幼児期から英語に触れさせたいと思う一方で、「日本語が遅れないだろうか」「二つの言語が混ざって、子どもが混乱しないだろうか」と心配になることがあります。
この疑問は、「英語を始めたか、始めていないか」だけでは答えられません。
週に一度、歌や絵本で英語を楽しむことと、園生活の多くを英語で過ごすことでは、子どもの言語環境が大きく異なるからです。
この記事では、海外の二言語研究と、日本の幼児を対象にした科研費研究をもとに、分かっていることと、まだ分かっていないことを分けて整理します。
年齢や語彙数を合否判定にせず、家庭で子どもの言葉をどう見ていけばよいかを考えます。
この記事で分かること
- 英語を早く始めることと、日本語の発達の関係
- 一つの言語だけを測ると「少ない」と見えやすい理由
- 週1回の英語活動と、長時間の英語環境を分けて考える必要性
- 日本語と英語の両方を支える家庭での関わり方
英語を早く始めるだけで、日本語が一律に遅れるとは言えない
現在の研究からは、幼児期に二つの言語へ触れること自体が、子どもを混乱させたり、言語の障害を起こしたりするとは言えません。
複数の言語を学ぶ子どもも、それぞれの言語の規則を少しずつ捉えていきます。
ただし、「影響がまったくない」と言い切るのも正確ではありません。子どもが一日に使える時間は限られています。
英語を使う時間が増えれば、英語の経験は増えますが、同じ時間に日本語を使う機会は相対的に少なくなることがあります。
そのため、一つの言語だけで語彙や文法を測ると、その言語だけで育つ子どもより得点が低く見える場合があります。
大切なのは、英語の開始年齢だけで判断しないことです。
日本語と英語を、誰と、どのくらい、どのような場面で使っているのかを見ます。
週に短時間だけ楽しむ英語と、生活の多くを英語で過ごす環境は分けて考える必要があります。
「日本語の語彙が少ない」と見えやすい理由
一つの言語だけを測ると、二つの言語に分かれた知識を捉えにくい
二つの言語で暮らす子どもは、すべての物事を両方の言語で同じように経験するとは限りません。
家では日本語で食事や着替えの言葉をよく使い、園では英語で遊びや制作の言葉を多く使う、といった違いが生まれます。
Hoffらが22~30か月の子どもを追った米国の研究では、スペイン語と英語の二言語児は、各言語を別々に比べると単言語児より語彙や文法の伸びが小さく見えました。
一方、二つの言語で知っている語を合わせた総語彙は、英語だけで育つ子どもと同程度でした。
また、二言語児の各言語の伸びは、その言語に触れる割合と関係していました(Hoff et al., 2012)。
同じ子どもたちの語彙を詳しく調べたCoreらの研究でも、二つの言語を合わせた総語彙の大きさと伸びは、単言語児とおおむね同様でした。
ただし、同じ概念を二重に数えない別の集計方法では結果が異なり、どの測り方でも単純に同じになるわけではありません(Core et al., 2013)。
つまり、日本語だけの語彙が少なく見えることと、子どもの言葉全体が遅れていることは同じではありません。
反対に、二言語を合わせれば必ず問題がないとも言えません。
年齢だけでなく、両方の言語で理解や表現がどう増えているかを経過で見ることが大切です。
日本語と英語が混ざることは、混乱の証拠とは限らない
会話の途中で日本語と英語が混ざったり、一方の言語の言葉をもう一方の文に入れたりすることがあります。
これは、子どもが二つの言語を区別できていない証拠とは限りません。
その場で使いやすい言葉を選ぶ、相手に合わせる、まだ知らない語を補うといった、二言語を使う人に自然に見られる行動です。
乳幼児の二言語発達をまとめたレビューでも、言語が混ざることは混乱を示すものではなく、子どもは早い時期から言語の違いに反応すると整理されています(Byers-Heinlein & Lew-Williams, 2013)。
混ざった表現を一つずつ直すより、子どもが伝えたかった内容を受け止め、自然な日本語や英語で返すほうが会話を続けやすくなります。
海外研究では、各言語の育ちと「その言語に触れる量」の関係が示されている
カナダで5歳のフランス語・英語二言語児を調べた研究では、各言語の語彙や文法は、その言語に触れる割合と強く関係していました。
二つの言語にほぼ均等に触れていた子どもは、聞いて分かる語彙では単言語児に近い成績でしたが、自分で言う語彙には、より多くの接触が必要でした(Thordardottir, 2011)。
この結果は、「早く始めれば、少ない時間でも同じように伸びる」とは示していません。
むしろ、開始年齢だけでなく、日々どれだけその言語を聞き、使う必要があるかが関係することを示します。
ただし、これらはスペイン語と英語、またはフランス語と英語を使う北米の子どもを対象にした研究です。
二つの言語の社会的な位置づけ、園や学校の環境、家族の言語、文字に触れる機会は日本と異なります。
英語と日本語の組み合わせへ、結果をそのまま当てはめることはできません。
日本の幼児研究が示した「可能性」と限界
日本では、科研費研究「早期英語教育が第一言語獲得に及ぼす影響」で、日本語を主に使う幼稚園児と、園生活で英語を多く使うイマージョン環境の幼児が比較されました。
成果報告では、イマージョン群の日本語の語彙得点が低い傾向が示された一方、調べた日本語文法の理解や数の課題では大きな差は確認されませんでした(科研費研究成果報告書 21K18370)。
この研究は、日本で育つ幼児を対象にした貴重な資料です。
ただし、子どもを無作為に二つの園へ振り分けた実験ではなく、もともと異なる園を選んだ家庭の子どもを比べた観察研究です。
参加人数は計画より少なく、二群の人数にも偏りがありました。家庭環境や入園前の違いなど、英語以外の要因を完全には除けません。
したがって、この結果だけから「イマージョン教育が日本語の語彙を遅らせた」と原因を断定することはできません。
一方で、生活の多くを英語で過ごす環境では、日本語に触れて使う機会とのバランスを具体的に確かめる必要がある、という検討材料にはなります。
また、この研究が扱ったのは英語で長時間保育を受ける環境です。
家庭で英語の歌を楽しむことや、週に一度教室へ通うことと同じ条件ではありません。
高密度の英語環境で見られた結果を、すべての早期英語活動へ広げないことが大切です。
影響を考えるときは、開始年齢より言語環境を見る
「何歳からなら安全か」「週に何時間なら日本語へ影響しないか」という共通の境界線は、現在の研究からは決められません。
同じ時間でも、録音を流すだけなのか、子どもが好きな人と意味のあるやりとりをするのかで経験が異なります。
日本語を使う家庭時間や園生活も、一人ひとり違います。
まず、次の三つを分けて考えます。
- 家庭で歌や絵本などを短時間楽しむ
- 教室やオンラインで定期的に英語を使う
- 園や家庭生活の長い時間を英語で過ごす
英語に触れる時間が長くなるほど、日本語を使う場面がどこにあるかも一緒に確認します。
日本語で家族と十分に話し、遊び、気持ちや出来事を共有できるなら、「英語を入れた分だけ日本語が失われる」と機械的に考える必要はありません。
反対に、長時間の英語環境へ移る場合は、日本語の会話や物語に触れる機会が自然に保たれるかを見ておくと安心です。
何歳から始めるかを考えるときは、「早期英語教育は何歳から?」もあわせてご覧ください。
録音を流すだけより、人とのやりとりを中心にする
9か月の乳児を対象にした米国の実験では、外国語話者と対面で遊びながら話を聞いた乳児は音の聞き分けを学びましたが、同じ内容を映像や音声で聞いた群では同じ学習が確認されませんでした(Kuhl et al., 2003)。
これは短期間の「音の聞き分け」を調べた研究で、日本語の発達や将来の会話力を直接調べたものではありません。
それでも、幼児の言語経験を考えるとき、教材を流した時間だけでなく、目の前の人と意味をやりとりできたかを見る手がかりになります。
英語音声を流すだけで期待できることと限界は、「幼児の英語は聞き流しだけで身につく?」で詳しく整理しています。
家庭で日本語と英語の両方を支えるには
日本語を守るために英語を避ける、英語を伸ばすために家庭の日本語を減らす、という二者択一にする必要はありません。
家庭では、次のような考え方が役立ちます。
大人が自然に気持ちを伝えられる言語を大切にする
大人が最も自然に話せる言語には、細かな気持ち、冗談、理由の説明、昔の出来事など、豊かな内容をのせやすい利点があります。
米国小児科学会の保護者向け資料も、保護者が最も使いやすい言語で子どもと話すことを勧めています(AAP・ASHA, 2025)。
保護者が英語に自信がない場合も、無理に家庭の会話全体を英語へ変える必要はありません。
英語の歌や短い絵本を一緒に楽しみ、分からないところは日本語で気持ちや内容を共有しても、英語活動の価値がなくなるわけではありません。
正解を試すより、伝わった経験を増やす
「これは英語で何?」「もう一度言って」と何度も試すと、子どもによっては会話よりテストのように感じます。子どもが指さしたり、一語で伝えたり、日本語と英語を混ぜたりしたときは、まず意味を受け取ります。
そのうえで、大人が自然な短い文で言い直して返すと、会話を止めずに表現を聞かせられます。
子どもが英語を使わない日があっても、すぐに成果不足と決める必要はありません。
聞いて分かることと、自分から言えることは同じ速さでは育たず、相手や場面によって使う言語も変わります。
子どもの言葉を見るときは、二つの言語を合わせて考える
二言語環境の子どもの言葉を見るときは、日本語だけ、英語だけの一場面で合否を決めません。家庭と園の両方で、次のような変化を時間をかけて見ます。
- 二つの言語を合わせると、理解できる言葉や伝え方が増えているか
- 言葉だけでなく、視線、表情、指さし、身振りで人と意味を共有しているか
- 日本語と英語を、相手や場面に応じて使おうとしているか
- 会話、遊び、絵本などを通して、やりとりが少しずつ広がっているか
一つの言語で出にくい言葉が、もう一つの言語では使えることもあります。
日本語を中心に、声・視線・身振りから会話までの大まかな育ちは、「0~6歳の言語発達」で整理しています。
この記事は一般的な研究の読み方を示すもので、個別の発達を判定するものではありません。
二つの言語を合わせても理解や表現の広がりが見えにくい、聞こえや意思疎通について気になる状態が続くなど、日常生活で具体的な心配がある場合は、英語を続けるかどうかだけで抱え込まず、普段の様子を知る園や地域の相談窓口などへ状況を共有してください。
まだ十分に分かっていないこと
幼児期の英語と日本語の関係について、研究から決められない点も残っています。
第一に、日本語を主な言語とする幼児を長く追った研究はまだ限られています。
特に、家庭で短時間英語に触れる子ども、週数回教室へ通う子ども、イマージョン園で過ごす子どもを同じ方法で比較した十分な研究は確認できませんでした。
第二に、家庭の会話の質、保護者の言語、園での友だち関係、子どもの関心などをすべてそろえて比較することは難しく、「英語に触れた時間」だけの効果を取り出すことはできません。
第三に、幼児期の日本語の得点差が、その後の学習や生活にどの程度つながるのかも、現在の日本の資料だけでは分かりません。
今後は、より多くの子どもを対象に、二つの言語と生活環境を長期的に追う研究が必要です。
まとめ
英語を早く始めること自体が、すべての子どもの日本語を遅らせたり、二つの言語を混乱させたりするとは言えません。
二言語の子どもは、経験を二つの言語に分けて蓄えるため、一方だけを測ると語彙が少なく見えることがあります。
一方、各言語の育ちは、その言語に触れて使う機会と関係します。
特に、生活の多くを英語で過ごす環境は、短時間の英語遊びと分けて考え、日本語で豊かにやりとりできる時間や相手が保たれているかを見る必要があります。
家庭でできるのは、開始年齢や時間の数字だけを追うことではありません。
大人が自然に気持ちを伝えられる日本語を大切にしながら、英語も人との楽しいやりとりに結びつけること。
そして、日本語と英語を合わせた子どもの伝え方が、時間とともにどう広がっているかを見守ることです。
参考文献一覧
- 菅原彩加(研究代表者)「早期英語教育が第一言語獲得に及ぼす影響」科学研究費助成事業 研究成果報告書、2026年。課題番号21K18370。研究課題ページ/成果報告書
- Hoff, E., Core, C., Place, S., Rumiche, R., Señor, M., & Parra, M. (2012). Dual language exposure and early bilingual development. Journal of Child Language, 39(1), 1–27. DOI
- Core, C., Hoff, E., Rumiche, R., & Señor, M. (2013). Total and conceptual vocabulary in Spanish-English bilinguals from 22 to 30 months: Implications for assessment. Journal of Speech, Language, and Hearing Research, 56(5), 1637–1649. DOI
- Thordardottir, E. (2011). The relationship between bilingual exposure and vocabulary development. International Journal of Bilingualism, 15(4), 426–445. DOI
- Byers-Heinlein, K., & Lew-Williams, C. (2013). Bilingualism in the Early Years: What the Science Says. LEARNing Landscapes, 7(1), 95–112. DOI
- Peña, E. D., Bedore, L. M., & Granados Vargas, A. (2023). Exploring Assumptions of the Bilingual Delay in Children With and Without Developmental Language Disorder. Journal of Speech, Language, and Hearing Research, 66(12), 4739–4755. DOI
- Kuhl, P. K., Tsao, F.-M., & Liu, H.-M. (2003). Foreign-language experience in infancy: Effects of short-term exposure and social interaction on phonetic learning. Proceedings of the National Academy of Sciences, 100(15), 9096–9101. DOI
- American Academy of Pediatrics / American Speech-Language-Hearing Association. (2025). Young Children Learning Multiple Languages: Parent FAQs. HealthyChildren.org