子どもは、いつから「見えなくなっても物はそこにある」と分かるのでしょうか。
なぜ同じ数のおはじきでも、間を広げると「増えた」と答えることがあるのでしょうか。
こうした子どもの考え方の変化を、行動や対話から丁寧に捉えようとしたのが、スイスの心理学者ジャン・ピアジェです。
ピアジェの認知発達理論は、現在も発達心理学や保育・教育で取り上げられます。
一方、後の研究では、子どもが理解を示す年齢や、発達が段階的に進むという考え方に多くの修正が加えられてきました。
大切なのは、4つの段階を子どもの「合格・不合格」に使うことではありません。
ピアジェが残した問いと、その後の研究で更新された点を一緒に知ることで、目の前の子どもがどのように考えているかを、決めつけずに読み取れるようになります。
この記事で分かること
- ピアジェの認知発達理論と4つの発達段階の概要
- 0~6歳と関わりの深い「感覚運動期」「前操作期」の考え方
- 現在の研究でも評価される点と、修正されている点
- 「自己中心性」を「わがまま」と読んではいけない理由
- 家庭や保育で理論を生かすときの注意点
ピアジェの認知発達理論は何を説明しようとしたのか
子どもは知識を受け取るだけの存在ではない
ピアジェが重視したのは、子どもが大人から知識を受け取るだけでなく、自分で動き、試し、周囲の世界との関わりを通して理解を組み立てる存在だという点です。
たとえば、乳児は物を握る、落とす、口に運ぶ、見えなくなった物を探すといった行動を重ねます。
幼児は、ごっこ遊びで積み木を食べ物に見立てたり、同じ量の水を違う形の容器に移して見比べたりします。
こうした経験は、単なる練習ではなく、子どもが「物はどう動くか」「見た目が変わっても同じものか」を確かめる機会になります。
これは、発達を能力の一覧ではなく、子どもと環境の相互作用として捉える見方です。
発達の全体像については、子どもの発達とは何かでも詳しく整理しています。
「同化」と「調節」を繰り返して理解をつくる
ピアジェは、子どもがすでにもっている考え方に新しい経験を取り込むことを「同化」、経験に合うように考え方そのものを組み替えることを「調節」と呼びました。
たとえば、四本足の動物をすべて「わんわん」と呼ぶ子どもは、初めは新しく見た動物を既存の理解に取り込んでいます。
その後、猫や牛との違いに気づき、呼び分けるようになれば、理解の枠組みが組み替えられたと考えられます。
実際の発達は、この二つを明確に切り分けられるものではありません。
それでも「間違いを直されて覚える」のではなく、予想と経験のずれを手がかりに理解を作り直す、という見方は、子どもの試行錯誤を捉えるうえで今も重要です。
4つの発達段階とは?0~6歳では二つの時期が中心
ピアジェは、認知の発達を感覚運動期、前操作期、具体的操作期、形式的操作期の4段階で説明しました。
年齢は目安であり、誕生日を境に考え方が一斉に切り替わるわけではありません。
感覚運動期(おおむね0~2歳)
感覚運動期は、見る、触る、聞く、口に運ぶ、移動するといった感覚と運動を通して、物や人との関係を理解していく時期です。
この時期に関わる代表的な考えが「対象の永続性」です。
これは、物が視界から消えても存在し続けるという理解を指します。
ピアジェは、隠された物を乳児が探す行動などから、その理解が徐々に形成されると考えました。
ただし、探す行動には、物を覚えておく力、手を伸ばす力、注意を保つ力も必要です。
後の研究では、乳児が「あり得ない出来事」を長く見るかを調べる方法により、古典的な探索課題より早い月齢から、物の存在について何らかの予測をしている可能性が示されました。
これは、乳児が大人と同じ概念を完成させているという意味ではなく、測り方によって見える力が変わることを示しています。
0歳代の発達の全体像は0歳児の発達の特徴、1歳代の変化は1歳児の発達の特徴も参考になります。
前操作期(おおむね2~7歳)
前操作期には、言葉やイメージを使って、目の前にないものを表せるようになります。
ごっこ遊び、見立て遊び、絵や言葉による表現が広がるのは、その表れです。
一方、ピアジェは、この時期の子どもは見た目の目立つ特徴に引かれやすく、複数の観点を同時に扱うことが難しいと考えました。
たとえば、同じ数のおはじきを二列に並べ、片方の間隔だけを広げると、広がった列を「多い」と答えることがあります。
見た目が変わっても数は同じだと理解することを「数の保存」と呼びます。
ただし、いつも同じ答えになるわけではありません。
何を尋ねたか、同じ質問を繰り返したか、変化が意図的に見えたか、課題に慣れているかによっても反応は変わります。
日常場面で柔軟に考えられる子どもが、実験課題ではうまく答えられないこともあります。
3歳代と4歳代の日常の姿は、3歳児の発達の特徴と4歳児の発達の特徴で詳しく紹介しています。
具体的操作期と形式的操作期
具体的操作期はおおむね7~11歳で、具体物や実際の出来事を手がかりに、複数の観点を組み合わせたり、保存を理解したりしやすくなる時期とされます。
形式的操作期はおおむね11歳以降で、仮説を立て、抽象的に考える力が広がる時期とされます。
この記事の対象は0~6歳なので、この二つは見通しとして紹介するにとどめます。
また、年長児や大人でも、内容に不慣れな課題では具体例を必要とします。
年齢だけで思考の水準を決めることはできません。
現在の研究でも重要な三つの視点
第一に、子どもを「小さな大人」ではなく、その時期なりの考え方をもつ存在として捉えたことです。
答えが大人と違うとき、単に知識が足りないとせず、子どもが何に注目し、どのような理由で答えたかを探る道が開かれました。
第二に、子どもは環境に働きかけながら学ぶという視点です。
操作する、試す、失敗する、もう一度試すという過程そのものが、理解をつくる活動になります。
第三に、発達には、知識が少しずつ増えるだけでは説明しきれない変化があると考えたことです。
同じ場面の捉え方が変わり、使える方略が組み替わることがあります。
日本の発達心理学者・中垣啓は、段階論を単純な年齢表としてではなく、認識の構造がどう変わるかを問う理論として読み直す必要を論じています。
現代研究から修正された四つの点
乳幼児の力は古典的な課題より早く見えることがある
ルネ・バイヤルジョンは、生後3か月半と4か月半の乳児を対象に、物があるはずの場所を衝立が通り抜けるように見える「不可能な出来事」と、物理的に可能な出来事への注視時間を比較しました。
乳児は不可能な出来事を長く見ました。
この結果は、探索行動ができるより前から、物の存在に関する期待がある可能性を示すものです。
ただし、長く見ることと、自分で隠れた物を探せることは同じではありません。
注視時間が何を表すのかにも議論があります。
「ピアジェは完全に誤っていた」「乳児は対象の永続性を完成させている」とまでは言えません。
課題の言葉や状況が成績を左右する
保存課題では、同じ質問を変形の前後に繰り返すと、子どもが「大人がもう一度聞くのだから、答えを変えるべきだ」と受け取る可能性があります。
また、物の配置が偶然変わったか、実験者が意図的に変えたかでも反応が異なることが報告されています。
このことは、課題で誤答した子どもに理解が「ない」とは限らないことを示します。
答えるために必要な言葉の理解、記憶、注意、慣れなどを含めて考える必要があります。
他者の視点理解にも言葉と実行機能が関わる
ピアジェの「自己中心性」に関連して、その後の研究では、自分とは異なる他者の信念を理解する課題が数多く行われました。
ただし、ピアジェの課題と、後年の「誤信念課題」は同じものではありません。
誤信念課題のメタ分析では、年齢に伴う変化が確認される一方、課題の提示方法や国によって成績が異なることも示されています。
日本の4~5歳児を対象にした研究では、言葉で答える課題より、非言語的に反応する課題のほうが理解を捉えやすい場合がありました。
また、日本の3~5歳児の研究では、他者の誤った信念に基づく行動を理由づける成績が、ワーキングメモリや葛藤を抑える力と関連していました。
これらは、視点理解が言葉だけ、あるいは思いやりだけで決まるのではないことを示しています。
ただし関連があることは、一方が他方の原因だと証明するものではありません。
考える・待つ・切り替える力については、実行機能とは何かで詳しく解説しています。
発達は全領域で一斉に切り替わるとは限らない
現在は、子どもの考え方には連続的な変化と質的な変化の両方があり、領域、経験、課題によって異なる道筋をたどると考えられています。
同じ子どもでも、よく知る遊びでは複数の視点を扱えても、初めての実験課題では一つの特徴に引かれることがあります。
したがって、4段階は発達の大きな見取り図にはなりますが、すべての認知能力が同じ時期に切り替わる厳密な時刻表ではありません。
「自己中心性」は「わがまま」という意味ではない
日常語の「自己中心的」には、身勝手、自分のことしか考えない、といった否定的な響きがあります。
しかし、ピアジェが述べた自己中心性は、特定の課題で自分と相手の見え方や知識の違いを同時に調整することの難しさを指します。
幼児が自分の知っていることを相手も知っていると思ったり、自分から見える向きで絵を渡したりすることはあります。
それは、相手を大切にしていない証拠ではありません。
相手の視点に気づく力、言葉で説明する力、自分の反応をいったん止める力などが発達の途中にある姿です。
また、幼い子どもでも、困っている人を気にかけたり、助けようとしたりする場面があります。
「視点取得の課題に答えられるか」と「やさしさがあるか」を同じものとして扱わないことが大切です。
0~6歳の考え方を読み取る三つのポイント
年齢より、何を手がかりにしたかを見る
「前操作期だから分からない」と結論づけるのではなく、子どもが見た目、言葉、過去の経験のどれを手がかりにしたかを見ます。
答えだけでなく、「どうしてそう思ったの?」と無理のない範囲で尋ねると、その子なりの筋道が見えることがあります。
言葉でうまく説明できない場合は、指さす、選ぶ、実際に動かすなど、別の表し方も用意します。
言葉の発達と考える力は関わりますが、説明できないことが、そのまま理解していないことを意味するわけではありません。0~6歳の言語発達も合わせて見ると、表現方法の違いを捉えやすくなります。
一回の課題を発達判定に使わない
眠い、緊張している、質問の意味が分かりにくい、知らない人に尋ねられたなど、答えには多くの条件が影響します。
一回できた・できなかったという結果から、発達段階や能力全体を決めることはできません。
日常のさまざまな場面で、時間をかけて変化を見ることが大切です。
年齢の目安は、合否を決める線ではなく、次にどのような経験が広がりそうかを考えるための参考です。
できないことより、変わりつつある過程を見る
子どもは、ある日は見た目に引かれ、別の日には数え直して同じだと気づくかもしれません。
自分の視点で話した後、相手の表情を見て説明を言い換えることもあります。
こうした揺れは、発達が止まっている証拠ではありません。
複数の考え方が併存し、場面に応じて使い分けられるようになる途中の姿として見ることができます。
家庭や保育で理論を生かすには
正解を急がず、試せる具体物を用意する
数、量、長さ、重さなどを考えるときは、実物を並べる、移す、分ける、元に戻すといった操作が役立ちます。
大人が正解を説明し続けるより、子どもが予想し、確かめ、考え直せる余白を作ります。
間違いを指摘するときも、「違うよ」で終わらせず、「並べ方を戻すとどうなるかな」「一緒に数えてみようか」と、別の見方を試せるようにします。答えを言わせることより、変化を確かめる経験が中心です。
質問の負担を軽くする
子どもが答えにくそうなときは、短い言葉にする、選択肢を見せる、指さしで答えられるようにするなど、課題の負担を調整します。
同じ質問を何度も繰り返すと、子どもが「さっきの答えは間違いだった」と受け取ることがあります。
答えが変わった場合も、最初の答えを否定するのではなく、「今はここを見たんだね」と、注目した点の変化を言葉にできます。
段階を「教えてよいこと」の制限にしない
「まだ前操作期だから説明しても無駄」「この年齢では分からない」と、経験の機会を狭める必要はありません。
反対に、次の段階へ早く進ませようと、課題を反復させる必要もありません。
子どもの興味に合う具体的な経験、遊びの中での対話、試し直せる環境を用意します。
保育所保育指針も、子どもが自発的・意欲的に環境と関わり、遊びを通して経験を重ねることを重視しています。
また、保育所保育指針解説では、発達の過程や生活環境には個人差があることを踏まえた関わりが求められています。
研究から分かっていることと、まだ分からないこと
現在の研究からは、子どもが環境に働きかけながら理解をつくること、考え方に質的な変化が見られること、課題の言葉や状況によって示される力が変わることが分かっています。
また、認知の各領域がいつも同じ速さで進むわけではなく、経験や文化的背景を含む多くの条件が関わります。
一方、乳幼児が注視時間で示す予測と、言葉や行動で説明できる理解がどのようにつながるのか、発達の連続性と段階性をどの程度重視すべきかについては、現在も一つの答えにまとまっていません。
特定の課題で早い能力が示されたからといって、日常のあらゆる場面で同じ理解が使えるとは限りません。
海外で行われた研究は、課題の言葉、家庭や園での経験、対話の慣習が日本と同じではありません。
日本の研究でも課題形式による違いが示されているため、海外の年齢目安をそのまま日本の子どもの判定基準にしないことが重要です。
まとめ
ピアジェの認知発達理論は、子どもを自ら理解をつくる存在として捉え、答えの背後にある考え方を研究する道を開きました。
感覚運動期や前操作期という枠組みは、0~6歳の行動や遊びを理解するための大きな見取り図になります。
一方、現在の研究では、乳幼児が古典的な課題より早く力を示す場合があること、言葉や記憶、実行機能、課題の状況が結果に影響すること、発達はすべての領域で一斉に切り替わるわけではないことが分かっています。
「何歳だからできるはず」「この課題ができないから理解がない」と決めるのではなく、子どもが何を手がかりにし、どの条件なら力を表しやすいかを見る。その使い方であれば、ピアジェの理論は今も、子どもの考え方を丁寧に読み取るための手がかりになります。
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