「英語は早く始めた方が身につく」「3歳を過ぎると遅い」と聞くと、今すぐ始めなければと焦るかもしれません。
一方で、日本語の育ちや、遊ぶ時間への影響が気になるという方もいるでしょう。
研究をたどっても、当然のことながら、すべての子どもに共通する「最適な開始年齢」は確認されていません。
乳児は周囲の言葉の音を徐々に学び始めていますが、早く始めるだけで、その後の英語力が決まるわけでもありません。
大切なのは、何歳から始めるかだけでなく、どのような目的で、どれほど英語に触れ、誰とどのようにやりとりし、無理なく続けられるかです。
この記事では、早期英語教育の開始年齢を、乳幼児・就学前・学校での外国語学習を区別しながら考えます。
この記事で分かること
- 早期英語教育に一律の「ベストな年齢」があるのか
- 乳児期の音の学習と、英語教育の効果を分けて考える理由
- 0~2歳、3~4歳、5~6歳で無理なく始めるときの考え方
- 開始年齢以上に確かめたい、対話・量・継続性・子どもの様子
- 海外研究を日本の家庭へ当てはめるときの注意点
英語は「何歳までに」より、続けられる形が整ったときに
早期英語教育を始める年齢に、すべての子どもへ当てはまる一つの正解はありません。
乳児期から英語の音に触れることには、なじみのない音へ注意を向ける経験として意味があります。
ただし、それだけで将来、英語を話せるようになると約束することはできません。
週に数回の教室、家庭での短い遊び、毎日複数の言語を使う生活、英語で保育を受ける環境では、得られる経験が大きく異なるためです。
家庭で始めるなら、子どもが英語の歌、絵本、言葉遊びなどに興味を示し、大人も無理なく一緒に楽しめる時期が一つの始めどきです。
0歳から始めなければ手遅れになるわけではなく、5~6歳からでも遅すぎません。
開始の早さを競うより、「短くても人とのやりとりがあるか」「子どもの安心や遊びを損なわないか」「数か月で終わらず続けられるか」を確かめる方が、研究に沿った判断と言えるでしょう。
子どもの興味や育ちの表れ方には幅があります。
子どもの発達の基本を踏まえ、一つの年齢を合否の線にしないことが大切です。
なぜ「早いほどよい」と単純に言えないのか
「英語力」は一つの力ではない
英語を学ぶときには、音を聞き分ける、単語の意味を知る、文の形を理解する、相手の話を聞く、自分の考えを伝える、文字を読む・書くなど、複数の側面があります。
開始年齢の影響は、どの側面を見るかによって変わります。
乳児期の研究で音の違いに気づく結果が得られても、それは語彙、会話、読み書きまで同時に身についたという意味ではありません。
反対に、年齢が上がってから始めた子どもは、すでに育っている記憶、考える力、学び方を使い、短い期間で単語やルールを理解する場合があります。
言葉は、発音や単語数だけでなく、人と意味を共有する働きでもあります。子どもの言葉が育つ流れを見ると、声、視線、身振り、理解、発話、会話が重なって育つことが分かります。
生活で使う英語と、限られた時間の学習は同じではない
英語に触れる量や環境の違いが日本語の育ちとどう関係するかは、「英語を早く始めると日本語の発達に影響する?」で詳しく整理しています。
年齢研究を読むときに最も注意したいのが、学ぶ環境の違いです。
家庭や地域で英語を日常的に使う子どもは、毎日の生活の中で必要に応じて英語を聞き、話します。
一方、日本で週1回の教室へ通う子どもが英語に触れる時間は、それよりはるかに限られます。
英語で長時間保育を受ける環境も、家庭で歌を1曲楽しむ環境も、単に「早期英語教育」とひとまとめにはできません。
生活の中で二つの言語を使う子どもの育ちについては、幼児期の二言語教育に関する最新研究で、語彙・言語の混合・教育効果を分けて解説しています。
Muñoz(2008)は、外国語が生活の中で使われる環境と、授業で学ぶ環境では、年齢の効果を同じように一般化できないと論じています。
就学前の外国語学習をまとめたレビューでも、プログラムの時間、方法、教師、家庭の関わりが研究ごとに異なり、長期的な結果はまだ十分に分かっていません。
研究から分かる開始年齢のこと
乳児は外国語の音から学べるが、「今すぐ教育」の証明ではない
Kuhl、Tsao、Liu(2003)は、英語環境で育つ生後9か月ごろの乳児を対象に、4週間で12回、中国語話者と絵本や玩具を通して関わる実験を行いました。
対面で中国語に触れた乳児は、中国語の音の違いを聞き分ける課題で学習が見られました。
同じ内容を映像や音声だけで提示した条件では、同じ結果は得られませんでした。
この研究は、乳児が短期間の外国語経験から音を学べることと、対面の社会的なやりとりが関係する可能性を示しています。
ただし、測ったのは実験室での音の聞き分けです。
将来の会話力や学校成績、家庭向け教材の効果を調べた研究ではありません。
「9か月までに英語を始めるべき」「動画はすべて無意味」と結論づけることもできません。
限られた授業では、年齢が上の子が初めは速く学ぶことがある
年齢が低い子どもは、いつも短期間で多く学ぶわけではありません。
年齢が上の子どもは、意味を推測する力、記憶の方略、すでに知っている言葉や文字を使えるため、限られた授業時間では初期の進み方が速い場合があります。
スペインの外国語学習を整理したMuñoz(2008)は、自然な言語環境と授業中心の環境では年齢効果が対称ではないことを示しました。
ドイツの学校で早く英語を始めた子どもと遅く始めた子どもを追ったJaekelら(2017)でも、早期開始群の優位は後の学年まで一貫して続きませんでした。
これらは就学前の家庭学習を直接調べた研究ではありませんが、「早く始めれば、限られた授業でも常に先行できる」とは言えないことを示します。
早い開始の意味は、接触量・質・継続性と切り離せない
就学前の外国語プログラムを扱ったシステマティックレビューでは、外国語の発達に良い変化が報告された研究がある一方、研究の多くは短期で、方法や評価がそろっていませんでした。
Thiemeら(2022)は、言葉に触れる量、保育者の関わり方、プログラムの方針などが結果に関係し、長期的に学びが残るかは十分に検証されていないと整理しています。
また、2000~2022年の就学前外国語研究74件を検討したNikolovとMihaljević Djigunović(2023)は、幼い学習者が必ず速く進むわけではないこと、子ども全体の育ち、遊びを基盤とする方法、教師の力量、次の教育段階への継続が重要であることを指摘しています。
英国の小学生がフランス語を学ぶ過程を調べたGrahamら(2017)でも、授業時間や教師の目標言語の力が学習の進み方と関係していました。開始年齢だけでは、子どもが実際に受け取る経験を説明しきれません。
「臨界期」は家庭の申込期限ではない
言語学習には、年齢によって学び方や到達のしやすさが変わる可能性があります。
しかし、「臨界期」という言葉から、3歳、6歳、思春期などに一つの締切があり、その後は学べないと考えるのは正確ではありません。
Hartshorne、Tenenbaum、Pinker(2018)は、オンラインで集めた英語の文法データを分析し、文法を学ぶ力は幼児期だけで急に失われるのではなく、思春期後半ごろまで高く保たれるというモデルを示しました。
一方、van der Slikら(2022)の再分析は、一つの急な境界より連続的な変化で説明できる集団があることや、学習者の背景を考える必要を指摘しています。
どちらも、0~6歳の日本の子どもへ特定の教材を与える実験ではありません。研究上も年齢変化の形には議論があり、「○歳までに申し込まなければならない」という根拠にはなりません。
0~6歳で始めるなら、年齢ごとに何を大切にする?
ここからは、研究を家庭での選び方へ置き換えた実践上の提案です。
各年齢で効果が証明された標準プログラムを示すものではありません。子どもの関心、ことば、感覚、生活リズムには個人差があります。
0~2歳:教えるより、声と意味を一緒に楽しむ
0~2歳では、英単語を言わせたり正解を確かめたりするより、抱っこや遊びの中で歌う、絵本の絵を一緒に見る、子どもの声や表情に応じるなど、人とのやりとりを中心にできます。
一度に長く続ける必要はありません。子どもが顔を背ける、疲れている、別の遊びへ移りたがるときは終えて構いません。
英語の音源を流し続ける量を競うより、今見ている物や動作と短い言葉が結び付く場面を作る方が、乳児研究から無理なく引き出せる考え方です。
この時期は日本語を減らす必要もありません。
子どもと保護者が最も自然に気持ちや意味を共有できる言葉で、豊かにやりとりする時間も大切です。
3~4歳:遊びの目的に英語を添える
3~4歳では、歌に合わせて動く、絵を選ぶ、動物になりきる、簡単なやりとりをまねるなど、遊びの目的に英語を添えられます。
正しい発音を繰り返させるより、「伝わった」「一緒にできた」という経験を守る方が続けやすくなります。
英語活動だけを特別な訓練にせず、子どもが選ぶ、試す、まねる、相手と交代するといった遊びの流れに置く考え方です。
幼児期の学びは知識の先取りだけではなく、遊びや生活の中で人や物と関わる過程にあります。
5~6歳:興味を、物語や意味のあるやりとりへ広げる
5~6歳では、好きな物語を繰り返し聞く、簡単なルールの遊びをする、知りたい言い方を大人と調べるなど、子どもの目的に沿って英語を広げられます。
音や会話に加えて文字へ興味を示す子もいますが、読み書きを一律に先取りする必要はありません。
この年齢から始めても遅くありません。
日本語で育ててきた「話を聞く」「意味を推測する」「順序を考える」といった力も、新しい言葉を学ぶ土台になります。5~6歳児の発達で見られるように、言葉、思考、遊び、人との関係は結び付いています。
開始年齢より確かめたい4つのこと
人とのやりとりがあるか
子どもが聞くだけでなく、表情、視線、身振り、声、言葉で反応し、相手がそれに応じる時間があるかを見ます。
動画や音源を使う場合も、それだけに任せず、大人が一緒に歌う、止めて話す、動作をまねるなど、共有する時間を加えられます。
実際に触れる時間と内容が目的に合っているか
英語の音に親しむことと、英語で長く会話することでは、必要な経験が異なります。
「週1回で何年後に何ができるのか」「家庭での取り組みを前提としているか」など、サービスの表示を具体的に確かめましょう。
「聞き流すだけで自然に話せる」「幼いうちなら短期間で身につく」といった説明は、研究から直接支えられているとは限りません。
次の段階へ無理なくつながるか
幼児期に楽しく始めても、その後に英語へ触れる機会がほとんどなければ、経験を保ちにくくなります。反対に、開始が少し遅くても、家庭、園、学校の学びがつながり、使う機会を重ねられれば、経験は広がります。
高額な長期契約をしなければ継続できないわけではありません。
図書館の絵本、日常の短い歌、無料の地域活動などを組み合わせ、家庭が続けられる範囲を選ぶこともできます。
子どもの安心と興味が保たれているか
英語の時間を楽しみにしているか、終わった後に強く疲れていないか、間違いを怖がっていないかを見ます。
参加しない日や、日本語で答える日があっても、それだけで「向いていない」と判断する必要はありません。
嫌がる子どもを長く座らせる、発音を何度も直す、他の子と単語数を比べるといった方法は、英語への関心を保つ目的と合わない場合があります。
一旦休む、時間を短くする、好きな遊びへ戻すことも調整の一つです。
日本の小学校英語は、家庭で始める期限を示していない
日本の現行の小学校学習指導要領では、2020年度から3・4年生に外国語活動、5・6年生に教科としての外国語が全面実施されています。
これは公教育のカリキュラム上の位置付けであり、家庭で何歳から始めるのが科学的に最適かを示す基準ではありません。
就学前に英語を習っていない子どももいれば、家庭や園で複数の言語に触れてきた子どももいます。
小学校が、経験の異なる子どもを受け入れて学びをつなぐことが前提です。
次期学習指導要領に向けた小学校英語の検討状況については、開始学年や授業時数など、決まったことと未確定のことを分けて確認できます。
就学前にできることは、授業内容を先取りして完成させることだけではありません。
人の話を聞く、分からないときに尋ねる、音や言葉の違いを面白がる、伝わる方法を試すといった経験も、新しい言葉を学ぶ土台になります。
研究でまだ十分に分かっていないこと
就学前の外国語教育には前向きな結果が報告されていますが、次の点はまだ十分に分かっていません。
- 幼児期の短時間プログラムの効果が、数年後までどの程度残るか
- 何歳から、週に何時間、どの方法で始める組み合わせが最もよいか
- 子どもの気質、家庭で使う言葉、保護者の英語力、園や学校とのつながりが結果をどう変えるか
- 英語以外の遊び、睡眠、家族の会話との時間配分まで含めた長期的な影響
研究の多くは欧州など日本以外で行われ、教育制度、英語に触れる機会、言語間の距離が日本と異なります。
日本で英語を学んだ大学生の過去の学習歴を調べたLarson-Hall(2008)では、早く始めた群に一部の優位が見られましたが、後から学習経験を尋ねた研究であり、幼児期の開始だけが結果を生んだと証明するものではありません。
また、就学前外国語プログラムのレビューでは、第一言語への明確な悪影響は確認されなかったと報告されていますが、研究数、期間、対象となったプログラムには限界があります。
これを「どの方法でも日本語へ影響しない」と広げて受け取ることはできません。
日本語を含め、子どもが日常で十分に意味をやりとりできる環境を保つことが必要です。
まとめ
早期英語教育は、0歳、3歳、5歳など一つの年齢を境に、成功と失敗が分かれるものではありません。
乳児期には外国語の音を学べる可能性がありますが、早く始めるだけで将来の英語力が決まるという証拠はありません。
限られた授業では年齢が上の子どもが速く学ぶ場合もあり、早期の差がそのまま長く続くとも限りません。
家庭での始めどきは、子どもが声、歌、絵本、物語、遊びなどへ関心を向け、大人も無理なく対話の時間を作れるときです。
始めた後は、年齢よりも、意味のあるやりとり、触れる量と質、次の学びへのつながり、子どもの安心を見て調整します。
0歳から始めなくても手遅れではありません。5~6歳からでも、その年齢までに育った言葉や考える力を生かせます。
「早く始めたか」ではなく、「その子が今、どのように言葉と人へ関わっているか」を見ながら、家庭に続けられる形を選ぶことが大切です。
参考文献一覧
- Thieme, A.-M. M. M., Hanekamp, K., Andringa, S., Verhagen, J., & Kuiken, F.(2022)The effects of foreign language programmes in early childhood education and care: a systematic review. Language, Culture and Curriculum, 35(3), 334–351. DOI: 10.1080/07908318.2021.1984498
- Nikolov, M., & Mihaljević Djigunović, J.(2023)Studies on pre-primary learners of foreign languages, their teachers, and parents: A critical overview of publications between 2000 and 2022. Language Teaching, 56(4), 451–477. DOI: 10.1017/S0261444823000095
- Kuhl, P. K., Tsao, F.-M., & Liu, H.-M.(2003)Foreign-language experience in infancy: Effects of short-term exposure and social interaction on phonetic learning. Proceedings of the National Academy of Sciences, 100(15), 9096–9101. DOI: 10.1073/pnas.1532872100
- Muñoz, C.(2008)Symmetries and Asymmetries of Age Effects in Naturalistic and Instructed L2 Learning. Applied Linguistics, 29(4), 578–596. DOI: 10.1093/applin/amm056
- Larson-Hall, J.(2008)Weighing the benefits of studying a foreign language at a younger starting age in a minimal input situation. Second Language Research, 24(1), 35–63. DOI: 10.1177/0267658307082981
- Graham, S., Courtney, L., Marinis, T., & Tonkyn, A.(2017)Early Language Learning: The Impact of Teaching and Teacher Factors. Language Learning, 67(4), 922–958. DOI: 10.1111/lang.12251
- Jaekel, N., Schurig, M., Florian, M., & Ritter, M.(2017)From Early Starters to Late Finishers? A Longitudinal Study of Early Foreign Language Learning in School. Language Learning. DOI: 10.1111/lang.12242
- Hartshorne, J. K., Tenenbaum, J. B., & Pinker, S.(2018)A critical period for second language acquisition: Evidence from 2/3 million English speakers. Cognition, 177, 263–277. DOI: 10.1016/j.cognition.2018.04.007
- van der Slik, F. W. P., Schepens, J. J., Bongaerts, T., & van Hout, R. W. N. M.(2022)Critical Period Claim Revisited: Reanalysis of Hartshorne, Tenenbaum, and Pinker(2018)Suggests Steady Decline and Learner-Type Differences. Language Learning, 72(1), 87–112. DOI: 10.1111/lang.12470
- 文部科学省(2017)小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語活動・外国語編