子どもが友達を叩いたと聞くと、「乱暴な子になってしまうのでは」「しつけが足りないと思われるかもしれない」と不安になることがあります。
もちろん、叩く行動をそのままにしてよいわけではありません。
まず必要なのは、叩かれた子の安全を守り、行動を止めることです。
一方で、叩いたという一つの行動だけを見て、その子を「乱暴な子」「意地悪な子」と決めつけても、行動の背景は見えてきません。
幼児期の子どもが友達を叩く背景には、欲しい物や場所をめぐる衝突、強い怒りや悔しさ、言葉にすることの難しさ、遊び方のずれ、疲れや環境の刺激など、さまざまな要因が考えられます。
大切なのは、理由を理解しようとすることと、叩く行動を認めることを混同しないことです。
安全を守りながら、子どもが叩く以外の方法を身につけていけるように支える必要があります。
この記事で分かること
- 幼児期に叩く行動が見られる理由
- 叩いた直後に大人が優先すること
- 叩かれた子と叩いた子、それぞれへの関わり
- 「言葉が出ないから叩く」という説明の注意点
- 繰り返すときの観察ポイントと環境の見直し方
- 相談を検討する目安
友達を叩いたときは、まず安全を守る
子ども同士の間で叩く行動が起きたら、原因を聞き出すより先に、これ以上の接触を防ぎます。
大人が二人の間に入り、手をやさしく止めたり、少し距離を取ったりします。
必要に応じて、おもちゃなど争いのきっかけになった物をいったん預かります。
その際の言葉は、短く具体的にします。
「叩かないよ。痛いから止めるね」
「手は止めよう」
強い口調で問い詰めたり、その場ですぐに長く説明したりしても、気持ちが高ぶっている子どもには届きにくいことがあります。
まずは行動を止め、落ち着ける状態をつくることが優先です。
叩かれた子の状態を確認する
叩かれた子にけががないかを確認し、安心できる大人がそばにつきます。
「びっくりしたね」
「痛かったね。もう大丈夫だよ」
子どもの感じた痛みや驚きを受け止めることは大切です。
一方で、「かわいそう」「ひどいことをされたね」と状況を必要以上に大きく表現すると、子どもの不安を強める場合があります。
叩いた子も、落ち着けるように支える
叩いた子への対応が、叱責だけにならないようにします。
興奮が続いている場合は、静かな場所へ移動したり、大人がそばで呼吸が落ち着くのを待ったりします。
これは罰として隔離するのではなく、次の行動を選べる状態に戻るための時間です。
安全確保では、どちらか一方だけを見るのではなく、双方に大人の支えが届くようにすることが重要です。
幼児期の「叩く」は、発達の途中で見られることがある
発達研究でいう身体的攻撃行動には、叩く、押す、蹴る、かむといった行動が含まれます。
ノルウェーの子ども1,159人を8~26か月まで追跡した研究では、身体的攻撃行動は20~22か月ごろに平均的なピークを迎え、その後は減少する傾向が報告されています(Nærde et al., 2014)。
カナダの縦断研究や、10~50か月の子どもを扱った研究でも、多くの子どもは成長とともに身体的な行動を減らしていく一方、経過には大きな個人差があることが示されています(Tremblay et al., 2004; Alink et al., 2006)。
これは「幼児なら叩いても仕方がない」という意味ではありません。幼児期には、気持ちや要求を身体で表すことが起こりやすいからこそ、大人が安全な表現方法を繰り返し示す必要があります。
また、集団としての年齢傾向は、一人ひとりの発達の期限ではありません。
「何歳なら必ずなくなる」と考えるのではなく、その子の頻度や強さ、起こる状況、変化の経過を見ます。
叩く行動の背景は一つとは限らない
同じ「叩く」という行動でも、背景は子どもや場面によって異なります。
おもちゃや場所をめぐる主張
幼児期は、「自分が使いたい」という気持ちが強くなる一方、相手も同じように使いたいことを理解し、折り合いをつける力は発達の途中です。
順番を待つことや、貸し借りのルールが十分に分からないまま、相手の手を押したり、叩いたりしてしまうことがあります。
気持ちの高まりを調整しきれない
悔しい、取られた、思いどおりにならないといった気持ちが一気に高まると、考えて行動を止めることが難しくなる場合があります。
幼児期は、感情を調整する力や、自分の行動を抑える力が育っている途中です。
就学前の自己調整、相手の気持ちを理解する力、養育環境などが、その後の仲間への攻撃行動と関連することも報告されています(Olson et al., 2011)。
ただし、これらは複数の要因が関係する統計的な関連です。
特定の能力や家庭での関わりだけを、叩く行動の原因と決めつけることはできません。
言葉より先に手が出る
「使いたい」「返して」「やめて」と伝える言葉がすぐに出てこないと、身体で要求を表す場合があります。
言語能力と身体的攻撃行動の間には、17~41か月で弱い双方向の関連が示されました。
ただし効果は小さく、41か月以降には、一方が後のもう一方を予測する明確な関連は確認されませんでした(Girard et al., 2014)。
したがって、「叩くのは言葉が遅いから」と単純に結びつけることはできません。
子どもがその場で使える言葉や身ぶりを増やすことは役立ちますが、背景には気持ち、遊び方、環境なども関係します。
疲れや空腹、刺激の多さ
眠い、空腹、体調が悪い、音や人の多さで疲れているといった状態では、普段できている行動の調整が難しくなることがあります。
遊ぶ場所が狭い、子どもの人数に対しておもちゃが少ない、活動の切り替えが急だったといった環境も、衝突が起こる条件になり得ます。
相手との関わり方がまだ分からない
一緒に遊びたい、注目してほしいという気持ちがあっても、適切な近づき方が分からず、押したり叩いたりすることがあります。
行動だけを見ると拒絶や攻撃に見えても、その前後を観察すると、関わろうとしていた可能性が見えてくることがあります。
落ち着いたあとに「次の方法」を伝える
子どもが落ち着いたら、何が起きていたのかを短い言葉で振り返ります。
「積み木を使いたかったのかな」
「取られて嫌だった?」
ここで大人が気持ちを断定する必要はありません。
「~だったのかな」と確かめながら、子どもの表情や言葉を待ちます。
そのうえで、次に使える方法を具体的に示します。
- 「かして」と言う
- 「あとで使いたい」と伝える
- 「やめて」と言う
- 大人を呼ぶ
- 手を出す代わりに、離れる
- 指さしや身ぶりで知らせる
言葉を説明するだけでなく、大人と一緒に言ってみる、身ぶりを練習するなど、実際の行動として経験できるようにします。
うまく伝えられたときには、「『かして』と言えたね」「手を止めて大人を呼べたね」と、その行動を具体的に認めます。
「ごめんなさい」を言わせれば解決するとは限らない
叩いた直後に謝らせることは、分かりやすい区切りに見えます。
しかし、子どもがまだ興奮していたり、何が起きたか理解できていなかったりする状態で謝罪だけを求めても、次の行動につながらないことがあります。
謝罪より先に、安全を確保し、相手が痛かったことを伝え、別の方法を練習します。
落ち着いたあとで、子どもができる形の「関係の修復」を考えることもできます。
言葉で謝るほか、おもちゃを戻す、壊れた物を一緒に直す、相手の様子を見に行くなど、その子の発達段階に合った方法があります。
ただし、叩かれた子に仲直りや接触を強いる必要はありません。すぐに一緒に遊びたくない気持ちも尊重します。
繰り返すときは、行動の前後を観察する
叩く行動が続くときは、その場ごとの叱り方を強めるより、「どのような条件で起きているか」を整理します。
次のような点を記録すると、共通するパターンが見つかることがあります。
- いつ、どこで起きたか
- 直前に何をしていたか
- 誰と、どのような遊びをしていたか
- 疲れ、空腹、眠気、体調はどうだったか
- 大人がどう対応し、その後どうなったか
- 起きなかった場面では何が違っていたか
記録の目的は、子どもや家庭の責任を探すことではありません。
行動が起こりやすい条件と、落ち着いて過ごせる条件を見つけるためです。
叩きにくい環境をつくる
背景が見えてきたら、行動が起きる前の環境を調整します。
たとえば、おもちゃの取り合いが多い場合は、よく使う物を複数用意する、順番を目で確認できるようにする、大人が近くで仲立ちするといった方法があります。
活動の切り替えで起こりやすい場合は、「あと1回で終わり」「次は片づけ」と事前に知らせます。
疲れや刺激の多さが関係していそうなら、静かに過ごせる場所や休憩を用意します。
先生が行う行動支援をまとめた研究では、適切な関わり方を一貫して使う介入が、子どもの外在化行動の減少や向社会的行動の改善と関連していました(Aldabbagh et al., 2024)。
ただし、この研究には年齢や実施環境の異なる複数のプログラムが含まれています。
日本の園での一つの対応に、そのまま同じ効果があると断定できるものではありません。
家庭と園で情報をつなぐ
家庭と園で対応を完全に同じにする必要はありません。まずは、観察した事実を共有します。
「乱暴です」「いつもトラブルになります」といった評価ではなく、次のように具体的に伝えます。
「おもちゃを取られた直後に手が出ることが多いです」
「疲れている時間帯に起こりやすいようです」
「大人が近くで順番を言葉にすると待てることがあります」
家庭では起きず、園でだけ見られることもあります。
それは、どちらかの関わり方が悪いという意味ではありません。
人数、刺激、遊びの種類、求められる行動など、環境の違いが影響している可能性があります。
起きた行動だけでなく、うまく過ごせた条件も共有すると、支援の手がかりが増えます。
研究結果を読むときの注意点
この記事で紹介した主要な研究は、カナダ、オランダ、ノルウェー、米国などで行われています。
家族を取り巻く環境、保育制度、集団生活のあり方には違いがあるため、結果を日本の子どもへそのまま当てはめることはできません。
また、身体的攻撃行動の研究には、保護者や保育者による質問紙・聞き取り調査が多く含まれます。
行動が起きた場面の文脈や、子どもの意図をすべて捉えられるわけではありません。
研究で示される年齢変化や発達軌跡は、集団を統計的にまとめたものです。個々の子どもの診断基準や、「何歳までなら問題がない」という境界線ではありません。
実際の対応では、行動の強さ、頻度、続いている期間、起こる状況、本人や周囲の生活への影響を合わせて考えます。
専門家へ相談したい目安
叩く行動があるだけで、直ちに発達上の問題があるとは限りません。
ただし、次のような場合は、家庭や園だけで抱え込まず相談を検討してみるのも良いでしょう。
- 相手や本人がけがをするほど行動が強い
- 頻度が高く、長期間続いている
- 家庭、園、遊び場など複数の場面で起きている
- 周囲が工夫しても改善が見られない
- 言葉、遊び、対人関係、感覚面などにも気になる様子がある
- 集団生活や友達との関係に大きな影響が出ている
- 保護者や保育者が疲弊し、対応を続けることが難しい
相談先としては、かかりつけの小児科、自治体の保健センター、子育て相談窓口、発達相談、園の担当者などがあります。
子どもの行動が起こる条件を整理し、本人と周囲が過ごしやすくなる方法を一緒に探すためにも、ぜひ利用してみてください。
まとめ
子どもが友達を叩いたときは、まず行動を止め、叩かれた子の安全を守ります。
同時に、叩いた子を性格で決めつけず、落ち着けるよう支えます。
幼児期の叩く行動には、自己主張、感情調整、言葉、遊び方、疲れや刺激、環境など、複数の背景が関係する可能性があります。
大人ができるのは、その場で強く叱ることだけではありません。
行動の前後を観察し、気持ちを伝える言葉や身ぶりを練習し、衝突が起きにくい環境を整えることです。
「叩かない」と境界を示すことと、「なぜ起きたのだろう」と理解しようとすることは、両立します。
安全を守りながら、子どもが別の方法を身につける過程を支えていきます。
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参考文献・公的資料
- Tremblay, R. E., et al.(2004)Physical Aggression During Early Childhood: Trajectories and Predictors. Pediatrics, 114(1), e43–e50. PubMed
- Alink, L. R. A., et al.(2006)The Early Childhood Aggression Curve: Development of Physical Aggression in 10- to 50-Month-Old Children. Child Development, 77(4), 954–966. DOI
- Nærde, A., Ogden, T., Janson, H., & Zachrisson, H. D.(2014)Normative Development of Physical Aggression From 8 to 26 Months. Developmental Psychology, 50(6), 1710–1720. PubMed
- Girard, L.-C., et al.(2014)Physical Aggression and Language Ability from 17 to 72 Months: Cross-Lagged Effects in a Population Sample. PLOS ONE, 9(11), e112185. PLOS ONE
- Olson, S. L., Lopez-Duran, N., Lunkenheimer, E. S., Chang, H., & Sameroff, A. J.(2011)Individual Differences in the Development of Early Peer Aggression: Integrating Contributions of Self-Regulation, Theory of Mind, and Parenting. Development and Psychopathology, 23(1), 253–266. PMC
- Aldabbagh, R., Glazebrook, C., Sayal, K., & Daley, D.(2024)Systematic Review and Meta-Analysis of the Effectiveness of Teacher Delivered Interventions for Externalizing Behaviors. Journal of Behavioral Education, 33, 233–274. Springer
- 厚生労働省『保育所保育指針解説』PDF
- 文部科学省『幼稚園教育要領解説』PDF