保育園の玄関で保護者に手を振り、保育者に迎えられる3歳ごろの子どものクレヨン画

感情・行動

子どもの母子分離不安はなぜ起こる?

保育園の玄関で保護者にしがみつく。
少し姿が見えなくなるだけで泣く。
離れられない様子が続くと、「育て方に問題があったのでは」「いつまで続くのだろう」と心配になるかもしれません。

子どもが信頼する大人と離れることに不安を感じるのは、乳幼児期によく見られる反応です。
ただし、現れ方や落ち着くまでの経過には大きな個人差があります。

大切なのは、泣くかどうかだけで判断することではありません。
別れた後に別の大人の支えを受け入れられるか、少しずつ遊びや食事へ戻れるか、生活全体への影響が強くなっていないかを見ていきます。


この記事で分かること

  • 子どもが保護者と離れることを不安に感じる理由
  • 年齢による分離不安の見え方の違い
  • 登園時に泣くときに確認したいこと
  • 家庭と園で安心を支えるための関わり
  • 専門機関への相談を検討する目安

母子分離不安は、母親だけとの問題ではない

「母子分離不安」という言葉は広く使われていますが、子どもが不安を感じる相手は母親に限りません。
父親、祖父母、里親など、その子にとって身近で信頼できる養育者と離れる場面でも起こります。

こども家庭庁の「はじめの100か月の育ちビジョン」では、愛着の対象は母親や血縁者に限らず、継続的に関わる保育者などもその対象になりうると説明されています。

そのため、子どもが離れるときに泣くことを、母親の愛情不足や関わり方の失敗と結びつけることはできません。
反対に、泣けば必ず「愛着が強い」と判断できるわけでもありません。

本記事では、母親だけの問題と誤解されないよう、以降は主に「分離不安」と表記します。

子どもはなぜ離れることを不安に感じるのか

信頼する大人が「安心の拠点」になっている

乳幼児は、信頼する大人の近くで安心を得ながら、周囲の人や物へ関心を広げていきます。
不安になったときに戻れる相手がいるからこそ、遊ぶ、探索する、新しいことを試すといった行動がしやすくなります。

その安心の拠点となる人が急に見えなくなれば、不安が高まることがあります。
これは自立心が育っていない証拠というより、信頼する人とそうでない人を区別し、その人の存在を頼りにしている子どもの反応と考えられます。

別れた後を見通す力と、気持ちを整える力が育ちの途中にある

大人は、「仕事が終わったら迎えに来る」「夕方には会える」と理解できます。
しかし幼い子どもにとって、時計の時間や数時間後の出来事を思い浮かべることは簡単ではありません。

子どもは、不安が大きいときに信頼する大人の声や抱っこ、表情を借りて落ち着きます。
このように大人と一緒に気持ちを整えながら、少しずつ自分で落ち着く方法を増やしていきます。

この過程については、感情調整が育つ過程でも詳しく解説しています。

新しい場所や生活の変化が重なる

入園や進級では、保護者と離れることだけでなく、知らない場所、人、音、におい、生活時間など、複数の変化へ同時に対応する必要があります。

疲れ、空腹、睡眠不足、体調不良がある日には、普段より強く泣くこともあります。
長期休みの後、引っ越し、家族構成の変化、保育者の交代などをきっかけに、一度落ち着いていた分離不安が再び目立つ場合もあります。

このように、分離不安の現れ方は、発達だけでなく、子どもの気質、その日の状態、周囲の環境によって変わります。

年齢によって見え方は変わるが、境界線ではない

英国のNHSは、分離不安は生後6か月ごろから3歳ごろによく見られると説明しています。

ただし、この年齢は合否を分ける境界線ではありません。
より長く続いたり、環境の変化によって再び強まったりすることもあります。

分離以外も含めた幼児期の怖さの変化は、不安や恐怖の発達で詳しく説明しています。

乳児期後半から1歳ごろ

身近な人と知らない人を区別し、養育者の後を追うようになる時期です。
保護者が見えなくなると泣く、抱っこから降りたがらない、知らない人に近づかれると不安そうにするといった姿が見られます。

一方で、誰にでも同じ程度の反応が現れるわけではありません。新しい人や場所へ比較的早く慣れる子どももいます。

1~2歳ごろ

自分で歩いて行動範囲が広がる一方、強い不安を言葉だけで説明することはまだ難しい時期です。
泣く、追いかける、抱きつく、床に座り込むなど、体全体で気持ちを表すことがあります。

この時期の言葉、運動、自我の変化は、1歳児の発達の特徴とも関係しています。

2歳ごろは「自分で」と主張する姿が増えますが、すべてを一人でできるようになったわけではありません。

2歳児の発達と自己主張を理解すると、「自分でやりたい」と「離れたくない」が同時に現れる理由を捉えやすくなります。

3~4歳ごろ

保護者が戻ってくることを理解できるようになっても、別れを予想して不安になる場合があります。
「今日は保育園へ行かない」「ずっと一緒にいて」と言葉で伝える子もいます。

入園や進級、担任の交代など、生活が大きく変わる時期でもあります。
言葉で説明できるようになったからといって、不安を一人で処理できるとは限りません。

5~6歳ごろ

園生活に慣れている子どもでも、就学を意識する時期、家族の状況が変わったとき、長期休みの後などに不安が再び強まることがあります。

年齢だけで「もう泣いてはいけない」と判断せず、その子が何に不安を感じているのか、別れた後の生活へ戻れているかを確認します。

登園時に泣くことだけで判断しない

登園時に激しく泣いていても、保護者が離れた後に保育者の働きかけを受け入れ、遊びへ移れる子どもがいます。
一方、玄関では泣かなくても、その後長い時間動けない、食べられない、周囲と関われないという場合もあります。

別れの場面だけでなく、次のような経過を家庭と園で共有することが大切です。

  • 信頼する保育者の声かけや抱っこを受け入れられるか
  • 興味のある遊びや活動へ少しずつ移れるか
  • 食事、睡眠、排泄などの日課へ戻れるか
  • 不安の強さや続く時間が少しずつ変化しているか
  • 帰宅後の睡眠や食欲、機嫌へ大きな影響が出ていないか

一つの場面だけを切り取って、慣れた、慣れていないと決める必要はありません。
日による揺れを含め、ある程度の期間の変化を見ていきます。

研究から分かっていること

カナダ・ケベック州の1,933家族を1歳半から6歳まで追ったBattagliaらの縦断研究では、分離不安の経過には複数のパターンがありました。
幼児期早期に強かった不安が4~5歳ごろに低下する子どもが多い一方、高い状態が就学時まで続くグループも確認されています。

ただし、この研究は質問紙を中心とした集団レベルの研究です。
結果を使って、一人の子どもの将来や原因を判定することはできません。

Ahnertらのメタ分析は、40研究、2,867人の子どものデータを統合し、子どもが親以外の保育者とも安定した関係を築きうることを示しています。
一方、保育環境、関わり方、測定方法は研究ごとに異なります。「保育園へ行けば自然に慣れる」と一律に結論づけるものではありません。

ウィーンの10~33か月の子ども104人を入園後4か月間観察したDatlerらの研究では、入園初期の感情や人との関わり、探索行動の変化に大きな個人差がありました。
これは、登園時の泣き方だけでなく、保育中の遊びや人との関わりがどう変わるかを見る必要性を示しています。

日本の保育所保育指針も、子どもの気持ちを受け止め、応答的に関わり、保育士等との継続的な信頼関係を築くことを重視しています。

まだ十分に分かっていないこと

3歳未満児の家庭から保育施設への移行を扱ったvan Trijpらのシステマティック・スコーピングレビューでは、研究対象、保育制度、観察方法、移行の進め方に大きな違いがありました。

そのため、「何日間慣らし保育をすればよい」「別れは必ず短くすべき」など、すべての子どもや保育環境に当てはまる唯一の方法が証明されているわけではありません。

保育制度や家族の働き方も国によって異なります。
海外研究の結果は、日本の家庭や園へそのまま当てはめるのではなく、保育所保育指針など国内の公的資料と照らして読む必要があります。

また、分離不安と家庭環境の間に関連が見つかった研究があっても、それだけで母親の就労や特定の育て方が原因だとはいえません。
多くの研究は、複数の要因の関連を調べたもので、単純な因果関係を証明したものではありません。

子どもが安心して離れるために大人ができること

子どもが分かる出来事を使って再会を伝える

「夕方5時」よりも、「お昼寝から起きて、おやつを食べたころに迎えに来る」のように、子どもが経験している日課と結びつけて伝えると見通しを持ちやすくなります。

実際の迎えの時間と合わない約束は避けます。
予定が変わる場合は、園を通して子どもに伝えられるようにします。

別れ方をある程度同じにする

「靴を脱ぐ」「先生に挨拶する」「一度抱きしめる」「行ってきますと言う」など、毎日の流れをある程度そろえると、次に起こることを予測しやすくなります。

子どもが泣くのを避けようとして、気づかれないように立ち去ると、別れそのものを予測しにくくなる場合があります。
HealthyChildren.orgの案内でも、短く分かりやすい別れ方を繰り返し、伝えた再会の約束を守ることが勧められています。

ただし、別れの長さや方法に絶対的な正解があるわけではありません。
子どもの反応と園の状況を見ながら調整します。

保育者との関係を一緒に支える

登園時に迎える保育者を可能な範囲でそろえる、好きな遊びを用意する、家庭で落ち着きやすい方法を共有するなど、子どもが「この人なら頼れる」と感じられるようにします。

園の方針で認められていれば、小さなタオルや人形など、家庭を思い出せる物が移行を助けることもあります。

泣かないことを目標にしすぎない

「泣いたら恥ずかしい」「もうお兄さん・お姉さんだから」と感情を否定する必要はありません。
「離れるのが寂しいね」「迎えに来るまで先生と待とうね」と、気持ちと次の見通しを短く伝えます。

別れ際に泣くだけでなく、怒る、床に座り込むといった反応が強いときは、子どもの癇癪が起こる理由も参考にしてください。

相談を検討する目安

分離不安があること自体で、すぐに問題と判断する必要はありません。
ただし、次のような状態が続く、強くなる、生活へ大きく影響している場合は、周囲と相談しながら状況を整理することが役立ちます。

  • 園で長い時間、遊びや活動へ移れない
  • 食事や睡眠が大きく崩れている
  • 腹痛や頭痛などの訴えが繰り返し現れる
  • 保護者に危険なことが起こるという心配が非常に強い
  • 登園や外出が難しくなっている
  • 子どもだけでなく、家族の日常生活にも大きな影響が出ている

NHSの案内でも、不安が改善しない、悪化する、学校や家庭生活へ影響している場合には相談が勧められています。

まずは園の保育者と、登園後の様子を共有します。
必要に応じて、市区町村の保健センターやこども家庭センター、かかりつけの小児科などへ相談できます。

相談することは、子どもを診断したり、保護者の対応を責めたりすることではありません。
家庭と園だけでは見えにくい状況を一緒に整理するための手段です。

まとめ

子どもの分離不安は、信頼する大人と離れることを予測し、気持ちを整える力が育っていく途中で現れやすい反応です。
母親の愛情不足や、子どもの自立心のなさだけで説明できるものではありません。

登園時に泣くかどうかだけでなく、別れた後に保育者の支えを受け入れられるか、遊びや生活へ戻れるか、時間とともに変化しているかを見ていきます。

泣かせないことを急ぐよりも、分かりやすい別れを繰り返し、保護者は戻ってくること、別の信頼できる大人がそばにいることを経験できるよう支えることが大切です。

参考文献一覧

  1. こども家庭庁(2023)「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン」
  2. 厚生労働省(2017)「保育所保育指針」
  3. Battaglia, M., Touchette, É., Garon-Carrier, G., et al.(2016)“Distinct trajectories of separation anxiety in the preschool years.” Journal of Child Psychology and Psychiatry, 57(1), 39–46. DOI: 10.1111/jcpp.12424
  4. Ahnert, L., Pinquart, M., & Lamb, M. E.(2006)“Security of children’s relationships with nonparental care providers: A meta-analysis.” Child Development, 77(3), 664–679. DOI: 10.1111/j.1467-8624.2006.00896.x
  5. Datler, W., Ereky-Stevens, K., Hover-Reisner, N., & Malmberg, L.(2012)“Toddlers’ transition to out-of-home day care.” Infant Behavior and Development, 35(3), 439–451. DOI: 10.1016/j.infbeh.2012.02.007
  6. Spilt, J. L., & Koomen, H. M. Y.(2022)“Three Decades of Research on Individual Teacher-Child Relationships.” Frontiers in Education, 7, 920985. DOI: 10.3389/feduc.2022.920985
  7. van Trijp, C. P. J., Ree, M., Belland, T. E., Esmaeeli, S., Eidsvåg, G. M., Asikanius, M. A., & Rosell, L. Y.(2025)“A Systematic Scoping Review on the Transition of Under-3-Year-Old Children.” Education Sciences, 15(5), 589. DOI: 10.3390/educsci15050589
  8. American Academy of Pediatrics(2026)“Soothing Your Child’s Separation Anxiety.”
  9. NHS “[Separation anxiety]”
  10. AACAP “[The Anxious Child]”
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