幼児の英語は聞き流しだけで身につく?研究から分かる効果と限界

幼児教育・学び

幼児の英語は聞き流しだけで身につく?

英語の歌や物語を、遊んでいる子どものそばで流しておく「聞き流し」や「かけ流し」。

家庭で取り入れやすいため、「毎日続ければ自然に英語が分かるようになるのでは」「話せるようになる前に、まず耳を育てたい」と考えることもあるでしょう。

ただし、「英語が身につく」という言葉には、英語の音に気づくこと、言葉の意味が分かること、覚えた表現を使うこと、相手と会話を続けることなど、異なる力が含まれています。

これらを分けずに、聞き流しは「効果がある」「効果がない」と決めることはできません。

英語を聞く経験は学びの材料になります。

しかし、子どもが注意を向けず、音と意味や場面が結び付かないまま流れているだけで、英語の理解や会話まで自然に育つと考えられる十分な根拠はありません。


この記事で分かること

  • 聞き流しだけで期待できることと、期待しにくいこと
  • 録音音声と、人とのやりとりを比べた研究の内容
  • 「聞いている」と「言葉として学んでいる」の違い
  • 家庭で英語音声を意味のある経験につなげる方法

結論:聞き流しは学びの材料になるが、それだけで英語が身につくとは言えない

幼児が言葉を学ぶには、その言葉を聞く機会が必要です。
聞いたことのない音や表現を、子どもが知ることはできません。

その意味で、英語の音声を生活に取り入れることには役割があります。

一方、言葉は音だけではありません。
「apple」という音が目の前のりんごを表すと知ること、「Give me the ball.」を聞いて相手の意図を理解すること、返事や行動で応じることが重なって、音が使える言葉になっていきます。

したがって、聞き流しだけで英語を理解し、話せるようになると期待するのは難しいでしょう。

大切なのは、流した時間の長さよりも、子どもが音に気づき、意味のある場面と結び付け、何らかの形で参加できたかどうかです。

日本語を含む言葉の育ち全体については、0~6歳の言語発達で詳しく解説しています。

幼児は、聞こえてくる音の中から規則を見つけている

乳児にも、音のまとまりを捉える力がある

乳児は、ただ音を受け取っているだけではありません。繰り返し聞こえる音の並びから、どの音とどの音が続きやすいかを捉える力があります。

8か月の乳児を対象とした実験では、意味のない音節をつないだ人工的な音声を短時間聞いた後、乳児が、いつも一緒に現れる音のまとまりと、そうでない並びを聞き分けたことが報告されました。

これは、乳児が音声の規則性を手がかりに、言葉らしいまとまりを見つけられることを示しています(Saffranら、1996)。

ただし、この研究で確かめられたのは、人工的な音の並びの違いに気づく力です。

英語の意味を理解した、語彙が増えた、会話ができるようになったという研究ではありません。

「乳児は音から学べる」という結果を、「英語を流しておけば英語が身につく」という結論まで広げることはできません。

音を区別することと、言葉を使うことは同じではない

幼児の英語学習を考えるときは、少なくとも次の段階を分ける必要があります。

まず、英語らしい音やリズムに気づく段階があります。次に、聞こえた言葉を物、動作、気持ち、相手の意図と結び付ける段階があります。

さらに、自分からまねる、答える、頼む、伝えるなど、相手とのやりとりで使う段階があります。

聞き流しが直接与えるのは、主に音声へ触れる機会です。

その先の意味理解や会話には、何を指しているのかが分かる場面、子どもの反応に応じる相手、自分から使ってみる機会などが関わります。

録音を聞く場合と、人とやりとりする場合では学び方が違う

9か月児は、対面では外国語の音を学び、録音だけでは同じ結果にならなかった

聞き流しを考えるうえで重要なのが、米国で英語を聞いて育つ9か月の乳児に、中国語を聞く機会を設けた研究です。

乳児は、中国語話者と絵本やおもちゃを介して関わる対面条件、同じ内容を映像で見る条件、音声だけを聞く条件に分かれました。

12回のセッション後、中国語の音の違いを捉える変化が見られたのは、対面で関わった乳児でした。
映像や音声だけの条件では、同じような変化は確認されませんでした(Kuhlら、2003)。

この結果は、幼児の外国語学習で、人の表情、視線、指さし、交互の反応などが、音声へ注意を向け、場面と音を結び付ける助けになる可能性を示しています。

ただし、対象は特定の月齢の米国乳児で、測ったのは中国語の音の聞き分けです。

日本で0~6歳の子どもが家庭用の英語音声を長く聞いた場合の会話力を調べた研究ではありません。
対面なら必ず身につき、録音なら何も学べないと広く断定することもできません。

大切なのは「画面か対面か」だけでなく、子どもの反応に応じること

2歳前後の子どもが新しい動詞を学ぶ実験では、対面の人から学ぶ条件、画面越しでも子どもの反応に合わせて会話する条件、録画済み映像を見る条件が比較されました。

子どもは、対面と双方向の映像通話では新しい言葉を学びましたが、録画映像だけでは同じ結果になりませんでした(Roseberryら、2014)。

ここから分かるのは、単に人の顔が映っていればよいのではなく、子どもが見たものや答えたことに相手が応じる「やりとり」が学びを支えるということです。

この研究も、家庭で英語を長期学習した成果を測ったものではありません。
実験で扱った少数の新しい言葉を学べたかどうかと、英語で会話できることは別です。

「直接話しかけなければ学べない」とも言い切れない

子どもは、いつも自分に向けられた言葉だけから学ぶわけではありません。
2歳児が、大人同士の会話をそばで聞き、新しい物の名前や動作を表す言葉を学んだ実験もあります(Akhtarら、2001)。

しかし、この「聞いて学ぶ」は、意味のない背景音を受け続けることとは違います。

子どもは、人が同じ物へ注意を向け、言葉を使う場面を見ています。

別の研究では、2歳児が大人同士の会話から新しい言葉を学べたのは、話し手と聞き手が互いに注意を向けていた場合で、片方が会話に注意を向けていない場合には学習が確認されませんでした(Fitchら、2020)。

つまり、子どもは第三者として聞いているときにも学べますが、そこには「誰が何について話しているか」を読み取れる場面があります。スピーカーから英語が流れているだけの状態と、

大人同士の意味のある会話を見聞きする状態を、同じ「聞き流し」として扱うことはできません。

英語音声を「意味のある聞く時間」に変えるには

研究は、家庭で必ず成果が出る聞かせ方や、必要な時間を示しているわけではありません。

以下は、音声だけよりも、注意、意味、応答が伴う方が学びやすいという研究を、日常の関わりへ置き換えた提案です。

子どもが気づいた瞬間に、短く一緒に参加する

ずっと横について教える必要はありません。

歌の一部分で一緒に手をたたく、動物の鳴き声に合わせて動く、聞き慣れた言葉が出たときに絵を指すなど、短い参加でも、音と経験が結び付きます。

子どもが別の遊びに集中しているときは、英語へ注意を向けさせなくてもかまいません。

音声を流すことが、子どもの遊びや家族の会話を妨げているなら、いったん止める選択もできます。

0~2歳ごろは、身振りや目の前の物と結び付ける

乳児や低年齢の子どもには、長い説明より、目の前の物や動きと結び付いた短い言葉が分かりやすいでしょう。

歌に合わせて手を振る、ボールを転がしながら音声の一語を繰り返す、同じ絵を一緒に見るなど、意味を共有できる場面をつくります。

発音をまねさせたり、答えを求めたりする必要はありません。視線を向ける、笑う、体を動かすといった反応も、子どもが参加している姿です。

3~6歳ごろは、知っている遊びや物語とつなげる

少し大きくなると、好きな歌の動きを考える、絵本の場面と同じ表現を探す、音声を止めて「次はどうなるかな」と話すなど、子どもの考えが入る活動へ広げられます。

全部を訳す必要はありません。

絵、動作、表情、知っている場面が意味を支えます。

子どもが日本語で気づきを話したときも、その内容を受け止めることが、英語の音と意味をつなぐ助けになります。

年齢は活動を分ける基準ではなく、おおまかな目安です。

0~2歳でも好きな歌を予測する子がいれば、5歳でも静かに聞くことを好む子がいます。
反応の仕方を一つに決めないことが大切です。

保護者が英語を得意でなくても、完璧に教える必要はない

英語の発音や文法に自信がないと、音声教材に任せたくなることもあるでしょう。
しかし、大人の役割は、正しい英語をすべて教えることだけではありません。

一緒に笑う、絵を指す、動きをまねる、子どもの反応を待つといった関わりは、英語が得意でなくてもできます。

分からない表現があれば、「どんな意味かな」と一緒に確かめてもかまいません。
大人が講師になるより、子どもと経験を共有することを優先できます。

「英語耳」や再生時間だけで効果を判断しない

幼児英語の記事では「英語耳」という言葉がよく使われますが、研究で一つに定義された能力ではありません。
英語の音を区別する力、聞いた語の意味を理解する力、文章を聞き取る力は、それぞれ異なります。

また、「毎日何時間」「合計何千時間」といった再生時間だけで、子どもの英語習得を予測できる十分な根拠もありません。

幼児期の言語入力を整理した研究レビューでは、子どもの言葉の学びを支える要素として、やりとりの応答性、年齢に合った言葉、理解を少し広げる内容が挙げられています(Rowe & Snow、2020)。

長く流すことより、子どもが関心を示した場面を共有することの方が、家庭で確かめやすい手がかりです。

聞こうとしない日や、別の遊びを選ぶ日があっても、英語学習の失敗ではありません。

研究からまだ十分に分かっていないこと

家庭で行われる「聞き流し」には、歌、物語、会話、動画の音声などさまざまな内容があり、音量、時間、子どもの注意、家族の関わり方も異なります。

研究では条件を限定して比べるため、家庭の聞き流し全体を一つの方法として評価することはできません。

また、この記事で紹介した外国語研究の多くは、英語を母語として育つ乳幼児が中国語やスペイン語へ触れる場面、または新しく作った言葉を学ぶ場面を扱っています。

日本語を中心に生活する0~6歳児が、家庭で英語音声を聞き続けたときの長期的な理解力や会話力を直接示すものではありません。

子どもの年齢、もともとの言語経験、音声の内容、対面で英語を使う機会などによって結果は変わります。
そのため、「聞き流しは必ず効果がある」「録音では何も学べない」のどちらにも断定しないことが重要です。

まとめ

幼児は、聞こえてくる音の中から繰り返しや規則を見つける力をもっています。
英語の音声を聞くことは、学びの材料に触れる機会になります。

しかし、音を聞くこと、意味が分かること、言葉を使うこと、会話を続けることは同じではありません。

聞き流しだけで、英語の理解や発話まで自然に育つと考えられる十分な根拠はありません。

一方で、聞き流しをすべてやめる必要もありません。子どもが気づいたときに一緒に歌う、動く、絵や物を指す、反応を待つ。

そうした短いやりとりが加わると、背景に流れていた音が、意味のある経験へ変わります。

再生時間や発音の正しさを成果にせず、子どもが楽しんで注意を向けたか、何かを伝えようとしたか、日常の遊びとつながったかを見てください。

英語は、聞かせた量だけで育つものではなく、人や場面との関係の中で少しずつ使える言葉になっていきます。

参考文献一覧

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