保育所の玄関で保育者が幼児の上着を手伝い、別の幼児が雨上がりのカタツムリに気づくクレヨン画

幼児教育・学び

保育所保育指針とは?「養護と教育」を子どもの育ちから読みとく

保育園の連絡帳に「今日は自分で上着を着ようとしていました」「雨上がりの園庭でカタツムリを見つけました」と書かれていたら、そこにはどのような育ちがあるのでしょうか。

着替えを手伝うことは「お世話」、カタツムリを観察することは「教育」と、別々に見えるかもしれません。

しかし、保育所保育指針が示す保育では、安心して生活するための援助と、世界へ関わりながら育つための援助は切り離されていません。

この記事では、保育所保育指針の「養護と教育を一体的に行う」という考え方を、子どもの日常の姿から読みときます。


この記事で分かること

  • 保育所保育指針の位置づけ
  • 「養護」と「教育」が意味すること
  • 食事・着替え・遊びに含まれる育ち
  • 乳児期の3つの視点、5領域、「10の姿」の関係
  • 研究から分かっていることと、まだ言えないこと
  • 現行指針と次期改定案の違い

保育所保育指針は、保育所の共通のよりどころ

保育所保育指針は、保育所で行われる保育の基本的な考え方と内容を、国が示したものです。
現在の指針は2017年3月31日に告示され、2018年4月1日から適用されています。

現行の保育所保育指針は、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準に基づくもので、「総則」「保育の内容」「健康及び安全」「子育て支援」「職員の資質向上」の5章で構成されています。

ただし、指針は一日の活動を細かく指定するマニュアルではありません。
「この年齢なら必ずこの活動をする」「この能力を全員が同じ時期までに身につける」と定めるものでもありません。

保育所に共通する基本を示しながら、実際の保育では、子どもの発達過程、生活経験、興味、その日の心身の状態などを踏まえることが求められています。

「養護」と「教育」は、何を意味するのか

養護は、生活の世話だけではない

保育所保育指針では、養護を、子どもの生命を保ち、情緒の安定を図るために保育士等が行う援助や関わりと捉えています。

食事を用意する、衣服を整える、排せつを手伝う、けがを防ぐといった身体的な援助だけではありません。
泣いたときに応答してもらえること、疲れたときに安心して休めること、自分の気持ちを受け止めてもらえることも養護に含まれます。

このような経験は、子どもが「ここなら安心して過ごせる」「困ったときには助けてもらえる」と感じる土台になります。

教育は、机に向かう学習だけではない

保育所における教育は、子どもが健やかに成長し、その活動がより豊かに展開するための発達の援助です。

文字や数を教える時間だけを指すのではありません。
水たまりの深さを確かめる、友達に思いを伝える、服の前後を見比べる、歌や絵で感じたことを表すといった経験も、教育の一部です。

子どもは、生活や遊びの中で、体の使い方、人との関わり、物の性質、言葉、表現などを同時に学んでいます。

養護と教育は、順番に行うものではない

「生活を整えてから教育を始める」というように、養護と教育が時間的に分かれているわけではありません。

安心できる保育者との関係があるからこそ、子どもは周囲へ関心を向け、試したり、失敗したり、もう一度取り組んだりできます。
一方で、自分から環境へ関わる経験が、生活への見通しや自信につながることもあります。

保育所保育指針解説も、養護と教育を一体的に行うことを保育の基本として説明しています。

一つの日常場面に、養護と教育の両方がある

食事では、安心と学びが同時に育つ

食事の場面では、安全に食べられるよう見守り、空腹や食欲、体調に合わせることが養護になります。

同じ場面で、子どもは食材の色や匂いに気づき、スプーンの持ち方を試し、「もっと」「もういらない」と気持ちを伝えます。
友達が食べる様子を見たり、食事の流れを覚えたりすることもあります。

無理に食べさせるのではなく、安心して食卓に向かえる関係を整えることが、食への関心や自分で選ぶ力を支えます。

着替えでは、手伝うことと自立を急がせないことが両立する

子どもが上着のファスナーに取り組んでいるとき、保育者はすぐに全部代わることも、最後まで一人でさせることもできます。しかし実際には、その間に多くの関わり方があります。

差し込み口だけを支える、持つ場所を示す、子どもが試す時間を待つ、疲れた様子なら残りを手伝う。
このような調整には、快適に過ごせるよう支える養護と、自分で試す経験を支える教育の両方があります。

「できたか」だけでなく、どこまで自分で考え、いつ助けを求めたかを見ることが大切です。

遊びでは、安心できる関係が探索を支える

雨上がりの園庭でカタツムリを見つけた子どもは、近づいて見る、動きを追う、殻に触れようとする、友達や保育者へ知らせるなど、さまざまな行動を見せます。

保育者は、安全に観察できる場所を確保し、触れ方を一緒に考え、子どもの驚きに言葉を添えます。
答えを先に教えるだけでなく、「どこへ行くのかな」「さっきと動き方が違うね」と、子どもの気づきを支えることもできます。

ここでも、安全と情緒の安定を支える養護と、自然への関心や言葉、思考を支える教育が重なっています。

子ども同士の行き違いも、関係を学ぶ機会になる

物の取り合いなどが起きたとき、保育者はけがを防ぎ、それぞれの気持ちを受け止めます。
これは安全と情緒の安定を支える関わりです。

同時に、子どもが相手の存在に気づき、自分の思いを表し、折り合いのつけ方を少しずつ経験できるよう援助します。

すぐに謝らせることだけが目的ではありません。発達段階に応じて、気持ちを代弁したり、別の方法を示したりしながら、人と関わる経験を支えます。

年齢によって整理の仕方は違っても、育ちは切れ目なく続く

保育所保育指針では、乳児保育について、次の3つの視点から内容を示しています。

  • 健やかに伸び伸びと育つ
  • 身近な人と気持ちが通じ合う
  • 身近なものと関わり感性が育つ

1歳以上3歳未満児と、3歳以上児の保育内容は、「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」の5領域で整理されています。

これは、乳児期には教育がなく、1歳になったら5つの学習が始まるという意味ではありません。
乳児期の3つの視点は、身体・人との関係・身近な環境が相互に結びついた育ちを捉えやすくするための整理です。

年齢区分ごとに示し方は変わります。それでも、発達は誕生日で区切られるものではなく、前後の時期と連続しています。

子どもの発達を、環境とのやり取りの中で形づくられる過程として捉える基本は、子どもの発達とは?で詳しく解説しています。

3歳以上児について示される「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」も、卒園時に達成度を採点するための項目ではありません。
遊びや生活の中で見られる育ちを保育者が捉え、次の環境や援助を考えるための手がかりです。

「10の姿」は、子ども一人ひとりを合否判定するチェックリストではありません。

就学前に見られる育ちと「10の姿」の読み方は、5~6歳児の発達と就学前に育つ力で詳しく整理しています。

「環境を通して行う保育」は、放任ではない

保育所保育指針でいう「環境」には、玩具や教材だけでなく、人、物、空間、自然、社会の出来事などが含まれます。

「環境を通して行う」とは、物を置いて子どもを自由にさせておけばよい、という意味ではありません。子どもが自分から関わり、試し、やり直せるように、保育者が環境を整え、必要なときに応答することが含まれます。

幼児期の教育を遊び・生活全体から捉える考え方は、幼児期の学びとは?でも詳しく解説しています。

遊びの中で子どもが試し、考えを変える過程は、「遊び」と「学び」のつながりで具体的に紹介しています。

たとえばカタツムリを見つけた場面では、保育者がすぐに活動を終わらせるのでも、観察を完全に子ども任せにするのでもありません。
周囲の安全を確かめ、必要な道具や時間を用意し、子どもの言葉や動きから関心を読みとります。

同じ環境でも、近づいて見る子、少し離れて見守る子、別の遊びを続ける子がいます。
参加の仕方を一つに決めず、その子が安心して関われる距離を尊重することも環境構成の一部です。

研究から見える、関係と環境の大切さ

日本の保育所を対象とした中道圭人ほかの研究では、公立保育所に通う1~2歳児829人とその保護者、担当保育者のデータを分析しています。

保護者や保育者の質問紙評価では、遊びの環境設定の質が高いことと、子どもの問題行動が少ないことに関連が見られました。

ただし、質問紙を用いた観察研究であり、「特定の環境設定をすれば問題行動が減る」という因果関係を証明したものではありません。

荒牧美佐子ほかは、首都圏の幼稚園・保育所・認定こども園の園長等820人を対象に調査しました。
職員間の同僚性や話し合い・振り返りの時間が、子どもへの応答的な関わりや主体性を大切にする保育、協同的な学びと関連していました。

一方、園長等による回答を中心とした横断調査で、子どもの姿を直接測定した研究ではありません。

国内外185本の論文を統合したメタ分析では、幼児教育・保育の質と、子どもの学習面、社会性、行動などとの間に、全体として小さい関連が報告されています。

保育の質が重要でないという意味ではありませんが、一つの環境や関わりだけで子どもの将来が決まるほど単純ではないことも示しています。

また、世界保健機関は、乳幼児期の発達を支える「養育ケア」に、健康、栄養、安全、応答的な養育、学びの機会を含めています。
安心を支えることと学びを支えることを切り離さない点は、保育所保育指針の考え方とも重なります。WHO「Nurturing care」

研究と指針を読むときに注意したいこと

保育所保育指針は、保育の全国的な基本を示す規範的な文書です。
指針の一文一文が、個別の実験によって効果を確認された「育児法」を示しているわけではありません。

国内研究の蓄積は進んでいますが、園や保護者による質問紙調査も多く、保育実践と子どもの育ちの因果関係を切り分けることは簡単ではありません。

国際的なメタ分析も、対象研究の多くが米国で行われています。
保育制度、職員配置、文化、家庭との関係が異なるため、海外の数値を日本の保育所へそのまま当てはめることはできません。

大切なのは、「この方法なら必ず育つ」と結論づけることではなく、子どもの姿を見ながら、関係と環境を継続的に見直すことです。
子どもの行動を本人の性格だけに帰したり、保護者や保育者個人の努力不足として捉えたりしない視点も必要です。

保護者・保育者は、指針をどう生かせるか

保護者にとって、保育所保育指針は専門用語を暗記するためのものではありません。
連絡帳や園での会話から、子どもが何に気づき、何を試し、どのような援助を受けたかを知る手がかりになります。

「今日は何ができましたか」だけでなく、「何に興味を持っていましたか」「困ったときはどうしていましたか」と尋ねると、結果だけでは見えにくい育ちを共有しやすくなります。

保育者にとっても、指針は子どもを評価する採点表ではありません。

子どもの姿を手がかりに、安心できる関係があったか、試せる時間や空間があったか、援助が多すぎたり少なすぎたりしなかったかを振り返るための共通言語になります。

現行指針と次期改定案を混同しない

2026年8月29日時点で現行制度となっているのは、2017年に告示され、2018年から適用されている保育所保育指針です。

こども家庭庁の保育専門委員会では、2026年8月4日の会議資料として次期改定に向けた「取りまとめ(案)」が公表されています。
ただし、これは検討過程の案であり、新しい指針の告示や施行を意味するものではありません。こども家庭庁「保育専門委員会」

現時点では、検討案を現行ルールとして扱うことはできません。

次期改定の検討状況は、次期学習指導要領で幼児教育はどう変わる?で随時整理しています。

今後、最終的な取りまとめ、告示、施行日が公表された段階で、現行部分と改定部分を分けて確認する必要があります。

まとめ

保育所保育指針が示す養護と教育は、「お世話」と「学習」のように分けられるものではありません。

食事を安心して楽しむこと、着替えを自分なりに試すこと、保育者と一緒にカタツムリを見ること、友達との行き違いを支えてもらうこと。
その一つひとつに、生命と情緒の安定を支える養護と、世界へ関わりながら育つための教育があります。

指針を読むときは、子どもが何を達成したかだけでなく、どのような関係と環境の中で、何に気づき、何を試していたかを見ることが大切です。
養護と教育の一体性は、特別な活動を増やすための考え方ではなく、子どもの日常そのものを丁寧に読みとくための視点です。


参考文献一覧

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