる:空腹、眠気、音、人の多さ、予定の変更など、難しくなる条件が分かる。
一つの場面でできなかったことよりも、どの条件ならできたか、どんな支えが役立ったかを比べるほうが、次の手がかりになります。
大人が「環境」としてできること
まず安全と身体状態を整える
感情が大きいときは、説明より先に安全を確保します。
危険な物を遠ざける、刺激の少ない場所へ移る、空腹・眠気・暑さ寒さを確かめるなど、身体と環境を整えます。
叩くなどの行動は静かに止めつつ、感情まで否定しないことが基本です。
短い言葉で、今の状態を一緒に捉える
「まだ遊びたかったね」「急に変わってびっくりしたね」のように、子どもの経験に近い短い言葉を添えます。
正解の感情名を当てることが目的ではありません。
子どもの表情や反応を見て、「違ったかな」と言い直してよいのです。
落ち着いてから、次に使える言葉や方法を一緒に考えます。
見通しと選択肢を小さくする
「あと1回で終わり」「靴を履いたら外へ行く」のように次を具体的にし、可能なら「歩く?抱っこ?」と小さな選択肢を示します。
選択肢が多すぎると負担になるため、感情が大きいときは二つ程度で十分です。
切り替えが難しい場面では、予告や毎回同じ流れが助けになることがあります。
大人も、整え直す姿を見せる
大人がいつも穏やかである必要はありません。
強い口調になった後に「大きな声になった。少し息を整えて、言い直すね」と修復する姿も、感情は整え直せることを伝えます。
うまくいかなかった一回を評価するより、親子で回復できた過程を積み重ねることが大切です。
まとめ
子どもの感情調整は、強い感情を我慢して見せない力ではありません。
乳幼児期には、身近な大人と一緒に感情を整える経験を土台として、言葉、注意、記憶、実行機能、対人経験などを使える場面が少しずつ増えていきます。
発達は一直線ではなく、年齢、気質、体調、状況、文化、周囲の支えによって揺れます。
「一人で落ち着けたか」だけでなく、助けを求める、方法を試す、安全を取り戻す、活動へ戻るという過程を見ることが重要です。
大人に支えられて落ち着くことも、育ちの途中にある大切な力です。
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