タブレット越しの祖母に赤いりんごを見せ、母親と一緒に言葉のやりとりを楽しむ4~5歳の子どものクレヨン画

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幼児期の二言語教育について最新研究が示していること

「幼いころから二つの言語に触れると、言葉が遅れるのでは」「日本語と英語が混ざるのは、頭の中が混乱しているから?」「バイリンガルになると、考える力も高まる?」。

幼児期の二言語をめぐっては、心配と期待の両方が語られます。
しかし、研究が示しているのは、単純な「よい・悪い」ではありません。

2025年に公表された包括的なレビューは、二言語の育ち方が、子ども自身の発達だけでなく、どの言語を、誰と、どのくらい、どのような場面で使うか、園や学校、地域社会がその言語をどう支えるかによって変わると整理しました。

この記事では、幼児期の二言語教育と二言語発達について、近年のレビューや研究から分かっていること、まだ十分に分かっていないことを、一般の読者向けに読み解きます。


この記事で分かること

  • 「二言語教育」という言葉が指す環境の違い
  • 二つの言語に触れることと言葉の遅れの関係
  • 日本語と英語などが混ざるときの考え方
  • 「バイリンガルの認知的メリット」を慎重に読む理由
  • 家庭や園で二つの言語を支えるときに大切なこと
  • 海外研究を日本の子どもへ当てはめる際の注意点

最新レビューが示したのは「二言語だから」だけでは説明できないということ

2025年8月に先行公開されたByers-Heinlein、Kircher、Lew-Williamsのレビューは、乳幼児から大人までの二言語習得研究を、子ども、言語経験、家庭、教育、社会という複数の層から整理しました。

中心となる考え方は明確です。

子どもが二言語を使えるようになる過程は、「生まれつきの能力」や「開始年齢」だけで決まるのではありません。
豊かで継続的な言語経験、その言語を使う相手や必要性、教育の機会、地域での言語の位置づけが、時間とともに影響し合います。

この見方に立つと、「二言語なら全員が同じメリットを得る」「家庭で少し英語を流せば二言語児と同じ経験になる」とは言えません。
同じ二言語環境でも、子どもが実際に聞き、話し、遊び、気持ちを伝える機会は大きく異なるためです。

この記事でいう「二言語教育」の範囲

「二言語教育」は、使う人によって意味が異なります。

家庭で日本語と別の言語を日常的に使う子ども、家庭の言語と地域の主要言語が異なる子ども、園で二つの言語を使って生活や活動を行う子どもは、二つの言語を暮らしの中で学びます。

一方、日本語を中心に暮らし、週に一度の教室や短時間の動画で英語に触れる場合は、言語経験の量も必要性も異なります。

この記事では、主に生活の中で二つの言語に継続して触れる子どもと、二つの言語を使う就学前教育プログラムの研究を扱います。
限られた時間の外国語活動へ研究結果をそのまま当てはめることはしません。

開始年齢と学習環境の違いは、早期英語教育は何歳から?で詳しく解説しています。

二つの言語に触れると、言葉は遅れるのか

二つの言語に触れること自体は、言語障害の原因とは考えられていません。
米国言語聴覚協会(ASHA)も、多言語使用は言語や発話の障害を引き起こすものではないと明記しています(ASHAの専門資料)。

ただし、二言語児の言葉を一つの言語だけで測ると、同じ年齢の単言語児より語彙が少なく見えることがあります。
これは、子どもが知っている言葉や概念が二つの言語に分かれているためです。

2024年に掲載された研究では、フランス語と英語を学ぶ8~33か月の乳幼児743人の語彙を、いくつかの方法で比べました。
二言語を合わせて「知っている単語」を数えると二言語児の方が多く、一つの言語だけで数えると単言語児より少ないという結果でした。

同じ意味の二言語の単語を一つの概念として数える方法では、理解する語彙と話す語彙で結果が異なりました。

つまり、「二言語児の語彙は多い」「少ない」と一つの数字で言い切ることはできません。どの言語を、理解と発話のどちらで、どのように数えたかによって見え方が変わります。

一つの言語だけの得点が低く見えることと、子どもの言葉全体が遅れていることは同じではありません。
反対に、二つの言語を合計すれば、どのような心配もなくなるわけでもありません。

子どもの理解、伝えようとする姿、やりとり、二つの言語それぞれの変化を時間の中で見る必要があります。
0~6歳の言葉の育ち全体は、子どもの言語発達も参考になります。

日本語と英語などが混ざるのは「混乱」なのか

二つの言語を使う家庭では、一つの会話や文の中で言語が切り替わることがあります。子ども自身が混ぜて話す場合もあります。

この「言語の混合」は、二つの言語を区別できていない証拠とは限りません。
相手に合わせる、今使いやすい言葉を選ぶ、知らない単語を別の言語で補うなど、二言語を使う人に自然に見られる行動です。

一方で、「大人がどの程度混ぜても、言葉の育ちにまったく関係しない」ともまだ断定できません。

2026年3月号に掲載されたオランダの研究は、ポーランド語とオランダ語、またはトルコ語とオランダ語を使う3~5歳児52人を調べました。
保護者の言語混合は、地域の主要言語であるオランダ語の語彙や文の課題とは関係していませんでした。

一方、家庭側の言語で自分から話せる語彙とは、混合が多いほど得点が低いという関連が見られました。

ただし、この研究は一時点の関連を調べたもので、言語を混ぜたことが語彙を少なくしたとは証明していません。
子どもが家庭側の言語を話しにくいため、保護者が伝わりやすい主要言語を混ぜるようになった可能性もあります。

研究者自身も、時間を追う研究が必要だとしています。

現時点では、「一人の大人は必ず一つの言語だけを使うべき」と全家庭へ求めるだけの根拠はありません。
混ざった表現を一つずつ訂正するより、子どもが何を伝えようとしたかを受け止め、会話が続く形で自然な表現を返すことが大切です。

「バイリンガルになると考える力が高まる」はどこまで確かか

二言語を使う子どもは、二つの言語から場面に合う方を選びます。
その経験が、注意を切り替える、必要でない反応を抑えるといった「実行機能」を高めるのではないかと考えられてきました。

しかし、この「バイリンガル優位」は研究によって結果がそろっていません。

2021年のメタ分析は、3~17歳の二言語児約1万900人と単言語児約1万2500人を含む研究をまとめました。
集計上は二言語児にごく小さな差が見られましたが、肯定的な結果が公表されやすい偏りを調整すると、二言語であることによる明確な差とは言えなくなりました(Loweらのメタ分析)。

これは、二言語経験に認知的な意味がないという結論ではありません。
二言語の使い方、習熟度、切り替える頻度、家庭環境、社会経済的背景、測定課題などが研究ごとに異なるため、「二言語かどうか」だけでは結果を説明しにくいということです。

少なくとも、「バイリンガル教育を受ければ集中力や頭のよさが必ず高まる」と、教育や商品を選ぶ根拠にすることはできません。

二つの言語を使う幼児教育プログラムは効果があるか

2025年のシステマティックレビューは、就学前と幼稚園段階で二つの言語を使う教育プログラムを調べました。
厳格な条件を満たした研究は9件で、言語、読み書き、数学、教室での実践、保護者の受け止めが整理されています。

各研究には、二言語の学習や教室実践に良い結果を示したものがあります。
しかし、レビューに含められた研究自体が9件と少なく、対象となる言語、プログラムの方法、教師、評価方法も同じではありません。

幼児期の二言語教育プログラム全体について、どの方法が誰にどれほど有効かを確定するには、研究がまだ不足しています。

また、これらの多くは、家庭の言語と社会で主に使われる言語の両方を育てる北米の教育を扱っています。
日本語で生活する家庭が、限られた時間だけ英語教室や教材を利用する状況とは異なります。

二言語教育プログラムの研究から「週1回でも二言語が同じように伸びる」「幼児期から始めれば将来の英語力が保証される」と結論づけることはできません。

幼児期の二つの言語を支えるときに大切なこと

最新レビューから家庭や園へ引き出せるのは、厳密な一つの方式ではなく、子どもがそれぞれの言語を人との関係の中で使える環境を整えることです。

大人が自然に気持ちや意味を伝えられる言語を大切にする

大人が十分に使えない言語だけで無理に話そうとすると、会話が短くなったり、伝えられる内容が限られたりすることがあります。
子どもの質問に答える、気持ちを言葉にする、物語を楽しむ、家族の経験を話すなど、豊かなやりとりができる言語は大切な資源です。

家庭の言語を保つことは、地域の主要言語を拒むことではありません。日本で育つ外国につながる子どもの場合、園や学校で日本語を使う機会が増える一方、家庭で使う継承語は使用場面が狭まり、維持が難しくなることがあります。

国立国語研究所も、家庭、学校、地域、親族とのつながり、読書などが継承語の育ちに関係すると説明しています(国立国語研究所の解説)。

「触れた時間」だけでなく、やりとりの中身を見る

言葉は、音が流れている時間だけで育つものではありません。子どもが見ているものについて話す、返事を待つ、身振りや表情を受け止める、絵本や遊びを共有するなど、意味のある応答が含まれているかが大切です。

毎日何分と一律に決めるより、次のような点を具体的に見ます。

  • 子どもがその言語を誰と、どの場面で使っているか
  • 聞くだけでなく、伝えたり応答したりする機会があるか
  • 家庭、園、地域で経験が無理なくつながっているか
  • 子どもの安心、興味、遊び、休息を損なっていないか
  • その環境を家庭が長く続けられるか

二つの言語を同じ速さ・同じ得意さにそろえなくてよい

二言語児は、家庭の話題は一方の言語、園の遊びはもう一方の言語というように、言語ごとに使う場面が異なることがあります。
理解は一方が得意で、話すことはもう一方が得意という場合もあります。

生活環境が変われば、得意な言語も変化します。

二つの言語を常に半分ずつ使い、同じ語彙、発音、読み書きの力にそろえることを「成功」の条件にすると、子どもと家庭へ大きな負担をかけます。目的は均等な成績表をつくることではなく、子どもが必要な相手と気持ちや考えを伝え合える言語を育てることです。

日本語への影響をさらに詳しく知りたい場合は、英語を早く始めると日本語の発達に影響する?も参考にして下さい。

研究でまだ十分に分かっていないこと

幼児期の二言語研究には、重要な限界があります。

第一に、「バイリンガル」「二言語児」の定義や、言語経験の測り方が研究ごとに異なります。
二つの言語に触れる割合、使い始めた年齢、実際に話す必要性、得意さは一人ひとり違います。

第二に、多くの研究は、英語とスペイン語、英語とフランス語など、北米や欧州の言語環境を対象にしています。
言語の組み合わせ、文字、社会的な位置づけ、教育制度が異なる日本語と英語へ、結果をそのまま移すことはできません。

第三に、家庭が教育環境を選ぶ研究では、もともとの家庭の関心、所得、保護者の言語力などの影響を完全に分けにくい場合があります。
二言語教育と結果に関連があっても、教育だけが原因とは限りません。

第四に、日本で暮らす0~6歳児を長く追い、自然な二言語家庭、英語保育、短時間の英語活動を同じ基準で比較した研究は十分ではありません。

今後は、二言語か単言語かという二分だけでなく、子どもがどのような言語経験と支えを得ているかを丁寧に捉える研究が必要です。

まとめ

幼児期に二つの言語へ触れることは、それ自体が子どもを混乱させたり、言語障害を生じさせたりするものではありません。
ただし、一つの言語だけを測ると語彙が少なく見える場合があり、二つの言語を合わせた見方や、実際に使う場面を考える必要があります。

一方で、二言語教育がすべての子どもの認知能力を高める、早く始めれば将来の言語力が保証される、とも言えません。
近年の研究が重視しているのは、「二言語であること」というラベルより、豊かで継続的な言語経験、人との応答、家庭・園・地域の支えです。

子どもの二つの言語は、いつも同じ速さや同じ得意さで育つとは限りません。
どちらかを点数のために削るのではなく、子どもが大切な人とつながり、経験や気持ちを伝えられる言語環境を、生活全体から考えることが大切です。

3. 参考文献一覧

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